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小話と短編は連載となる  作者: 黒田明人
1章 小話1と小話2より抜粋
7/27

07 勇者? 違うよ





 

「ヨウコソ、オイデ、クダサイ、マシタ」







 オレ達はサバゲーの下見中に変な事になっちまったんだ。


 ちょうど陣地の構築に良さそうな場所を発見し、3人でしゃがんで輪になって相談していたら、いきなり意識がもうろうとなって、気付いたらこんな所に来ていたんだ。


 そうして見慣れぬ人がいきなり片言の日本語で声を掛けてくる。

 最初は外国かと思ったんだけど、どうにも周囲がそれは違うと主張していた。

 そもそも、そいつは鎧を着て剣を腰に差していたんだ。

 元々、その手の話は皆ご存知の、オタク系サバゲー好きなオレ達なので、さっきの現象と合わせて異世界だと思ったんだ。


 となると、怪しい。

 片言とは言え、日本語。

 何故知っている。


(おい、相手、日本語だぞ)

(こんな、異世界なのにかよ)

(怪しすぎるだろ)

(よし、幻惑してやるぜ)

(そういや、趣味語学だったな)

(なんかの要因で日本語知ってるだけなら、フランス語は無理だろうぜ)

(くっくっくっ、確かにな)

(おっし、任せたぜ)


 ◇


(おかしい、どうしてだ。ニホンゴなら通じるはずなのに、この者の言葉が分からん。そんなはずは)


 しばらくフランス語で幻惑していたが、あんまり可哀想なので他の奴らと相談して日本語での対話に切り替える。

 そうして対話に成功した兵士さんは、妙に安心したように日本語で説明をしてくる。


 つまり、勇者召還だ。


 呼びかけに応じて来てくれたと、その言葉には全員異論があったものの、空気を読むのに長けている民族のせいか、その場でその追求は無かった。


 そうしてそのまま勇者選定の儀が行われる事となり、剣を抜いた者が勇者認定される言われてそれぞれは抜いてみる事となる。


 しかし誰もなりたい奴は居なかった。


 ◇


「くそ、抜けねぇぞ。錆びてんじゃねぇのか」

「では隣の貴方、お願いします」

「おうっ。む、むぅぅぅぅぅぅ。抜けん」

「では、最後の貴方。その剣を抜いてください」

「うぬぬぬぬぬぬ……抜けないぞ」

「そんなはずは」


(お前、本気でやったのかよ)

(抜けたらヤバい事になりそうだったんでな)

(そんな事じゃないかと思ったぜ)

(つまり全員芝居か? )

(強制はごめんだぜ)


 勇者ならば剣が抜けると言われ、抜けない振りしてやり過ごした。

 望んでもないのに『よく来てくれた』などと言われ、流されるままに試しをやる羽目になったけど、『そんな勇者とかはごめんだ』という共通意見でまとまり、『可能な限り誤魔化してやろう』と言う事に決まった。


 どうせ魔王とか何かと戦えと言うんだろうし、そういうのは結局は殺し合いだ。

 誘拐して殺しを強要するとか、どっかのアブナイ組織のようだしな。

 でまぁ、抜けない振りしておけば、相手が間違えたって事になる。

 勇者と間違えて誘拐したとか、もしかしたら帰れるかも知れないじゃないか。


 巧くすれば賠償金とか。


 もし、帰れなくても賠償金があれば、当座の生活費になるだろう。

 3人がしばらく食える金があれば、この世界に慣れて稼げるようになるかも知れない。

 そうして帰る方法を探すのを第一目標にして、何とかやっていくしか無いだろう。


(そもそも、うっかり情報とか渡してなし崩しになり、逃げられなくなって、ひたすら人殺しとかありそうだしな)

(おうよ。隷属の首輪とか、下手に断ろうにも相手が王様なら、断れなかったりするんだぜ)

(そうそう。そうして平和になったら用済みとか言って、処分の対象になったりすると)

(街を歩けば拉致されたりするんだぜ)

(ああ、他国にまた誘拐されて、仲間で殺し合いとか冗談じゃ無いよな)

(((だからお断りだ)))


 ◇


 オレ達を召喚した巫女はしょげていたが、誘拐犯人に同情するいわれはない。

 勇者では無かった、との言に王様から何か言われていたようだが、そんな事は知った事では無い。


「間違いなら帰してくれますよね」

「それが、ですね、その、つまり」


(帰れないパターンか)

(賠償金割り増しだな)

(名も無き冒険者か、良いだろう)

