朝が来た
鳥の鳴き声で目が覚めた。
「……」
はっとして起き上がると、自分の寝室、王の私室にあるベッドで眠っていた。当たり前の事だと言うのに妙な気分だ。それに、ベンジャミン達が少し休憩をと無理矢理部屋に押し込まれたところまでは覚えている。既に朝だ。寝過ごしたと言っていい。夜の間にナサナから使者が来るはずだったのに。一昨夜は一睡もできなかったからその疲れも出ていたのだろう。それに、起こしに来てくれる人が自分にはもういない。
状況の確認をしてから身支度をしようと部屋を出ると執務室に同じ顔が二つ並んでいた。
「左右! どうしてここへ?」
ナサナ国の使者に追従してきたのか、予想外の来客に驚いてしまう。
「ジェゼロ国の王様であるとは知らず大変失礼をしました」
二人揃った言葉で言われる。
「この度は、フィカス陛下よりジェゼロ王への供物としてやってまいりました」
「私たちの力は微々たるものですが、どうぞ良いようにお使いください」
それぞれの言葉に起き抜けもあってぽかんとしてしまう。
「一先ずはお召し代えのお手伝いを」
揃った言葉に一歩下がる。
「ジェゼロは自主性を重んじる国だ。それに人を物として頂く事は出来んよ。会いに来てくれたのは嬉しいが……」
どう逃げるか考えていると応接室からのノックがある。入ってきたのはエユだった。どこかベンジャミンが来ると思っていた。
「エラ様、少しお話が」
「ああ」
退席するよう言う前に左右の二人は一礼をして部屋を出た。
「ナサナからフィカス・ベンジャミナ様と宰相のイエン殿が、昨晩到着しました」
すやすやと休んでしまったのは失態だった。元々よく寝る性質だから仕方ないと言えばそれまでだが、一国の王としては失格だろう。使者が来るとは聞いていたが、まさか国王自らとは。
「エラ様、議会院議長という大役を頂き務めたいとは思っています。だからこそ、今回の会談は私ではなくハザキに一任したいと考えています」
「……ハザキに? 誰かがそう進言をしたのか」
疑問に対してエユは困ったように笑った。
「遠回しにエラ様から……。闇閨はベンジャミンを希望されるのでしょう? 議会院長でありながら、私はそれを認める程度の技量しかありません。本当ならば議会員も見合っていないというのに、他国との交渉までは荷が重すぎると。それに内政を立て直すことに尽力をしたいと考えております」
「……ベンジャミンの事は、まあ、反対だろうな。周りは不思議とみんなそうだ」
「ベンジャミンとは既に関係が?」
緊張した顔で問われる。
「心配をせずとも、私もあれも、節度と立場を理解している。会談については、ハザキで構わない。私自身がどんな内容かわかっていない状況だ。老練の最たる彼なら文句もない。議会院長はこの半年の検証も含め多忙になるだろうからな」
「ありがとうございます」
「ハザキは密偵の容疑がかけられていたが、それは大丈夫なんだろうな?」
それに対して事実の有無よりも噂になることが問題だ。
「ハザキの両親は早くに亡くなっており、恐らくその代まではそのような仕事も。彼自身からはジェゼロの善良な住人であったかと」
「母や祖母が知らないわけはないだろう。その上で議会院長をさせていたのだから余計な心配だな」
「一度打ち合わせをしたいと思う。後で来るように伝えておいてくれ」
「わかりました」
「それと、ナサナからの左右の、今いた双子はどういうことだ?」
「ベンジャミンから二人は亡命目的で積み荷にいたのではないかと。ナサナ国王は、二人も祝いの品だからこちらで好きに使うようにと。如何しますか?」
「……優秀な人材だ。しばらくは城で世話をしてやってくれ、ナサナでは二人に世話になった。後は本人たちの意向にあわせて市民権を与えよう」
「かしこまりました。後、大量にエラ様へ布や衣服を持ってこられていますけれど、どうしますか?」
「倉庫に保管してくれ」
「……それは、少しもったいないですね」
エユがベンジャミンみたいなことを言う。




