穢された儀式の場
帝王自ら指名を下さったのは意外だった。
エラ・ジェゼロへの対応はどうにも空回った結果が多かったからだ。
馬を下りて、船に乗り換える。湖の水位は随分下がっているようで桟橋の端まで行ってやっと船が出せるほどだった。
緑豊かな美しい国ではあるが、帝王だけでなく神官様までが執着する地には思えない。ここに何があるのか、湖に浮かぶ小島がその疑問を解決してくれればと思う。
太陽が隠れ初め、戻るころには日も落ちているだろう。島の船着き場へも仮設の梯子を上り上陸した。
ハザキと名乗った男は船着き場まで案内すると城に戻って行った。その名を理解しているのかはわからないが、先祖がジェーム帝国の出なのは間違いないだろう。
「御案内いたしましょうか?」
シワシワのシスターが階段を上った所で立っていた。
「いえ……」
構わなくていいと言いかけた時、シスターがぼろぼろと涙を流し、土の上に膝をついて頭を下げていた。
「申し訳ありません……神聖なる場を、お守りできず……」
老婆は背の低い一人に対して謝罪を繰り返していた。そう思うのは、中身を知っているからだと思いたい。
「私がおらぬ間も手入れをしていたのか? この前痛めた腰が悪化するだろう。無理はしないでくれ」
「……お戻りするまで、命に代えても、お守りすべきでした」
エラ・ジェゼロが、老婆に寄り、立つように促した。湖のほとりにある崖上の城から丸見えの場だ。声は聞こえずとも、よくはない。かといって、止める事も出来まい。
「大丈夫だ。その気持ちだけで嬉しいよ。まだ冷える。中で休んでくれ」
教会とは別の建物に入るように促すと、エラ・ジェゼロは一直線に上ったのとは反対へ降りて行く。ベンジャミンが直ぐに続き、他もわらわらと降りて行く。まあ、ばれないとは思っていない。老婆に見破られるくらいだ。
てっきり教会に入る物だと思っていたが、別の船着き場のある場所に付いた。
隠し戸らしき場に泥が大量に詰められ溢れていた。いや、泥ではなく建築用の資材か硬く固まっている。二重扉になっていた奥は、半開きのドアの天井まできっちりと埋められていた。
これが儀式の場であるのは確かだろう。こうなっては、儀式は二度と行えない。綺麗に取り除いても、魔力は消え去っているだろう。
どう報告するか、長々とした道中が一瞬で終わった気分だ。
「このまま……」
身の危険になる前に、ジェゼロを出た方がいいと声をかけようとしたが、エラ・ジェゼロが入っている白装束は、真っすぐに城を見上げていた。
リンドウ・イーリス。長女で帝王の異母妹。メガネっ子でそこそこの年齢だが未婚子なし。昔は社交界では地位もありモテていたが権力狙いだろうと突っぱね続けこの歳に。
頭がよく、政治だけでなく侵略時の戦いや交渉にも長けているため帝王からの信頼は厚い。
異母兄弟が多く、可愛くて仕方ない。それに関しては公平な判断を全くしなくなるが、それぞれにある程度の地位と適した役目を与えるなど配慮するので、お陰で兄弟間の争いが起きていない面もある。
兄帝王の事を政治家としても尊敬している。全権を掌握するよりもサポートが向いているしその方が好き。
有能さが書けなかったのは私の技量のなさ。




