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3.ハーゲンをめっちゃ買う。皆で帰る。


全部で2個のアイスを買うはずが、コンビニを出た頃には4個に化けていた。


「ウチの結愛が、今日の今日でホントごめんね!...というか、私までアイス頂いちゃって......結城君ご馳走さまです」


そんな透き通った麗かな声で話すのは、日中に出会った竹内さんだった。

その手には、結城に買って貰った2つのアイスが入ったビニール袋が提げられている。


申し訳なさそうな表情を浮かべつつも、彼女は無邪気で可憐な笑顔を以って結城に感謝を述べる。



結城兄妹がコンビニの前へと辿り着いた時、ちょうど竹内姉妹も近所のコンビニへと、こちらは喧嘩する事もなく仲良しこよしで出掛けに来ていたのだった。


そしてコンビニに入る寸前。結愛に後ろから死角タックルを決められた結城は、そのまま彼女からアイスを執拗に強請(ねだ)られたのだった。結果、竹内さんだけ無しなのは許しませんと自ら豪語し、けっきょく竹内姉妹の分も合わせて4個買う運びと相成った。


(あれ?考えたら俺、今日だけで家族全員プラス竹内姉妹にハーゲンご馳走したんじゃない?一日でこんなハーゲン買ったの初めてだな)


「いえ、ウチの兄なら日がな一日家の中に居て(ろく)にお金も使わないので、全然お気になさらないで下さい」


竹内さんの申し訳なさの入り混じった感謝に、空かさず対応を見せる結城妹。


優緒(ゆい)ちゃんが代わりに俺の財布事情答えるのかい......あ、でもウチの妹が言ってる事は大方合ってるから、本当気にしないで」

「優緒ちゃんご馳走さまです!」

「結愛ちゃんは賢い子ね」

「えへへ」


結愛ちゃんは、結城妹の優緒に頭を撫でられ、ご満悦といった様子である。


こうして見ていれば、結愛ちゃんも年相応の無邪気な子どもなんだなと結城はつくづく思う。


「......いや違う違う。結愛ちゃんそれ俺に言って欲しいやつ。優緒ちゃんも、結愛ちゃんを変な甘やかし方しないの」

「小さい子にアイス勝手にあげておいて無理やり見返りを求めるとか、おに......いや兄貴最低だよ?」

「サイテー」


まるでセキセイインコのように結城妹の発言を楽しそうに復唱する竹内妹。


「えぇ...さっき結愛ちゃんがアイス買ってくれってタックルまでしたの、絶対見てたよね......というか、今お兄ちゃんって言い掛けたでしょ?」

「う、うるさいばか!」

「バカアニキー!」

「この賑やかさ。妹が二人になったみたいだな......名前の響きも似ているし」


結城から結愛を挟んで歩く優緒は、さらに結愛と共に結城から距離を離してそっぽを向いている。


(この二人、良いコンビだな。)


コンビニの前で結愛が結城にタックルをしてきた時、優緒は少し腹の虫が悪そうな感じを見せていたと思う結城だった。しかしすぐに相性ばっちりで仲良くなった事に、兄ながら結城は安堵していた。


(......というか、家族以外の前で素の感じが出てるのも珍しいな。前まで使ってたお兄ちゃん呼びがちょっと戻る位だし。


まあ取り敢えず、ウチの妹から久しぶりにお兄ちゃん呼びを引き出してくれた結愛ちゃんへ感謝しとくか。)


結城はそう考え、心で合掌を思い描く。


そして、結城はふと隣を歩く竹内さんに目線を移す。


彼女は、まるで慈愛に満ちたかのような瞳で、二人の妹達が仲良く喋る光景を優しく見つめていた。


「あの二人、すぐ仲良くなったよね」

「......うん、まるで本当の姉妹みたいだよね。なんか、こうやって見てると、すごく家族みたいな感じ........って、...あっとね⁉︎い、今のは結愛ちゃん達がって意味で!

いやだからって別に、私と結城君は全く関係ないって訳じゃなくて!......あれ?これだとなんか変な感じになっちゃうぅ.....」


うっかり口から零れただけと、手を振りながら必死に言葉を連ねる竹内さん。しかしながら言葉を紡ぐほどに彼女の顔は赤くなってゆく。


「──要はお姉ちゃん、結城のことが好きって事だよ?」


「ゆゆ...結愛ちゃんッ!!?!?」

「まあ結愛も?今日は結城といっぱい会って、好きになる理由が分からなくもないかもだし」


妹の結愛からのキラーパスに、彼女は今日イチ、引いては今までイチの赤面顔を見せていた。


「えっと......」


この様子には流石の結城も、ぎこちない声で反応せざるを得なかった。

優緒もやや驚いた様子で、他三人の表情を見回していた。


当の竹内さんは、まるで魔法でも掛けられたかのように物の数秒間硬直を見せていたが、やがて言葉を発しなければと、必死に力を振り絞って(おもむろ)に口を開いた。


「──あ、」

「あ?」


「──あくまで、友達としてね!!

