《第1話》新しい体
一度ベットに座り冷静に自分のことを振り返ることにした。
名前は『鈴原 奏』(すずはら そう)
4月20日生まれの16歳、男子高校生。
趣味はアニメ、ゲーム。
身長 156cm
体重 92kg
彼女いない歴=年齢
もちろんDT
(俺のデリンジャーは使う前に無くなったまったのか…)
そしてもう一つここはバーチャル世界・ゲームの中ではない。
もしバーチャル世界であるならば自分の体であったとしても胸や股を触ることができない。触ろうとしても触れる寸前に行動に制限が入り警告通知がポップするはずである。
(最後に覚えてる事はなんだ………あ!)
最後の記憶は土曜日の午後、フルダイブ型ゲームである『Beginning the end』の公認大会に出場していた。激闘を乗り越え、優勝を手にし、現実に戻りチームメート皆で打ち上げをしようと会場に向かって歩道を歩いていると、後ろから物凄い衝撃を感じた。そこで記憶は途切れていた。
(あぁ、もしかして俺、死んじゃった?えっと、ここは天国?それとも地獄?又は生まれ変わり?おーい神様ー!生まれ変わってるのに記憶残ってますよー…)
「…これから、どうしたらいいんだよ…」
現実を受け入れられないまま考え込んでいると、部屋の壁に設置されたディスプレイの電源が入った。
「やぁ、奏。目が覚めたみたいね。」
画面に映るのは女性でとても身近な人物であった。
「え!母さん!どうして!?」
「細かいことはあとよ。とりあえず、体に違和感や反応の鈍さなどは感じないかしら?」
「体が軽くなったぐらいで特に違和感はないけど…」
「そう、問題はないようね。後の詳しい話はこの人から聞いてちょうだい。じゃぁ。」
ディスプレイの電源が落ちると同時に横にあった自動ドアがスライドする。
「奏くん久しぶりー!あ、でも今は”かなでちゃん''の方がいいのかなぁ?」
「えー!!父さんも!!」
そうして飛びついて来た父親は頭を撫でながら頬ずりをしてくる。
俺の父親である『鈴原勇時』は陸上自衛隊特殊作戦室の室長である。そして母親である『鈴原零子』は特殊作戦隊のバックアップや兵器開発を行っている。2人は陸上自衛隊特殊作戦本部に居ることが多く、ほとんど家には帰って来ない。
「父さんやめて!ヒゲが痛い!!あとタバコくさい!!!」
「そうかぁ、これが年頃になった娘に嫌われる父親の感覚かぁ、父さん悲しいよ。」
そういって父さんは渋々離れて行く。
「何をいってるんだか…ってかそんなことどうでもいいから俺はどうなったのさ!この体はどういうことなの!!」
「どうでもいいなんてヒドイじゃないか。まぁ、しょうがない説明してやる。」
そうして父さんは俺、鈴原奏がカナデちゃんになってしまった経緯と理由を話してくれた。
自分が打ち上げ会場に向かう途中、居眠り運転のトラックに跳ねられてしまったこと。病院に緊急搬送されたが、筋肉や脊髄へのダメージが大きく、回復は絶望的であった。そのため本体を特殊作戦本部に移し、フルダイブという形で現在開発が進められていた、人型汎用陸上戦闘人形に接続されているということだ。
「そんなことが…ここは基地内の実験施設ってことでいいんだよね。1つ質問なんだけど、なんで俺がゲームで使ってた『カナデ』の体なの?まず性別すら違うのに?」
奏では両親にゲームで女性アバターを使ていることを隠していた。こんな軽いノリの父親である。何をされるか分かったものではない。言えるのはご近所中の世間話の話題には必ず上がるだろう。最悪現実で女装セットを買って帰ってくるかもしれない…
「あぁ、それはゲームで使い慣れてたカナデの体の方が動きやすいでしょ?それで日本を制覇したわけだし!
それと父さんの趣味!ずっと娘が欲しかったんだぁ〜」
「1つ目の理由はわかるけど、2つ目は最悪だな。ってかあのキャラが俺だってこと知ってたのかよ!」
「それはもちろん!お前がどんな動画を見て何に興味を持ったか、性癖だってゴホンゴホン、なんでもない。」
「父さんもしかして俺のPCに忍びこんだだろ!家族だからってハッキングは犯罪だぞ!ふざけんな!」
「違うもん!父さんはやってないもん!」
「まさか母さんに頼んだのかよ!警察に訴えてやる!」
「そんなの無駄だヨォォだ!母さんのハッキング技術で警察なんかにバレるもんか!」
「母さんがハッキングしたのは認めるんだな!?」
「う、、奏、父さんにカマかけたな!」
母である零子のハッキング技術は只者ではなかった。学生時代に興味本位でアメリカ国防省のデジタル防衛システムを乗っ取ったり。某テレビ局の集金がしつこいからという理由でテレビ局のシステムを完璧にダウンさせたりなど、聞くだけで恐ろしい。現在もその技量は陸上自衛隊特殊作戦で大活躍だという。
「まぁ、そんなことはもういいから、これから俺はどうしたらいいんだよ!」
「とりあえず、一人称を『私』にしなさい。それとすることは今まで通り普通に生活しなさい。学校には転入願いだしといたから。それと日曜日だけ軍の演習に参加してね!その機体のデータ収集が奏がダイブする条件だったから!」
そういうと自分が通っていた学校の制服を手渡してくる。もちろん女子用の制服を。
「もしかしてじゃなくても女の子として生活しろと!?やだよそんなの!それに学校にはこのアバターを俺だって知ってる幼馴染と先生がいるんだぞ!」
ゲーム内でPTを組んでいたのは同い年で隣に住む『相沢美月』と、学校の保険医を務める『神城優』であった。一緒にゲームをプレイすることになったのにも色々あったが‥
「あぁ、それは大丈夫たよ!後1時間ぐらいしたら2人とも来るから事情説明してね!」
「してねって俺がするのかよ!」
「だから俺じゃなくて『私』でしょ!父さんはもう仕事に戻らなきゃいけないから後よろしくね〜」
そういって勢いよく走り去っていった。
(もうどうしろってんだよ…)