いつかの日記2
「えっと・・・あなた達は攻めてきた兵士・・・ではない、ですよね。状況は。」
そうです、下はもうだめです。全員灰になってしまいました。老人から赤子まで容赦なく。僕はそう答えた。
「そうですか。」
青年は酷く怯えたように短くそう返しただけだった。
「大丈夫ですか。」
アンナの声も届いていないようだった。
どうせ死ぬのなら、せめてあいつらに傷の一つでも・・・、と気づいたら僕は口走っていた。ぽかんとした顔で二人がこちらを向いて、青年の口は綻んだ。
「そうですね。ああ、そういえば此処にトランプがあります。1人十八枚ずつ分ければ丁度いいですね。」
青年はそう言って小さな箱を取り出して中の紙束を三人分に分けた。
「トランプ手裏剣・・・なんて。」
アンナがくすり、と笑った。でも其れは本当の笑顔じゃない。先程の場所に置いてきてしまったあいすくりむとかいう砂糖菓子でも有れば嬉しい顔をしてくれただろうか。・・・でももう無理なことだ。だってあいつらはきっと僕らを殺すだろう。ならせめてマシな死に方をできるよう、何かを成せなくても傷一つ付けるだけでもして死ねるよう祈って考えて実行しよう。そうすれば、そうすれば。きっとそれがあの場で消えていった人達への手向けへなるから。
そう考えつつ作戦を考えていると突然、どおっ、と衝撃が僕らを襲った。
「投石兵か・・・!!くそ、裏切り者どもめ!!」
どうやらこの国の兵士の数人がこちらを見限って向こうについてしまったらしい。
向こうの国は投石機なんて持ってきていないし使わないから・・・そっか。裏切られたんだ。
「なら早くしないと・・・!!」
と急くアンナ達に頷いて僕らは部屋を後にした。
皆で死ぬと分かっていながら、いや。そう思っていたから進めたんだ。
結論だけ言うと失敗。僕は生き残った。いや、生かされてしまった。僕らはあの後フロアにいた兵士たちの上官と思しき人物にトランプ手裏剣を放った。けど結局は向こうの銃弾には敵う筈もなかった。じゃあなんで生きてるのか?というと。
アンナが僕を庇ったから。いや、違う。僕がアンナを庇えなかったから結果としてアンナが庇った形になってしまったのだ。あの気弱な青年はいつの間にか消えていた。きっともう生きてない。僕だけが、僕は裏切り者になったんだ。嗚呼、一緒に灰になれたら良かったのに。そう思った途端、僕はその場にへたりこんでしまった。
よりにもよって、あの化け物みたいな上官の前で。