(作戦は任せた)

(頼むぞ)

(おう、任せろ)


 戻れないなら戻れないで協力して生きていこうと決意する。

 そうして相手のミスを追及し、戻れないと言われて賠償金の請求の果て、何とか金を獲得する。


(かなりとは思うが、相場が分からんからな)

(大体、金貨1枚が1万とかだよな)

(10万のケースもあるけどな)


 間違いで呼んだものの、帰す事は出来ないと言われ、それならってんで当座の資金を得ると共に、この世界の常識や生活の知識が知りたいと告げ、しばらく滞在する事になる。


(次は半年後らしい)

(それまでに逃げねぇとな)

(うっかり馴染んで、お前もとか言われたら嫌だしな)

(正義とかウザいだけだしよ)

(所詮は殺しなのにな)

(殺戮代行要員を拉致するような国、当てになるかよ)

(そうそう)


 それから通貨価値や世界の常識を教えられる日々となるものの、勇者では無いと言うのを殊更に強調し、皆に周知させる日々。


 言語学習の得意な者はその為の文献を借り、他の者達は旅の準備を整える為にあれこれと買い物に出たりする。


 そんな中、巫女達はもしかしたら他にも来ているのではないかと、無駄に周辺を探し回っているようだ。


 そんなある日の事、勇者や魔王の事をさり気なく聞いたところ、やはり魔王や魔族との戦いの為に呼んだと言われ、勇者には魔を祓う力が宿ると言われ、勇者専用の武器を使えば、魔族の王にも通じる力となる。


 と言うのが伝説になっていて、日本語と共に伝わっていたとか。


 つまり、かつても召還が行われ、そこで意思疎通の為にあれこれやった結果が今に通じているって事らしい。

 なので召喚関係者は皆日本語を習得しているらしく、しばらくの滞在中には誰に言葉を教わっても構わないとか。

 とっとと覚えて出ないと、いつバレるか分からない。


 皆はそれが怖かった。


 ◇


(お前、何作ってんだ)

(あの剣そっくりの偽物さ)

(おいおい、盗むつもりかよ)

(オレ達のうちの誰かがきっと抜けるはずだ)

(それが作戦かよ)

(いや、作戦は既に考えている)

(ならこれは何だよ)

(単純に欲しいだけだ)

(呆れた野郎だぜ)


 ◇


 言語学習は難航したものの、日本語の通じる相手に苦労しない環境でのその他の学習は順調に進み、通貨価値や換算率、市場の相場や風習など、様々な事柄を覚えていった。


 そうして2ヵ月後。


 趣味が語学な者が何とかカタコトぐらいなら話せるようになった頃、後は道々覚えれば何とかなると、そうして決まった出立。


 かなり色を付けてもらった賠償金に加え、それぞれに馬までもらったうえ、乗馬の訓練も頼んで何とかなっており、万全に近い状態だ。


 なんせ旅の道具のあれこれに賠償金を使わなくても王宮のツケのようものが効いたので、至れり尽くせりな準備を整えた彼ら。


 それを厚かましいと普通は言うのだろうが、相手の弱みに付け込むように、3人はこの際だからと遠慮知らずに装備を充実しまくっていた。


 それと共に図書室での情報収集の傍ら、本来ならば戦略物資のはずの地図も見る事が出来、複製厳禁なところをこっそりと複製して隠し持つ事までやっていた。


 そうしてそれぞれに剣術の初歩を教わったり、そのついでに訓練場においてある剣を借りパクしたりと、やり放題になっていた。


 更には王都で安価だけど地方では高価な物品を、もらった報奨金で仕入れ、行く先での稼ぎにしようとまで思ってる面々は、実にたくましいとしか言いようが無く、そのせいか、早く出て行ってくれとまで願うようになった面目に、成功とほくそ笑む彼ら。


