表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国王陛下、只今逃亡中につき、騎士は弱みに付け込んだ。  作者: 笹色 恵
       ~ジェゼロ国に戻りて~
43/64

神殿から神はどこへいったのか



 神殿に入ると出た時と何も変わらない。シィヴィラも眠るままだ。

「ジェゼロの神はまだ起きてはいないのか?」

 どことなしに声をかける。

【ロミアは既に上にあがりました】

「……廊下では会わなかったぞ」

【教会へ続くエレベータで上へあがりました】

「島には別に出入り口があったのか?」

【はい】

 ため息が出た。

「神はどんな姿をしている?」

【とぼけた感じです】

「……」

 天から降る声は淡々としていてどこか左右達を思い出す。

【王として認められることはできましたか?】

 神が黙り込んだ後、この愛想のない女性と話していた。さぽーとしすてむアビーと名乗った者に事情を話し一度戻ったが神をここに待たせてはくれなかったようだ。

「ああ、水が戻ったことで王と認められた。あれはどうやったんだ」

【発電用貯水槽から湖に予備水を戻しました】

 地下にはこれ以上の大きな空間があるのかと恐ろしくもある。

「エラさん」

「ひっ」

 後ろから肩を叩かれて驚いて逃げた。振り返るとシィヴィラが立っていた。さらに身構えるが向こうも驚いた顔をしていた。

「……僕がしたことを思うと、仕方ないですね」

 視線を伏して、演技にしたって気持ち悪い愁傷さだ。その場に膝をついたかと思うと、三つ指を付いて頭を下げる。

「君とミサ、それにジェゼロの人々には本当に申し訳のないことをしてしまった」

「お前、どうした? 気持ちの悪いぞ」

 何かの策略かともう一歩距離を取った。

【バグが発生していたため修復プログラム処理を実行しました】

「?」

 プログラムというもので、電気で動くオーパーツはより複雑な動きをすると学んだ。精密な機器は人や動物のように病気や怪我で壊れ、それをある程度は修復できるらしい。天の声はまるでシィヴィラが精密機器のオーパーツの様ではないか……。

「シィヴィラも……神の種族なのか?」

 ジェーム帝国の神官の姿を思い出す。別世界の生き物の様でもあったが、それは第二巫女に教授してもらったオーパーツの最上位だと聞いた。人も動物が進化した形であるように。

「僕は本来ナイジアナ国で眠っていたはずのネビューラです。国が滅び、夜盗に無理矢理起動され、太陽フレアの影響に曝されたことでバグが蓄積し、ジェーム帝国に保護され今に至ります」

 頭を下げたままの説明にやっぱり気色が悪いというのが先行する。

「……故障していたのに、こんな直ぐに治る物なのか?」

「ロミアが手を加えてくれたおかげで……神官はご自身では動けないので、修理をできず悪化しない様にだけ巫女様が」

 理由は、自分では理解できない天上の物と一度割り切り息をつく。

「頭を下げるのはミサ相手にしろ。お前が騙したんだな」

「ミサ・ハウスがベンジャミン・ハウスを好きであるのに付け込み、邪魔なあなたを投獄できると。それに、ハウスの神父にミサが脅されているのを知り、それを利用しました」

 頭を上げたシィヴィラが言う。

「そうか……」

 自分は何をしにここへ来たか一度考える。

「ジェゼロの神はどこへ行った? 何かあっては事だ」

【教会へのエレベータを利用しますか?】

「ああ」

 案内に従って、さっきとは別の場所にある例の箱に乗り込むとシィヴィラもしずしずと着いてきている。密室で暴れられてはと無意識に警戒する。

「どうして神殿に入りたかったんだ」

 シィヴィラは自分を直したかったのか。それならば、あまりにも遠回りだ。

「僕は、自分を人だと理解していました。だから、神官やここにいる物から人を解放したかった」

「お前がそれほど人類を愛していたとは思えなかったけどな」

 ドアが閉まり重力を感じる。

「国がなくなったことによる混乱が一層自分を狂わせたのです。私はそれを守るために創られた。なのに、目を覚ませば生きる目的がなくなっていた」

 密室でドアが再び開くまで、殺そうとしてこないか心配だったが、到着しても大丈夫だった。着いた先は小島にある教会の地下倉庫を更に降りた場所だった。階段の行き止まりにレンガの壁があるだけで子供の頃に不思議に思っていたが、ドアが閉まるとその壁が出入り口になっていたと今初めて知った。

 とにかく神を見付けておかなければと教会を出る。一通り見て回るがジェゼロの神どころかシスターもいない。もちろん船もない。

 シスターの迎えと一緒に船で渡ってしまったのか。ならば地下道を通った方が早かった。

「エラ様?」

 時計塔から降りて来たホルーが不思議そうに声をかけてくる。

「ホルー、まだ残っていたのか。船はどうした?」

「ジェーム帝国の怪しい一行にカツアゲされました。今船を寄こしてもらうように連絡はしたんで」

 後ろのシィヴィラを訝しみながらホルーが言う。時計塔の上から光を出して城の監視に連絡を取る方法がある。それをしてきたらしい。

「ジェーム帝国はなにをしにここへ?」

「追加調査とかで……あ、上から許可がありました」

「連れてきたのは私だ。咎めてはいないよ。他に見知らぬものはいなかったか?」

「いました。船をつけて、呼びに行ったら横道に隠れていたのか、船に戻ったら既に出発されていまして……遠目でしたがおかっぱくらいの茶髪が、町の者かまでは何とも言えませんが、ここに来られる者の中にはいないですね」

 調査部隊の中身は帝王殿が一任していると聞く。神官殿から指示を受けここへ現れると考えての事か。無事に自分が王に復権したと見て、帝国への約束を違わせぬように勝手にジェゼロの神を連れて行きかねない。彼らの目的は達成した後もはっきりとはまだ見えていなかったと今更実感する。

「まだ岸にはついていないんじゃないかと」

「早く言ってくれ……シィヴィラはホルーの指示に従え、ホルーはシィヴィラを城へ連れて行ってくれ」

「あ、はい。え……ちょっ、エラ様? もしかしなくても泳いで行くつもりで!?」

 上着を脱いで髪を頭上でまとめ上げる。

「案ずるな、溺れたりはせんよ」

 ジェゼロの子供はみんな泳げる。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