意志をもって
牢屋に新人が連れられてきた。それに対して噴出した。
「ぶっ、マジかよ! シューセイとベンジャミンがセットで捕まってるとか気色わりー」
「ここに居たんですね。まあ、死んでないならエラ様には吉報だ。お優しいエラ様は自業自得の阿呆に対しても同情されてしまう」
「お前たち二人と違って私は冤罪だ馬鹿者ども」
笑うのに対して二人して毒を吐き返された。罪状は知らないが元気らしい。
「つーか、おいベンジャミン。お前が捕まったって事はまさかエラまでじゃないだろうな?」
「エラ様が捕まったのであれば、自分が無傷で捕らえられる義理がない」
「お前が潰した神聖なる儀式の場の代わりどこかで儀を行われるらしい」
「え、あれって俺は御手柄だと認識してんだけど。あれより中にシィヴィラを入れたらことだろ」
妙に手慣れた感じに二人して牢に入った後、後ろ手の枷を看守に外させる。
「クソガキはともかく、今更お前が捕まったのはなにした?」
「……スパイ容疑だ」
「あ、それは事実だろ」
きっつい目で睨まれる。
「私が密偵になったことなどない」
まあ、シューセイの代からはそうかもしれない。あまり突くとへそを曲げると話を変える。
「ベンジャミン。そっちはエラとずっと一緒だったのか? 勝算があって戻ったんだろうな。もしエラに何かあったらここから逃げても殺しに行くからな」
「まあ、色々とありましたが、最善は尽くしました」
ミサに捕まったわりに満足そうだ。
「城を出て傷心のエラに付け込んで、どこまでいった?」
別独房だが間は鉄格子だけで近くによってゲスに聞いてみる。
「……随分と無粋な質問ですね。そう言う発言は同性間でも控えるべきですよ。あなたに配慮と常識を求めても無駄でしょうが」
「ベンジャミン・ハウス。ここから出られたとしても、エラ様への不貞行為があった場合はもう一度ここに叩き込むか国外に行ってもらう」
シューセイが議長だったころの様に言う。
「ハザキ元議会院長。議会院で私が国王付きを解任されたことをお忘れでは?」
勝ち誇っている悪餓鬼にシューセイは苦々しい顔をしている。
暇をつぶすには適した人材たちが来た。
無事に城から出られたものの、あの男がいないと何もできないのではと少し心配をしていた。
街の者に見られないよう白装束を被り、野営地に戻ると既に食事が届けられていたが誰一人手を付けず、廃棄していた。代わりに持ち込みの材料で夕食ができるところだ。
「やはり毒が混ぜられておりました」
報告を受けため息をつく。
「それが囮の可能性もあるわ。警戒を怠らない様に」
シィヴィラはこの部隊を嫌っている。いや、ジェーム帝国へ連れて来た彼らを憎んでいる。安易に殺したがる巫女様の事だ。一度の失敗で諦めはしないだろう。むしろ、こちらが囮として役立てばいい。そうなればエラ・ジェゼロは彼女の仕事がしやすくなる。
「服を着替える。その後の護衛は必要ない」
「それはできない相談です。あなたに何かあったら、その時の帝王陛下のお怒りが恐ろしい」
「……大丈夫。ここは私の国だ」
馬から降りると組み立てられたテントの中に入ってしまう。後ろから何人かつけさせるよう指示をする。
シィヴィラに対して容赦なく対応でき、帝王の代理としての権利を持つ自分ならばエラ・ジェゼロに対する人質の価値はあるだろうと思ったが、自分よりあの使用人が選ばれたのは少々癪だったが、今は次の動きが重要だった。
あの小島の窟は、湖の下にある空間への入り口である事は確かだろう。他の道を王であるエラは知っているようだが、リンドウもどこかは聞いていない。もし見失いシィヴィラにでも捕まったら取り返しがつかない事態に陥る。それに、失敗した時の対応も考えなくてはならない。最悪、ベンジャミンは置いていける。だがエラ・ジェゼロを見捨て戻れば帝王は自分も処分するだろう。最悪死んでしまいでもしたら、帝王は神官様の希望を無視してジェゼロを焼け野原に変えても不思議はない。帝王の、兄の意思は以上に神官様の御意志を滞らせてはならない。