 そう、厚かましくやり放題な態度はわざとであり、追い出される方向への誘導。

 そうして遂に出立と告げると、皆の表情が心なしか明るくなる。


 機は熟した。


 そうしてその前夜、かねてより調べて確定している事項である、仮置きしてある本物の剣の場所に偽の剣を置き、本物は荷物の中に仕舞いこむ。


 3人で警備状況の穴を突き、何とかやり遂げたのだった。


 ◇


 翌日早朝、数人での見送りの中、3人は街道をいかにものんびりと馬で闊歩していく。

 まるで物見遊山のようなのんびりとした風情に、呆れたような視線を感じた彼らは、してやったりと頷き合う。


 そうして門を潜り、ちらちらと後ろを確認しながらも、あくまでも優雅に闊歩をしていき、門の外の低い丘を下れば見えなくなる門。


 今までの態度が何だったのか、皆は中腰になってムチを当てる。


「イケイケイケイケー」

「全力、全速、頼むぞぉぉぉ」

「頼むぜ、我が愛馬」


 門が見えなくなってのこの全速力。


 後は目星を付けていた辺境の村を目指し、一路街道を外れて田舎道へと突入してしばらく走って休憩にする。


「どうどうどう」

「ごめんな、疲れたろ」

「ブラシかけてやろうな」


 地図の通りに川が流れており、馬はそれぞれに水を飲む。


 荷物を降ろして鞍を外し、ブラシをかけてやる面々。

 それぞれは馬を可愛がっており、先程の事は本意ではなかった事を表している。


 もし、剣の事が発覚しても、脇道に到達していれば何とかなると、のんびりと見せての全速力に加え、田舎道へ逸れてのかく乱作戦。


 しかもわざわざ南門を出て、丘の下を西に走るという作戦。


 更に言うなら南の観光名所に行くと思わせており、発覚後の捜索を難航させる気満々であった。

 実は彼らには極め付けの作戦がまだ残されており、中継点の村で深夜に行う予定になっている。

 その為にフードコートとターバンのような物まで用意してあり、準備万全に偽りは無い。


 王宮のツケで購入した魔物避け魔導具を周囲に配し、それぞれは地図を見て道を確認する。

 水を飲んでのんびりしている馬に、これまた王宮のツケで買った馬用の甘味を食わせる。

 そうしてそれぞれは王宮の料理人に作らせた食事を摂った後、鞍を載せて馬にまたがってのんびりと移動を開始する。


 そんな中、雑談しながらふと、勇者の剣の話題になる。


(お前、それ、抜いてみろよ)

(うぬ、ぬぅぅぅぅ、抜けんぞ)

(貸してみろ……うがぁぁぁぁ、はぁはぁ、ダメだ)

(ちっ、てめぇかよ)

(ふっふっふっ、せーの、あれっ)

(おいおい、抜けねーのかよ)

(いや、あっさり抜けたんだ。ほれ)

(妙に細くて弱そうな剣だな。こんなんで斬れるのかよ)

(今にも折れそうだな)


 ◇


 幸いにも雨の少ない時期のせいか、天気が崩れそうにないようで、このまま行けば好天のうちに到着しそうだ。


 そうして中継点の村で厩を借りて、馬と共に一夜を明かす。

 深夜、月明かりの中、厩の裏で秘密の作業を開始しようとしたものの……。


「ロウソクじゃきついぜ」

「風が出て来たな」

「くそ、消えるな」


 作戦は風の為に延期になったようだ。


 翌朝、露天でいくつかの食べ物を仕入れ、それぞれは馬で移動を開始する。

 途中の店で飼い葉を買い込み、馬にもたっぷりと食事を与える。

 さすがは軍用の地図だけの事はあり、必要物資の入手場所も詳しく書かれていたのだ。


 しかしここからは詳しくはない。


 あの辺境の村は新しいようで、地図には名前しか無いからだ。

 実は新しい村が理想と思い、皆で決めた場所なのだ。

 既得権益で雁字搦めな村など新規参入はやれまいと、なるべく新しい村を探していて見つけた村なのだ。


 冒険者ギルドや防衛組織があれば入会し、無ければ自警団を結成する。


 そうしてあくまでも当たり前の存在として成り上がって行くのだ。

 それこそが彼らが目指す先であり、そこに勇者などという余計な名称は邪魔でしかなかった。


 結局、辺境の村近くの泉の傍で必殺の作戦をやった彼らは、フードコートとターバン姿で辺境の村に入る。

 そうして冒険者ギルドへと登録し、地味なスタートを切る。


 ◇


 今回の召還では収穫は無かったものの、古文書に書かれていた呪文で異世界人を呼べると分かった事で、一同は全くの無駄ではなかったと思っていた。


 神殿から預かったままの勇者の剣は、布に巻かれたまま無造作に置かれている。

 確かに勇者が扱えば強力な魔剣になるものの、抜けなければただの鈍器に過ぎず、勇者が持てば羽根のように軽いと言われるものの、抜けなければ効果が出ないとなれば、ただの玩具の剣にも等しい攻撃力しかない。


