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2.妹に尖られる。アイスを買いに行く。

「も〜う……結愛……。速いってばあ……」

「ゆ、結愛ちゃん...陸上競技かなんかやってる?」


浅草寺を離れてから、既に十数分が経過していた。しかし、結城と竹内さんは、未だ結愛に追いつけていなかった。


(……い、いや。速すぎるし。そんなガチの『追いかけてごらん!』だとも思わなかったんだけど⁉︎)


「そんなんだからお姉ちゃん、太っちゃうんだよ?」

「……ゆ、結愛ちゃんッッ!!! 」


今日イチの赤面顔で恥ずかしがる姉の竹内さんと、悪戯な表情を顔いっぱいに浮かべる妹の結愛に、やっぱり二人さ本当に姉妹なのかと、結城は再び疑いを抱く。


「……結城くん。今の……聞いた?」

「……え、何の事?」

「良かった……あ、いやごめんね! 何でも無いの!」


(...うん、此方こそごめん。その話、とうの昔にそこの小悪魔から聴かされてるんだ……)


今日は一人で過ごす気分の筈だったが、この二人と居るとそんな事はとうに忘れてしまう。


まあ今日は天気も良いしそのせいもあるなと、細かい事は気にせずまた二人と駆け出す結城だった。









和気藹々(わきあいあい)と走る三人の、車道を挟んで向かい側の歩道に一人。


コンビニでアイスを購入した帰りの結城妹が、春の陽気に当てられ若干暑そうに歩いていた。


その片手には、帰宅を待ち切れず食べてしまったアイスバーの棒が握られている。


そしてもう片方の手で持ったビニール袋には、今朝『GWずっと家に居るのマジ陰キャじゃん』などと、自分的に少々言い過ぎたと後々ちょっぴり良心の呵責を起こして購入した、兄への謝罪用アイスバー(295円)などが入っていた。


(別に兄貴の為とかじゃないし。自分の発言履歴に変な罪悪感残しときたくないだし.....うわ。なにこれツンデレじゃん、気色わる。)


「……ゆ、結愛ちゃんッッ!!! 」


可愛らしい荒げ声が、結城妹の耳に心地良く届く。


(うわ何あの女の子達、姉妹? 超綺麗なんだけど。

というか一緒に歩いてるのって......もしかして彼氏さんとか⁉︎ 妹さん連れてデートとかやるわ〜。)


結城妹は、自分より歳上っぽそうな黒髪少女の横で、楽しそうに歩く男の顔を凝らして見た。


「……結城くん。今の……聞いた?」

「え、何の事?」

「良かった……あ、いやごめんね! 何でも無いの!」


(知らぬ間に私を差し置いてリア充ライフを送ってた兄貴……許せん。)


事の真相を目の当たりにした結城妹は、目くじらを立てながら兄への謝罪用アイスバー(295円)を袋から取り出すと、荒々しく開封して何の未練も無く食べだすのだった。









「ただいま〜。......お、丁度良いところに。はいこれお土産の、ちょっとリッチな抹茶ハーゲn──」

「──話し掛けんなこの陰キャリア充。陰キャ移るし幸運吸い取られるから近寄らないで」

「え、ちょ......何その発想、どんなハイブリッド?」


帰宅して早々の兄に捨て台詞を吐いた後、結城妹は一目散に二階の自室へと駆け上がっていった。


「アイスは冷凍庫入れといて!後で食べるから!勝手に食べたら一生口きかないから!!」

「えぇ......」


二階の自室へ入る間際にそう怒鳴ると、ドアは壊れないようそっと丁寧に閉めて自室へと立て篭るのだった。


(最近......いや思えば昔から俺に対しては手厳しいのは確かだが。

ウチの妹は、人への礼儀や義理に関してはめちゃくちゃしっかりしてて、動物やモノも凄く大切にする本当に優しいやつで、兄としては普通に超誇らしい存在だ。マジで......、いや多分...)