お家でその......好きな友達のことを結愛に話してて!そこで結城君の名前を上げたら、その...男の子だから少し勘違いしちゃったみたいで!」

「な、なるほど......」


(あれ、俺振られたみたいになってる?

でも何だろう、竹内さんに『あくまで友達宣言』されて、俺の心のヒットポイントみたいなのが全損し掛かってるっぽいんだけど......)


結城は、胸元を手でぎゅっと抑えながら苦しそうなアクションを見せ、背を丸める。


「ゆ、結城君ッ⁉︎」

「いやお姉ちゃん......今の発言、お姉ちゃんに言われれたらどんな男子だって瀕死級の大ダメージだと思うよ...若しくは一撃必殺?」


(......まあでも、結城のあの感じ。結城もお姉ちゃんにちょっとは脈ある感じかもね...良かったね、お姉ちゃん。)


結愛は少々呆れ諭すように自分の姉へ教えを説きつつも、今後の展開をすぐさま構築し、顔に笑みを綻ばせる。


「えっそんな...いや、違くてね結城君!!つまり、えっと...だから。その......」

「お姉ちゃんは友達として好きな結城の事、これからは名前で呼びたいんだってさ」

「......そ、そう!名前!!だ、大好きな友達だから、今度からお互い名前で呼び会えたらなって!......ダメ、かな?」


(お姉ちゃん、好きじゃなくて大好きになっちゃってるよ......)


竹内さんのその表情と声色は、日中に見せたもの以上の圧倒的破壊力を以って、結城の心に突き刺さる。


結城は、圧倒的な情報量を前に脳の処理が追いつかず、思考停止してしまうのだった。


「............え?ああ、成る程そういう事ね、理解理解。...1年以上付き合いあるけど、確かにお互い名字呼びのままだったね」

「う、うん!逆にずっと名字呼びだったから、それが定着して今更変えられない雰囲気になっちゃってたよね」

「確かに。ならそれこそ、竹内さんから言って貰っちゃって本当ありがと......あっ、間違った」


言ったそばからつい名字呼びをしてしまう結城に、竹内さんは少しムッとしたような表情を浮かべていた。


結城は初めて見る竹内さんの新鮮な表情に、先程とはまた比べ物にならない程の破壊力を感じていたのだった。


(やば過ぎるわその表情......竹内さんのブロマイドとか出したら、これ確実にウルトラレアとかだわ。)







お互い名前呼びになってから、会話には幾分かぎこちなさを感じるものの、以前よりも一層砕けた面持ちで和気藹々と会話を楽しんでいるように、優緒は傍目から感じていた。


「......結愛ちゃんは本当に賢い子だね」

「え、何が?」

「ハードルの高い課題を投げかけて、それ自体は達成出来なくても、名前呼びっていうお姉さんが今まで出来なかった事を実現させてあげたんだよね。とても小学生とは思えないよ」

「えへへ、そんな事ないって〜......でも、それなら優緒ちゃんだって!

ウチのお姉ちゃんとお兄さんが二人で話せるよう、歩きながら結愛と一緒に遠ざかったりしてくれたんでしょ?」

「い、いやそれは考え過ぎ。...単に、自分の兄に近づきたくなかっただけだから」

「あっそれは嘘だ〜!結愛がコンビニ前でお兄さんに抱きついたとき、優緒ちゃん凄いムッとしてたもん!

こうやって歩いてる間もチラチラお兄さんの方を見たりしてるし。大好きなんだな〜って、ふふっ」

「そ...そんな訳無いから!へ、変なこと言わないで!!」

「いやいや。そもそも中学生にもなってお兄ちゃんと一緒に仲良くコンビニ行ってる時点で、優緒ちゃんだいぶお兄ちゃんスキーだよ?」

「なッ!......」


結愛の真顔のその一言に、優緒は今までの自分の行動を振り返り、急に顔が熱くなっていく。


「あ、赤くなった〜!」

「う、うるさい!!」


優緒は片手で頬を少しばかり覆い、もう片方の手で結愛からの視線を遮ろうと頑張る。


「結愛ちゃん、放っておくといつか兄貴に変なこと吹き込みそう......」

「じゃあいつでも監視できるよう、結愛と連絡先交換する?」

「そうしとく......結愛ちゃん、LIMEはやってる?」

「うん、やってるよ〜!......はい、私のQRコード!」

「......うん、オッケー。登録できた。ありがとう結愛ちゃん」

「きゃ〜。これで結愛、優緒ちゃんに24時間監視されちゃう〜ッ!」

「こらっ、夜の住宅街なのに変なこと大声で振り撒かない」

「えへへ〜ごめんなさい。......でもやっぱ。お兄さんと一緒で優緒ちゃんからも優しいオーラが滲み出てるね!」

「何よもう、急に......」

「何でも〜!」


そう言ながら手元でスマホを俊敏に操作し終えると、結愛は無邪気に走り出す。


それと同時に、優緒のLIMEへ結愛からメッセージが届く。

優緒は画面上部に現れた通知をタップして開いた。


【ゆあ♡:ゆあです♡よろしくね!!!】


【ゆあ♡:P.S.やっぱ優しいゆいちゃんには、自然と出ちゃうお兄ちゃん呼びの方がしっくりくるとゆあは思うな!