 どのみち誰にも使えなければ痛む事も無い訳で、整備の必要もまた無い事になる。

 しかも勇者が使えば整備不要と言われているので、その剣は精々磨くぐらいしかやりようがなく、抜けなければそもそも整備のしようも無い為、必然的に触れる者も居ないので置いたままになっていた。


 神殿では受け取った後はそのまま所定の位置に戻されようとしていたが、半年後にまた召喚を行うと言われたので、取り出し易い場所に置かれる事となり、下っ端の不注意か、倉庫の片隅に無造作に置かれる事になる。


 本来なら確認が必要なものの、勇者以外がうかつに触れると神罰がある、などという嘘の情報も伝わっており、その確認もしないままになっていた。

 なのでその中身が本物なのかどうか、確認する者も居なかったのである。


 それを杜撰と言えば確かにそうだろう。


 しかしこの世界では神殿に対する暴挙は神への反逆とされていて、皆の殆どが信者な状況で手を出す者など考えられず、防犯の意識など到底持てなかったのである。


 実際、小悪党クラスでは到底手が出せず、出すのは賞金首の上位にランクされるぐらいの大悪党クラスであり、そういう者でもさすがに勇者関連は世界の敵になりかねず、そんなリスクに見合わない仕事をする者は殆ど居なかった。


 確かに僅かな事例はあるものの、それは特殊な事例に限られており、正常な判断では忌避するのが常識とまで言われているぐらいだ。


 だからそれは盲点だったのだろう。


 結局、その事が発覚したのは、再度の召喚を行う為に神殿から借り受ける際、念の為の確認で見つかったものであり、そこで始めて大騒ぎになったのであった。


 杜撰と言えば余りにも杜撰と、神殿では管理者への責任追求となり、王宮では持ち出した者への確認作業が急がれていた。


 その結果、疑惑は当時に呼んだ3人に向けられたが、あくまでも状況証拠の為に、まずは呼び出して尋問すべきと各地へ捜索の手を延ばした。


 しかし、残念な事に彼らの名前は、その場限りの偽名であったが為に確認のしようもなく、それと知らずに確認に回った回状は彼らの冷や汗を誘発していた。


 それと言うのも容姿が似ているというのでギルドからの調べがあったからだ。

 しかし、違う名前と風貌でクリアになった面々は、そのまま宿屋に揃って帰った後、食堂で祝杯を上げたという。


 回状には、アイチ、ヒメジ、ナガノの3名とあった。


 ◇


 そうして該当者が出ないまま時が過ぎていった。


 元々、勇者選定の剣は世界に5本あり、なので国所有の剣が紛失するなどと言うのも過去には何度かあった関係で、現在世界にあるのは2本であった。

 そうしてその片割れが今回紛失した訳で、現存の最後の1本を持っている国が勇者召還を行う事になった。


 対岸の火事のように思っていたが、隣国の不祥事を聞くにつれ、他人事では無いと管理にかなりの比重を傾ける事になり、勇者の剣の為の専門部署を設けると共に、厳重に管理される事となる。


 必然的に郊外で行っていた召喚も城の中の特別な部屋で行う事になり、専門の警備の者達が交代勤務での厳重な警戒が続く事になる。


 そうして勇者召還を行うものの、誰も呼べなかったのである。


 そうなると剣の真偽が問題になる。


 もしかしたら既に偽物と取り替えられていた可能性、なんてのが取り沙汰され、だからこそ呼べなかったのだと貴族達に追求され、ここに王族と貴族達の争いの火種となる。


そのゴタゴタで肝心の剣の行方が不明になる。


それに気付いたのは2つの勢力のうち、片方の勝利の後であったとか。


 ◇


『また呼ぼうとしてますね』

『やれやれ、どうして現行の保持者がいるのに呼ぼうとするかな』

『どうなさいますか』

『規定の通りに没収する』

『これで4本没収ですが』

『5本になればまた配布すれば良かろう』

『畏まりました』


 ◇


 辺境で地味に始めた冒険者稼業。


 弓のヨイチと槍のマタザと、そして投擲のエイジの3人組は、地道な活動のうちに徐々に名を上げていく。

 彼らは用心の為ばかりではなく、新世界で新しい名前にしようと、武器に関連のある名前を使用している。


 その選んだ武器はそれぞれ、元弓道部と元野球部と元帰宅部の3名のうち、弓と投擲はすぐに選べたものの、槍は最初は剣だった。

 しかし、バレたら大変という相談の結果、細くて長い形状から槍の穂先にならないかと、思い付いてからは行動が早く、市販の槍を購入して先をバラし、何とか剣を収める事に成功する。


