平均以下の俺、死ぬ
「ハルちゃんって私と名前が似てるし親近感がわくのよねー、前世はネコだったのかも」
「ハルも榛名さんのことが好きみたいだ、よくなついてるよ俺以外には懐かないのにさ」
配達員がハルをなでようとしてもすぐに奥に逃げてしまう、それくらいハルは人見知りが激しいが榛名さんだけには、心をひらいている様子だった。榛名さんが家に来たときはいつも出迎えに来るし膝の上で優雅に眠るし…、あのときばかりはハルと入れ替わってネコになりたかったぜちくしょう!
「ん?あれってハルちゃんじゃない?」
「え?」
見るとうちのボロアパートの前をハルが歩いている。あいつ、また窓を開けて勝手に出たな?
朝注意したのに、っといってもネコにそんなことを言っても意味はないか、ハルと眼が合う。
「あ、危ない!」
ハルはこちらに来ようと道路を横断しようとしている。
プップーー!
次の瞬間俺は道路に飛び出していた。キキーっというブレーキ音とともに鈍い音が聞こえた。
あれ、体が動かないなんだか暖かい、うわこれ全部俺の血かよハルの方を見る。ハルも横たわっていて動かない、ちくしょう俺も死んでハルも死んだんじゃなんの意味もないじゃないか、榛名さんが泣きながらこちらを見て何かいっているが、何も聞こえないどうやら耳もおかしくなってきたらしい。
今度は寒くなってきた。あぁ、俺このまま死ぬのか視界もぼやけてきた。
特に変わったこともない人生だったけどこんなところで終わるのか、まだもう少しやりたいことあったのに…な。
ん?あれ、俺どうなったんだっけ目の前には自分の遺体が寝かせてあった。
ああ、俺死んだんだった。自分の遺体を見て死んだと実感する。
なんて情けない最後だ、飼い猫を助けるはずがそのままどっちも死んじゃうなんて。
昔、バイトもしていなかった頃、親の仕送りだけで生活していたがある雨の日、コンビニに行く途中ダンボールに入れられた一匹の子猫を見つけた。
そのネコはお腹が空いているのか、雨に打たれて凍えそうなのかしきりに鳴いていたのだ、正直僕にはなんの関係もないと思ったし、親の仕送りだけで生活している僕にネコを養う資金はなかったのでスルーした。
買い物を終え、再びそこを通ると鳴き声は聞こえてこなかった。流石に気になってダンボールの中を見ると、子猫はぐったりとしていたがまだ息はあった。
アパートに帰り着くと手には震える子猫を抱えていた。僕もなんで連れ帰ったのかよくわからなかったが眼の前で消えていく命を見過ごすのもそれを自然の掟だとわりきるのも僕にはできなかった。おそらくこの子猫は、誰かに飼われていて飼い主の勝手な理由で捨てられたのだろう。僕はそのネコにハルと名付けた。
ハルは死にかけていたが、看病してやるとすぐに元気になった。そこから一人と一匹の生活が始まったのだが生活費が足りなくなり、バイトをすることにした。今までバイトなんてする気もおきなかったがハルが僕を変えた。バイト先で榛名さんとも会えた。これから色々進展するはずだった。のに、死んでしまった。
どこからか聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「全く!勝手に出ていったと思えば死にやがって、誰が葬式代とか出すと思ってんだ」
「あなた、そんな事言わなくても」
うちの親だ、すねをかじっていた厄介人がいなくなるのだから親にとってはむしろ良かったのかもしれない、元々親とはなかが良くなかったし、家を出てからは連絡もとっていなかった。
後悔はない、未練も特にない、榛名さんも興味があったのはハルの方で僕なんかはどうでもよかったのだろう。
っと、病室に誰か入ってきた。榛名さんだ。
「そんな・・・・・」
そういうと榛名さんは力なく座り込み泣き崩れた。
「大事なものを、一度に2つも失うなんて、あんまりだよ」
なんだよ、両思いだったのかよ、こんなことなら告白しとけばよかった。泣き崩れる榛名さんを横目に俺は初めて死んだことに後悔した。こんなダメな俺でも必要としてくれてる人がいてくれた。しかし、俺は死んでしまった。