でも照れてお兄ちゃんに当たるゆいちゃんも可愛いかった〜❤︎❤︎❤︎】


「......結愛ちゃんッ!」

「あははっ、だって本当のことだもん」

 

けらけらと笑いながら逃げる結愛。そして、怒りつつもその表情には無自覚な愉しさの混じる優緒だった。


「なんかあの二人、やっぱり本当に姉妹みたいだね」

「本当だね。...なんかでも、さっきと姉妹の関係性入れ替わってるような......」


結城と竹内さんは、妹達の追いかけっこ姿を優しく見守っていた。


コンビニから暫く歩き、漸く結城家と竹内家の帰路が別れる地点へと到着した四人。


「それじゃ私達はこっちなので......今日は結愛ともども、ありがとうございました。...それじゃあまた連絡するね。優緒ちゃんもまたね!」

「ううん、こっちこそ今日は色々とありがと。それじゃあまた後で。結愛ちゃんもまたね」

「此方こそ兄がお世話になりました。またよろしくお願いします」

「兄がお世話になりましたって...」

「事実でしょ」

「『それじゃあまた連絡するね』?。お姉ちゃん、結城といつの間に秘密の連絡取り合う約束したの〜?詳しく結愛にも教えて〜」


一人だけ別れの挨拶に紛れたキーワードに反応した結愛が、ここぞとばかりに姉を捲し立てる。


「えっ⁉︎...えっとね?べ、別に秘密の連絡とかじゃなくてね⁉︎...その、学校以外でお話とかあんまりした事なかったし......」

「結愛ちゃん、あんまりお姉ちゃんのこと困らせないの」

「えへっ、ごめんなさい優緒お姉ちゃん!」


(実の姉が翻弄されて、ウチの妹が姉みたいに結愛ちゃんの事を(たしな)めてる構図......)

「それじゃあもう辺りも暗いし、気を付けてね」

「うん!ありがとう。......そうだ、アイスもご馳走さまです!」


竹内さんは手に提げたビニール袋を軽く持ち上げると、丁寧に会釈をした。


「優緒ちゃん!私達も負けてられないよ!このあとお姉ちゃん達みたいに秘密の連絡しよ!」

「またそうやってからかわない。.....まあ、別に良いけど。...帰ったらまた連絡する」

「うん分かった!ツンデレ優緒ちゃん!」

「ちょっ⁉︎......変な渾名付けないで!!」


こうして二組は、少し名残惜しくもといった様子で、最後まで賑やかに別々の帰路へと歩みを進め始めたのだった。







「......優緒ちゃん、やっぱツンデレなの?」

「次それ言ったら一生口きかない」

「はい、ごめんなさい。......でも優緒ちゃん、今日の今日で凄く結愛ちゃんと仲良くなってたね」

「...まあ。あの子、頭の回転早いし、喋っててあんまり歳下感ないというか......なんか話してて楽だった」

「そっか。良い友達が出来て良かったな」

「うっさい、兄貴面すんな」

「えぇ辛辣......」


結城兄妹は、いつものように会話に華を咲かせる。


「そういえば優緒ちゃん。結局抹茶ハーゲン買ったね」

「...べ、別に良いじゃん。美味しいんだし......というか、いくらハーゲンでもこれ以上溶けたら美味しくなくなるから、早く帰ろ.........お兄..ちゃん」


優緒は気恥ずかしそうにそっぽを向きつつ、最後に小声でぼそっと呟く。


「ん、どうかしたか?」

「別に...なんも」

「いま確かに、お兄ちゃんって聞こえたんだけどな」

「は?聞こえてるじゃんバカ!!」

「ごめんごめん、冗談だって」

「...本当キモい!!」

「兄ちゃんはどう対応したら正解なんだ......」





























家に到着する頃。


ハーゲンとはいえやや許容し難い程に。持ち帰ったアイスは、クリーム感増し増しな溶け具合を呈していた。


「お母さん、この溶け溶けでアイス感少なめのクッキークリームハーゲンが大好きなの。息子センスグッジョブ!」


意外にも、母の御眼鏡に叶う事ができたのだった。



『結婚・付き合い・絆』

身近な仲人によってその距離はさらに近づく。その機を逃さぬが吉。

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