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国王陛下、只今逃亡中につき、騎士は弱みに付け込んだ。  作者: 笹色 恵
二つの感情を無視し続ける事はできない。   ~ジェーム帝国にて~
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過去の遺産



 ジェゼロが何かを守る国だとは思っていた。それがジェームに関係あるとも。ジェーム帝国の神官は、まるでジェゼロが崇める神を実在するように言った。その意味を不思議に思う。それと同時に、ベリルと名乗った神官の名に覚えがあった。初代ジェゼロ王の書に出た名前だ。

「一つ、伺っておきたい。……神官自身が神を名乗るのか?」

 次に会う機会があるとは思っていない。だからこそ、疑問が口を付いた。

「一度も、姿を晒さない者を、私は心から信頼できるほど、私の信仰心は深くはない」

 声だけで微動だにしない影が見えていた。シルエットは服の加減かどんな姿かは見て取れない。

「エラ殿、神官様に直接会うことは、君にはできないよ」

 帝王がやんわりと止める。ここまで来てそう言われることが解せなかった。

「……私は、儀式を成功させれば神の許へ行くと言われている。そこでジェゼロの神に会うことが許されたとして、果たしてジェームの神からの神官からの言付けが真にそうであったと言いきらなければならない。約束は果たそう。だが、心からと問われればそうだとは我が神に言えぬ」

 そもそも、神が本当に要るとは思っていない不信人だ。中に何があるのかを疑問に思い多少不安に思っている。祈りを捧げれば通じるとも思えない。そんなものが、ジェーム帝国の最高権力者の願いか?

【フヅキ、確かにお前の子だ。帝王となった時に、お前は何と言った?】

 不可思議な聞き取りにくい声が笑った。

「神官様、この子に、これ以上の重荷を背負わせないで頂けませんか?」

 ジェーム帝王は即位すると名を失うと聞く。いかなる時も、帝王であり個はない。その男を神官とやらは名前で呼んでいた。思っている以上に帝王と言う地位は神官よりも低いのかもしれない。

【いいだろう。だが約束だ。何を見ても、ジェゼロの神に伝えると】

「わかった。エラ・ジェゼロの名の許に約束する」

 老いた老人か、もしかしたら子供が隠すために何らかの方法で声を変えているのかもしれない。

「後悔しないね?」

 帝王が問いかける。一体何があると言うのか一層気になる。

 立ち上がり、布だけで区切られた部屋をのぞき込む。女が一人、シィヴィラの様に白いが、顔に酷い火傷の跡のある中年の女が壁際に佇んでいた。困ったように微笑まれた。だがそれが神官ではないと分かっている。第二巫女と呼ばれる人だろうと思った。

 影の素となっていたものは倉庫のような場で見たオブジェと似ていた。人を模した上半身。首の付け根や背骨には太い管が刺さっている。褐色の肌に銀髪、そして緑の瞳をした青年のような見目をした生気のない顔をしていた。下半身はいくつもの太い線で見えないほどだった。人のような腕や体、顔の皮膚は所々剥がれ落ち、中には人ではない何かが見えていた。そして、部屋にはいくつもの箱が置かれ低い音を立てている。形は違うが自分が集めていた宝物に似ていると思った。

「……」

 怪しい医術で生かされた人間だとも考えた。だが違う。

【私を化け物だと、シィヴィラは呼んでいた】

 第一巫女であるシィヴィラは神官の世話をしていた。つまり、この謎の物体の世話だ。人ではない。だが神と呼べるのか。この生き物は何だ? 見たことがない。

【オーパーツと呼ぶあれらが正常に動いていた時代に、私は生まれた。生きた遺産さ】

 ぞくりとした。畏怖か嫌悪か異世界に触れた驚きと好奇か。多分、普通は引くべきところだ。自分は、少しおかしい。

「あなたが、ジェーム帝国を作ったのか?」

 ジェゼロとジェームは同時期に生まれている。初期の王の伝書は抜けた個所が多い。天変地異からの復興過程で発生した国だとは書かれていた。その前の時代を自分は知らない。ただ、あのオーパーツがつかえた時代であると語られている。

【作ったわけではない。手助けをし、見守ってきた】

「ジェゼロの神も同じだというのだな」

【自分とはまた違う形で尽くしている】

 動かない人形にぞくぞくする。サウラ・ジェゼロが毒草畑でしていたのと同じ顔をしているだろう。あの時、儀式が成功していれば、王しか見られないものが見られていた。なんと惜しいことをしたことか。それと同時に、シィヴィラがわざわざジェゼロへ来た理由に疑問と妙な納得ができた。

「シィヴィラはジェゼロの神を殺すつもりか」

 神官からの使者ならば自分が王でなければならない。そうでなければ誰が言伝を伝えられると言うのか。だがシィヴィラは違う。

「……あなた達が、厄災を起こし、民衆を扇動し、人間をコントロールしてきたからか」

【賢い子だ。そう表現する者もいるだろう。我々の加護が独り善がりだとは理解している。それでも、我々を創った人間を守ることはもうじき終わる。時がようやく満ちた】

 余裕のある言葉に唾を飲んだ。

「終わる?」

【長い長い……時だった】

「申し訳ありませんが、神官様はお休みになられます」

 ただそこにいた巫女が口を開く。とてもきれいな声だった。

「……シィヴィラが出かけてからこうも楽しそうな神官様は初めてです」

 ケロイドで口端が引き攣るように歪む。それでもそこに佇む巫女の女性を綺麗な人だと思った。



活動報告では飯の話とくだらない事しか書いてませんが、神官が製作話もいつか上げたい。

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