「兄ちゃんはお前が誇らしいぞー」

「意味分かんない!キモいし溶けるから早くアイス閉まっといて!!」


二階の自室から、壁に阻まれくぐもりながらも、妹の荒げ声が聞こえる。


「兄貴のメンタルよりアイスのケアとは流石......オッケー了解!」


結城は妹のオーダーに従い、リビングの方へと迅速に歩みを進め、冷蔵庫下の冷凍室を手早く開ける。


すると冷凍室へ先客のようにして入っていた抹茶ハーゲンに、付箋が貼られていた。


《2個食べたからあげる。あと朝はちょっと悪かった。》


ウチの妹、やっぱメンタルケア最強かよ。


『言うならばこれは、ツンデレセラピーか』などと適当なアイデア出しをしつつ、自分の購入した抹茶ハーゲンを冷凍庫にしまい、妹が買って来てくれた方の抹茶ハーゲンをリビングのソファでゆったりと食べ始める。


(多分俺の買ってきた抹茶ハーゲンより美味いな。)


いつもの如く、抹茶ハーゲンを食べながら妹贔屓を繰り広げる結城であった。









「私のみたいにちゃんと付箋貼っておいてよバカッ!」

「食べちゃったのは父さんだから、あまり責めないでやってくr──」

「──お父さんは関係ないからちょっと黙ってて」

「はい」

「本当いつも仲良いわね〜」


母親はとても楽しそうに、その光景をキッチンで食器を拭きながら眺めている。


その日の夕方、結城家のリビングではいつものように兄妹喧嘩(という名目上の一方的なお叱り)が繰り広げられていた。


結城は、妹が自分と父親(・・)にだけは手厳しかった事と、『ト○とジェ○ー、仲良く喧嘩しな♪』で始まる某ネコと某ネズミが追いかけっこする愉快なアニメの主題歌を唐突に思い出していた。


「......いや、父さん。これは俺が至らなかっただけの事なんだ。父さんは何も悪くなんて無いよ」

「息子、お前......」


この息子の発言を成長したとばかりに捉える父親は、まるで感涙したかのように声を震わせていた。


「アンタ大丈夫?頭でもぶつけたんじゃない?ふふっ」

「母さんがいつもの如く愉快なご様子で息子も何より」

「お父さんとそんな三文芝居は良いから、早くアイス買ってきて」

「ら、ラジャ」


結城は妹の声にびしっと敬礼の如く返事をすると、リビングテーブルに置いておいた財布を手に取りすぐさま玄関へと駆けていった。


「ママ、うちの娘が一向に優しく接してくれないんだけど......」

「逆にパパへはいつもあんな態度だから、反抗期なんて最早来ないと思えば気が楽なんじゃない?......あ、ついでにお母さんにもアイス買ってきて〜」

「オッケー。何系の何味とかある?」

「息子のセンスに任せる」

「え、それ一番キツイやつ......」


靴を履きながら、今までのMEIDAB*Mother’s eating ice data base《母親の今まで食べたアイス履歴》を頭の中で名いっぱい参照する結城。

しかし脳内データベースでは一向に最適解が弾き出せず、靴紐を結ぶのに手間取っていた。



「──何トロトロ靴はいてんの?」



「あれ?」


隣には、同じく玄関に座って靴を履いている妹の姿があった。


「......何、自分で行って決めちゃダメなの?」

「いや、だっていつもの好きな抹茶ハーゲンでしょ?俺一人で買ってくるよ?」

「今日は違うのも選んでみたい気分なの。それにお母さんの好み私の方が知ってるでしょ......ていうか遅い、先出てるから」

「そっか、ありがとな」

「......別に」


(一生口きかないとか言って秒できいてくれたり、俺が母さんのアイス選ぶのに苦労しそうだから付いてきてくれるとか......ウチの妹、やっぱりツンデレセラピストか。)


こうして結城家の兄妹は、喧嘩(一方的な攻撃)を繰り広げながらも、夜のコンビニへと二人仲良く向かうのだった。

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