神官の望み
黒髪に緑の瞳をした少女を確認する。何年の時が経っただろうか。どれだけ血が分かれ薄められていっただろう。だと言うのに、そこには確かに愛しい生き物の面影があった。フヅキの子でもある数奇な子供は、よくここまで無事にたどり着いた。自分が生きた時代とは違う。車も電車もまして飛行機もなく随分と遠くから来られたものだ。運命があるならば、この子は産まれる前から使命を背負っていたのだろう。
【あなたが、神官か】
緊張と警戒。それでも臆する事を見せない様にエラ・ジェゼロが言う。
「座るといい。まだ女人家系が続いているとは知らず、申し訳ない事をした。これだけの月日が経てば、伝統は失われているとばかり」
【ジェゼロの神がそれを望まなかった結果だ】
ああ、あいつならば、駄々子の様に天罰と言う名の反抗すら厭わなかったろう。
【そうまでして、ジェゼロと関係修復を計ったのは、ジェーム帝国が我々に何かを要求するためだろう。それを叶える代わりに、私がジェゼロ王に戻る手助けをして欲しい】
こんな存在になった自分に対しても変わらぬ態度で言う。単に頭が悪いだけでないならばいいが。フヅキから聞く情報は親子関係が発覚してからは唯の親馬鹿でしかなく内容は客観性に欠けていた。あれがそこまではしゃぐのは久しく、微笑ましくはある。
「話は聞いている。儀式を偽られ盛大に騙されたのは、とても簡単で知っていれば造作のない仕掛けだ。だから、決められた日にもう一度行えば、中へ入ることを許されるだろう。お前にその資格があると思うならば。安心して儀式を受けるといい」
あと何年もつかわからない声はひび割れていたが、耳はまだ無事だ。目は千里眼に代えざるをえなかったが、それでもフヅキの子を十分に認識している。
【ジェゼロへはジェーム帝国が責任を持ってお送りするよ】
フヅキが付け加えて言う。シィヴィラならば、ジェーム帝国の兵士に帝王以上の命令で動かすことも不可能ではないが、それらの兵は下位の者だ。それなりの騎士を付ければ問題はないだろう。
【その仕掛けとやらを、私は一度も経験していない。一体どうやった? ミサが知ったのはジェームの巫女シィヴィラが教えたからなのか?】
「シィヴィラが手引きした可能性は高い。あの子は我々を恨んでいた。だが、誘いに乗り裏切りを行ったのは君の友人の決めたことだ。何よりも、そう言った事態にならぬよう、事前に事を学ばず伝えなかったジェゼロの落ち度と言えるだろう」
あれから何年が経った? 少しバグが発生している。いや、深刻な状態にまでなっている。それをあの子はよく理解し、手を打ったのだ。中々の度胸だと感心していた。唯一人で、神に立ち向かうとは。シィヴィラは間違ったそれを自分の使命と思い違いをしたままだったのだろう。ナイジアナから来た者らしい混乱の結果か。
「ここに入るのと同じ、神と崇める物は人を見極める。あの中へ入れるのは一人と基本は決まっている。外門を閉じ、内門を開けるためには人が一人である事、それに、ジェゼロ王の子でなければならない。そうでないならば、外門が開く」
【……私が儀式を行った時既に外門が開いていた。それに……儀式の証明に誰もいないと外門は王が消えた後に開くと聞いている】
今の人間はその程度の事を魔法と思うらしいが、単純な事だ。
「そのミサと言う者は、ただ、中に隠れていただけだろう。外門が開いても出なかったから開いたままになっていた。そこに別の者が入って、また出たから一度外門が閉まった。中にはまだミサが……不適格者がいると検知したから、再び外門が開き、さも内門を通って出て来たと、君たちの言う復活とでも思ったのだろう」
息を飲み、その後目を瞑ると、重く息をついている。
【そんな……馬鹿みたいなことで、私は王を追われたのか?】
【ミサ・ハウスならあの部屋の天井に張り付いて隠れる事は可能でしょう】
フヅキが自身の権利をかけて入室を許可した男が言う。あれはあれで面白い血脈だが面影は一つもない。
【秋の祭りまで待たなければならないのか?】
「それほどあれは気が長くない。年に四度の機会があるが、次は春先か」
答えてやると眉を顰めフヅキを一度睨み、こちらに鋭い視線を向ける。実際に現地の状況の確認に時間を有したようだが、今日ここに来たのはフヅキが一日でも長く、この憐れな王と居たかったからだ。普段執着を知らない者がそれを見せると性質が悪い。
【ならば冬にも機会はあったのではないか?】
「それをジェゼロの王と名乗りながら知らない方が意外な話だ」
ぐっと何か言うのを堪えている姿が彼女の先祖にまたそっくりだと思う。
「我々は、何も持たぬジェゼロ王に対して持て成し尽力している。確かに、ジェゼロに対して要求はあるが、今のエラ・ジェゼロでは叶わぬことだ」
【……望みは何だ。兄弟神と呼ばれる間だと聞く。ジェームの神官はジェゼロに何を求める】
「兄弟か、間違ってはいない解釈だ」
全くの無知でも馬鹿でもないならば喜ばしい事だ。
「ジェゼロの神に唯一会うことが許される者よ。私からの頼みは一つ。ジェーム国神官ベリルが、時が来たと告げていると、伝えてもらいたい。それだけですべては終わり、すべてが始まる」
意味を理解すれば、この子はどうするだろうか。
【……承知した】
それを鵜呑みにはしない。人間は嘘を付き、揺らぐ生き物だ。今そう思っても、時が経てば事実を知れば変わるだろう。それで人に、ジェゼロ王の血を継ぐ者に見限られ、この場で尽きるのも悪くはないと思っている自分もいた。
スロベニアにガンダム格納しても余裕がありそうな超巨大空間のある洞窟があって、
そこをモチーフに神都を書いています。洞窟が好きです。とても、好きです。




