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国王陛下、只今逃亡中につき、騎士は弱みに付け込んだ。  作者: 笹色 ゑ
二つの感情を無視し続ける事はできない。   ~ジェーム帝国にて~

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もう一人の鍵



 森に松明を持った男たちがわざわざ出向いてきていた。狼犬が家の周りに集まり低い唸り声をあげ牙を剥き出しにしている。

 ここは王の名の許、保護された区域だ。それは自分が住む前ずっと前からの法だ。むしろ、王に特別な許可を得て、ここに家を構え代価として狼犬の管理をしていたといっていい。そこに、それも夜中にぞろぞろと男どもがくる場ではない。

「何の了見だ。ハザキ」

 男たちの先頭にハザキ・シューセイが立っていた。

「オオガミ、いや……トウマ・ジェゼロ。エラ・ジェゼロ逃亡幇助の罪で迎えに上がりました」

 年老いた旧友はいつもの顰めっ面で言う。

「で、何を脅されてきた?」

「子供が数人、身代わりの罪に問われています。あなたを連れてこなければ明朝には処刑される」

 淡々と告げる。自分だってエラを助けただろうに。まあ、今更罪人が欲しい訳でないのはわかっている。自分が捕まらなければ街で子供が死ぬから代わりに死ねと言う訳ではないだろう。暗殺ならもっと早くに手を打つはずだ。

「……こいつらの世話を毎日しろ。腹を空かせて子供をこいつらが喰ったら意味がないからな」

「承知した」

「ああ、後……エラが戻ってきたら旅に出たとでも言っといてくれ」

 狼犬のボスを撫で安心させる。可愛い獣が途中まで着いて来たが、縄張りの手前で悲しそうに鳴かれる。人間よりも余程情のある生き物だ。森から下りた道で、手を縄で縛られた。

「んな顔するなって」

「……すまない」

 ハザキが頭を下げる。

 よくよく見ると若者がいない。餓鬼の頃の面影がないような禿げもいた。世捨て人になる前は、街にいた。その時から知っている顔だ。狼を操るオオガミに対する恐れではなく、一様に申し訳なさそうだ。こいつらはオオガミではないトウマ・ジェゼロを知っているからこそ、来たのだろう。敬意のつもりだろうがつまらないやつらだ。

「これでも十二代目ジェゼロ王の子供だからなぁ。しゃあないって」

 道のすぐ近くにある湖に船が停まっていた。上からも見えてはいたが水位が下がっているのがよくわかる。国民だってわかっているだろう。全く情けない連中だ。

 船に乗せられたからには向かう先は決まっている。罪人だと言うなら牢に入れるべきだがそんな事は単なる名目だ。

「あー、今日は冬至じゃねぇーか忘れてた」

 もうすぐ年も明ける。通りでこんなに寒い訳だ。鳥の丸焼きを毎年持ってきてくれていた姪は元気にしているのか。

 夜空には雲がかかり何も見えなかった。教会のある小島の明かりに向かって船は唯進む。自分にはここから救い出すナイトはもちろんの事、逃げ出す気力もない。

「……やっぱ、お前は白い悪魔だな」

 自分が見つけたあれは、やはり死体捨て場に棄てるべきだった。

「まさか、薄汚い男が王族とはな」

「男は王様にはなれないんだぜ。捕まえたって無駄無駄」

 白い悪魔シィヴィラに雲の切れ間の月の光が当たる。綺麗な男は歪んだ笑みを浮かべた。

「ドアさえ開けばいい」

「お前、どこまで知ってんだ? ジェームの策か」

「そうだと言った方がいいんだろうけどな、嘘でもあんな化け物に飼われてるなんて言いたくはないんでね。ほら、とっとと歩けよ」

 王の船着き場から上がる事があるとはなぁと思いながら、すぐに行きついてしまう。王が王たる場所は試す様に口を開けていた。

「残念だけど、同伴拒否の場所だぜ?」

「いいから入れ」

 乱暴に言うと、蹴る勢いで中に押し込まれた。人が入れば自動的に閉まるドアにシィヴィラが何かを差し込む。閉まり出していたそれが、人ひとりが十分通れる空間を残し止まった。

「……」

 十秒ほどして、一層暗いその場に光が差し込む。壁にしか見えなかった岩がずれ、人の通れる空間が現れた。

 シィヴィラがすぐさまその奥へ入っていく。

「マジか……」

 国王の血でしかあかない扉の向こうに悪魔が入ってしまった。続いて中へ入るが、同じくらいの空間だが壁に数字と見たことのない言葉が綴られていく。シィヴィラは見たことのない板を叩いていた。いや、オーパーツで見たことがある文字盤だ。

「なんだ、それ」

 意味のある事をしているのだろうが、なんの呪いだ?

「そこに手を入れろ」

 見もせずに命じる。ドアがあるその横で手を入れられそうな長方形の表面が艶々した穴がある。

「縛られてるから無理だぞ」

 舌打ちしてナイフで縄を切るとすぐに何かの呪いか儀式に戻る。置いたナイフをそっと失敬して手と一緒に穴に突っ込んで引く。黒板を爪で引っ掻くよりも酷い音がした。

【エラーを検知。処理を停止します】

「……」

 目を見開いて、固まったシィヴィラが怪談の化け物のようにこちらを見た。

「今、何をしたのかわかってるのか?」

「さてね」

 ナイフの持ち手を変える。身軽で軽視できない相手だとは身をもって知っている。

「………」

 いっそ殺しにでも来るかと思ったが、予想以上に悪いことをしたらしく膝をついて絶望で項垂れていた。


ここで帝国編は終わりです。もう次で最終章?のはず

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