 それでも他の2人が振り回そうとしても、先がやたら重くてどうしようもなく、彼のみが自由に振り回せるところから、やはりあいつが勇者なんだなと思った2人であった。


 名前の件は後に召喚された勇者にはバレるかも知れないが、3文字だから何かの略か愛称にすれば誤魔化せるかも知れない。

 なんせ今の彼らは、回状をクリアした風貌をしているのだから。


「うう、寒いぜ」

「ああ、主に頭がな」

「そうか? 」

「元野球部は余裕だな」


 小坊主のような風体の3人組は、冒険者の中でも腕利きと言われるようになり、日々その評判を上げていた。


 特に投擲のエイジのコントロールは凄まじく、中でも独特のフォームを使って投げる時の速度とコントロールは絶品と言われ、魔物暴走スタンピートなどでの防衛陣地での活躍は、秘かにファンが居るらしい。


 彼からしてみれば単なるオタク趣味からの形態模写に過ぎないのだが、趣味が高じた結果が生きていると言っても良いだろう。


 もっとも、趣味が高じて野球部にまで入り、後にそれが原因で退部を余儀無くされた彼であったが、某アニメの主人公のパクリと言われるのが嫌だったらしく、言われるたびに反論していたという。


そんな彼は今では魔物相手にその技能を活用している。


「エイジよりダイヤのほうが良くないか? 」

「絶対に嫌だ」


 彼の拘りはアニメのほうではなく、実在の人物のほうであったらしく、その事で部の者達と揉めたのが退部の真実だったらしい。

 コントロールは良かったが威力が皆無と言われていた彼が何故、活躍出来ているのか。

 

 「他の魔法はどうすんだ」

 「身体強化だけあればいい」

 「ふむ、オレも命中だけあればいいな」


 元弓道部の彼は『命中強化』、元野球部の彼は『身体強化』、そして帰宅部で現行の勇者の彼は『槍術の極意』なるものを取得するに到る。


 そうして、それぞれのイメチェンのせいか、バレずに過ごせていた。


 ただその途中、魔王討伐隊に指名依頼で強制参加させられる羽目になり、どさくさで何とか魔王討伐が叶ったものの、手柄を他人に譲ってとっとと逃げ出した彼らであった。


 ◇


「君が倒したのだな」

「いえ、私などは単なる火打石の欠片に過ぎません。皆が燃える木片や枯れ木に草などを集め、火打石をヤスリに叩き付け、発生した大量の火花が燃える物を暖めていき、最後の着火のタイミングに私が飛び込んだだけです。そんな矮小な存在を称えては、他の要因を担った者達の努力が無為になります。どうか私などよりももっと大きな役目を担った方を賞賛されますように」

「ううむ、力だけではなく、その心根も見事だ。そなたには後々、相応しき地位を授けようぞ」

「ははっ、謹んで授与仕ります」


(こう言えばもらえる褒美が大きくなると言われたが、どうにもむず痒いな。まあいい、どうやら最低でも貴族にはなれそうだし、報奨金など全てくれてやろうな。火打石の欠片か。まあ、確かにそうだな。本来はあいつが火を付けたが、まかり間違っていたらオレが付けていたんだし。とどめ刺した攻撃になったのがあいつだっただけで、皆で攻撃していたんだし、誰がこうなってもおかしくなかったって事だ。それにしても、この栄誉を捨ててまで金が欲しいのか。オレには理解が及ばなねぇな)


 ◇


 報奨金をくれれば手柄をくれてやる。


 そんな甘い誘惑に乗った者が討伐の栄誉の後、名誉貴族になったという噂を3人が聞き、そんな不自由な境遇はごめんだし、もし勇者とバレたら大変な事になる。


 そうならずに済んで良かったと、皆で酒場で祝杯を上げていた。


 そうしてそれなりに有名な冒険者3人組は小さな村の自警団を率いるようになり、死ぬまで自由に暮らしたという。


 そうして村長の家には槍が家宝として伝わる事になり、それがいつの間にか村一番の戦士が継承するようになっていた。

 そうしてその戦士が勇者と共に戦い、借りてその槍を使ってみたその時、ようやくその槍が真価を発揮するのだろう。


 それが何時になるのか、誰も知らない。



神様・(いやそもそも、もう勇者召喚は出来ないよね)

天使・(良いのですか? それで)

神様・(しばらく休憩にしよう)

天使・(くすくす、分かりました)

 

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