王の息子たち
目が覚めた時、視界の歪みが取れた様な、不思議な感覚があった。自分は、壊れていたと妙な納得をしていた。
今も不安がある。自分は、これが本当に自分であるのかと。
ナイジアナ国王が、後世の為に自分を創り眠らせた。起きた時に見るのが新しい主だ。そう思って眠りにつき、起きた時にあの一座にいた。自分は上手く話すことも喋る事も出来ず、飯も食べずに生きる神聖な何かと触れこみ、見世物としてただ見ていた。正常な起動ではなかった事と、太陽フレアにさらされて損傷が起きたのだろう。そんな自分をただのアルビノの子供が見世物にされていると思い、ジェーム帝国が攫った。自分が死刑にした男は、最後にコユキには手を出さない事を懇願した。そして、何のいい訳もせずに死んだ。
帝国でいくらかの修理はされたが当時の第一巫女ができる範囲は限られていた。その中に、神官を傷つけないように命令が入れられたせいで、自分はより歪んだ。だから、神官にこのまま死んでもらうため、神官が助けを求めるジェゼロの神を妨害しようとした。ナイジアナをナサナが滅ぼしたと一座の者が語っていたから、ナサナ国を戦火に落とそうとも考えてしまった。
自分が守るべき国に厄災を落とそうとした自分を、受け入れてくれるとは思っていない。それに、あの女性には悪い事をした。ミサ・ハウスはエラ・ジェゼロを憎んではいなかった。むしろ逆だったのだと今はわかる。けれど、自分はその間違いを報告しなかった。そんな事を望んでいないとわかるからだ。彼女が自分の協力者になりその上で非協力的だったから、自分はあれ以上の大罪を犯さなかった。
監視の元、一度だけ会えたが、余計な事を言うなとだけ罵られた。帝王とエラに、彼女を死刑にだけはしないで欲しいと頼んでいる。自分には、それくらいしか彼女にしてあげられることがなかった。
「シィヴィラと言ったか。それが本当の名か? シィヴィラとは、巫女の意味だろう」
ジェゼロへ来る前、里帰りと称して入ったナサナで一度会ったフィカス王は、その時と変わらぬふてぶてしさで言う。
あの後、失踪して王城に濡れ衣を着せようとしたが失敗した。おまけに白い姿の自分は人攫いに見つかり、ジェゼロへ逃げ込む途中国境のナサナ兵にまで追われて、共倒れをしてくれたから、なんとか助かった。いっそ、捕まっておくべきだったと今は思う。
「名前は、ありません。帝国ではシィヴィラと」
「……事実はさておき、憐れだな」
同情ではなく嘲りだとわかる。実際、今の自分は憐れな姿だった。
「我が国の信仰はジェゼロと同じはずだ」
「……自分は、ジェゼロとジェームの神とは異なります。彼ら二人は旧人類と呼ばれる時代に創られました。自分は、地下で新たに創られたモノです。だから、質としても、劣ります」
「つまり、今の我々の時代にも神が作れたと言う事だな?」
「今後発展すれば、人を模した自分たちのような機械はつくれましょう。ただ、費用は膨大になります」
その答えには不服そうだった。自分の知るナイジアナの王は温和で優しい方だった。この王は、末裔にしてもあまりに似ていない。
「その……国はわかりました。ですが王は、その一族とは別になっているのでは?」
ジェゼロでは厳格に、ジェームでは神官自らが王を選定した。ナサナとなったナイジアナは、いったい誰が血を守れたと言うのか。
「……王は神酒を飲み、生き残った者しかなれない風習が残っている。悪習だが、お前の為の習慣だったと言う訳だな」
人の様に子を産めない我々は、製作者や近しい者を愛することはできた。だから、その者たちの子にまで執着する悪癖があるのは事実だった。
より強い子孫を維持するための薬物が未だに残っていたのかと恐ろしくすら思う。
「その試練を乗り越えたと言うのならば、貴方が私の王だ」
例え、我が強くとも、それを支え次代を見守らなければならない。
「お前の王になどなるつもりはない。そもそもナサナには職業奴隷はあっても真の奴隷を持たぬ国だ。あれは美しくない。お前を国の奴隷とするなど趣味の悪い事はせん。お前がジェーム帝国の神聖な巫女でありながら、ナサナに魅了され、奉仕という仕事に従事したいと言うのならば、受け入れてやろう」
きっと王子として甘やかされて育ったのだろう。だが、人としての美徳という独特な価値観を垣間見た気がする。
返事をしようとした時に、ノックの後、オオガミ殿が入ってくる。
「入れとはまだ言っていなかったと思うが?」
フィカス王があからさまに不機嫌に言うが、相手はそれ程気にせず瓶に入った何かを見せる。糸か髪のようだ。
「糞王から頼まれた。占いだって相手の情報がないとできないだろう? とっととブツを出しな」
王に対してあまりにも酷い口の利き方だ。
「……お前も内容を知るのか?」
「ロミアの弟子だからな。安心しろ、口の閉じ方くらい知ってる」
何の話かは知らないが、フィカス王は立ち上がると鍵の付いたトランクを開け、中から一抱えの宝箱のような物を取り出した。それにも鍵がかけられている。
「疑いのない事実として男親を知りたい」
自身のしていたネックレスから鍵を外し言う。それだけ厳重に開けられない様にしていたのだ。中味はどれだけ大事な物なのだろう。
「随分多そうだな。何人分だ?」
言いながらオオガミが箱を受け取る前にさっと手を伸ばし、フィカス王の髪を掴もうとする。あっと思った時には、フィカス王が距離を開けていた。
「お前、頭軽そうなのに武人の類か?」
空を掠めた手を何度か握り楽しそうにオオガミ殿が言った。
「他国で気を抜くほど馬鹿と思われていたなら心外だ。次は叩き切る」
「おっ、いいねー。俺も案外強いぜ?」
掴みどころのない調子で言う相手にフィカス王は不服そうに眉根を寄せた。
「俺の髪も中にある。見ればわかるよう仕分けもしている。万に一つもない話だがな」
「もし、持主が分かっても、おれが拾ったもんだ。礼金を出されても、渡しゃしないからな」
次は素直に箱と鍵を受け取る。フィカス王がオオガミ殿の髪に手を伸ばし毟り取る。ぶちっと音がした。指に絡んだ髪を、箱の上に叩き置く。
「家系だけに、お前がそうでないとは言い切れん。ちゃんとこれも調べろ」
「槍の名手と噂に聞くが、正式な手合わせは真剣同士でやろうじゃねーか」
ジェゼロの王族である男はにやりと笑い返す余裕を見せた。
フィカスが今回一番警戒しているのはオオガミかもなぁと見返して感じた。この二人は反りが全く合わないだろう。間にベンジャミンを置くと収まりがいい。




