元議会院長もキレる時がある。
ジェーム帝国の調査部隊が城門の前で止められている。その調査部隊が呼んでいるとハザキはやってきたが、ジェーム帝国で調査部隊に所属するような異才と知り合いはいない。
「どうした?」
「それが……その者をエラ様に会わせたいと言われていまして、城内へはリンドウ様の護衛として以外はジェーム帝国の者を入れられませんので」
そのリンドウ様が一緒にいればいいが、今は設営地へ戻って、帝国への早馬の用意をしているはずだ。
「申し訳ないが、今は立て込んでいます。リンドウ様と一緒にまたお越しください」
あの衣装の中に隠していたのだろうが、随分若い客人だ。ジェーム帝国でエラ様がお世話になった相手か。ベンジャミンからの話では出てこなかった人物だが、あれが素直にすべて吐いているとは思っていない。
「フヅキくんは顔パスじゃないの?」
その少年、いや少女? が一人の白服に向けて言う。
「………フヅキ、だと?」
両サイドの白装束がわずかに警戒した。それに対して真ん中の者が大丈夫と手で制した。その動きに腹が立つ。自分は衝動で動くたちではないと思っていたが、その者の近くによると、何の前動作も予告もなく溝内に拳を叩き込んでいた。一撃の後は、自分がそれを守るの者たちから攻撃を受けぬよう、瞬時に後ろへ距離を取る。
膝をつきながらも、その男は両脇の警護を制した。門番が何事か理解できずに慌てている。自分が帝国の者をいきなり殴ったのだから当たり前だ。
「私は言ったはずだ。二度と係るなと」
苦々しく吐き捨てる。頭は冷静だが声を荒げている事に自分でも驚いた。いや、冷静さが欠けた結果だろう。
「設営地に戻れ、二度と城に近づくな。殺さないだけ感謝しろっ」
「おぅ、ごめんね、名前言っちゃ駄目だったんだね」
エラ様に会いたいと言う暢気な来訪者が、この状況でも暢気に言う。
「何事ですか? ジェーム帝国と揉め事は自重してください」
走って出てきたベンジャミンが通りすがりに言う。こちらの事案で来たのかと思ったが、止める間もなく馬小屋に入ると馬に乗って出てくる。手にはタオルを抱えて坂を駆け下りて行く。
「……まさか、恥ずかしげもなく我らの王に会ったのか?」
ベンジャミンに問いただすのを諦め、目の前のそれに問う。
「秋晴、ちょっと落ち着こうか。今は言いたいことも多いだろうけど、この方はとても大事な人でね。ジェゼロ王のためにも私怨は棚上げしてくれないかな」
「私怨? だと?」
明確な殺意が沸く。ジェームのどこの馬とも知れない男がジェゼロ王の父などあってはならないことだ。あのサウラ様が逃げ帰るほどの大罪だ。二度と会うことはないと思っていたが、ジェーム帝国の助けを借りたと分かったことで嫌な予感はしていた。この事実をエラ様が知っているのか。少なくともベンジャミンが大衆の前で話すことはなかった。帝国が事実を知り、利用するために手を貸した可能性を考慮しなくてはならない。せっかく正しい王が戻ったというのに、内乱が起こる可能性すら出ている。
「話長くなる? 僕暇だからお馬さん見てていい?」
到底重要には見えない人物が言う。
その後ろを早馬が坂を駆け上がってくるのが見えた。恰好からして国境の検問所からか。
「ハザキ様、ナサナ国からの使者がこちらへ、ジェーム帝国の調査部隊が、ジェーム帝国が呼んだと検問を通ってしまいました。その、申し訳ありません」
「……ナサナ国が?」
ベンジャミンがジェーム帝国へ入る前にナサナ国で一度姿をくらまし、その際に国王と交友ができたとかなりぼかして言っていた。国政が安定してからエラ様が呼んだと言うならまだしも、この時期になぜ帝国がナサナをここへ呼ぶ。
「ジェームは何のつもりだ」
「三国会談をしたいんだよ。時代が変わるからね、侵略はもう飽きたから、平和な世界にしたいんだ」
二十年前にこの博愛的な胡散臭い男が、サラ様に近づくのを許容した自分がそもそもの戦犯だ。
「その、いかがしましょう」
普段ならば絶対に通さない相手だが、国政が慌ただしく他国まで入っていた混乱のある状況の所為か。入国確認の為に数日滞在したのち、許可の有無が出るというのに。自分が議会院長をしていた時には有り得ない失態だ。現場の混乱は想定以上なのだ。
「お前たちは直ぐにエユ議会院長へ報告してくれ。こちらからも迎えを寄こしたい」
議会院には戻ったが、議会院長ではないのだ。一任で決定は出来ない。何よりも、この男から目を離し、どこかへ行かれる事こそが問題だ。自分はここを動けない。




