表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小話と短編は連載となる  作者: 黒田明人
1章 小話1と小話2より抜粋
3/27

03 不遇が悪化したみたい

短いので加筆。

 アイテム師……アイテムとアイテムを組み合わせて新しいアイテムを作り出す生産職なのだが、創意工夫が大事な職で、それにはリアルチートが必須である為、リアルクリエイターで生産がやりたい人でなおかつ、戦闘がやれないにも関わらず、金に余裕のある者に向いている、つまりはあり得ない想定。


 そんな想定を情報掲示板で見た者達は、戦闘がやれないとあって、その職を選ぶ者はいない。

 想定を出したのは、その職を試してみたβテスター。

 初期装備になんとナイフとフォーク。

 とても戦えそうにないそれらを試しに投げてみた彼は呆然としてしまった。


 何とか敵に当たりはした。


 しかし、投げて敵に当たるとそれらが消えてしまううえに、大したダメージにもならなかった。

 それでもテストだからと気を取り直し、もう片方のアイテムも投げてみた。

 しかし、やっぱり当たるものの、やはり大した攻撃にはなっていない。

 それどころか敵認定されて攻撃を受け、あっさりと送還されてしまった。

 唯一の武器を失った彼は、その後すぐに初期資金で武器や防具を購入しようとしたが、武器は重くて持てないし防具も装着する事が出来ないという有様となり、その事も情報掲示板に愚痴としてを書き散らすと共に、あの想定を書き殴ったのだ。


 だが、それで終わりではなかった。


 同じβテスターだった他の者が、正式サービス後に挑戦してみたらしい。

 βテスターには特典として、1度限りのリスタートという、キャラの作り直し権利が与えられていた。

 通常は課金で1000円必要なうえに、3日間ログイン出来なくなるキャラ交換だが、βテスター感謝メールには、特典なので無料で即座に対応しますと書かれていたらしい。


 なので本番の前に軽い気持ちで確認してやろうと、その職をやってみたらしい。


 確かに武器を持とうとしても重くて持てず、無理に持てば腕が痺れて取り落とす有様。

 横では同じ武器を小さな子供が片手で振り回しているのに、どうしても持つ事が出来ないのだ。

 彼はかつての戦士の経験から、シールドバッシュというスキルを思い出し、盾で攻撃してみようと思い立ち、防具屋に勇んで行ってみたものの、やはり防具も無理であったとか。


 そして彼は思った。


 あいつの言っていた事は本当だったのだと。


 そうしてアイテム師は淘汰された……


 それと共にいくつかのネタと思われる職も淘汰され、王道と呼ばれる職たちが本サービスで選ぶ定番になっていた。


 そんな中、ひねくれ者な彼はわざわざそれを選ぶ。


『アイテムクリエイト? 面白そうじゃねぇか』


 投げたら消えるのか? 

 なら、投げなければいいんだよな。


 後は買った武器や防具が使えないと書かれていたな。

 ジョブの説明を見ると確かに、自作のアイテムしか使えませんと書かれている。

 となるとこれしか使えないって事になるのか。

 どうせならもう少し威力のある武器が使いたかったが、現状でこれしかないならこれでやるしかないか。


 けどよ、それなりの威力を考えると、かなりエグい方法しか思い付かないんだけど、それをやるしかないのかよ。


 とりあえずとばかりにフィールドに出ると、角の生えたウサギを発見する。

 投げたらダメージにならないのに敵認定されるんだったな。


 近付いていくと、ウサギが気付いて身構える。


 リアルだと逃げそうなものだけど、魔物だから逃げずに向かって来るようで、何となく微笑ましい。


 うおっ、ヤバ、敵だったな。


 辛くも避けたけど、あの角に刺されるとヤバそうだな。

 見てくれはウサギでもあれは魔物だし、油断している場合じゃない。

 気を取り直して、ナイフとフォークを持ってこちらも身構える。


 飛び掛るウサギに対し、半歩身体をずらしてナイフを刺す。


 ギィィィ……


 ウサギってそんな鳴き声なのか?


 くそ、まだ生きてんのか。


 なら、フォークもだ。


 ギィィィィ……


 ナイフとフォークを目に刺された角ウサギは光の粒になって四散したものの、人として失ってはならない何かが減った気がするのはどうしてだ。


 それでも他に方法は無いんだし、金が貯まるまではこの方法しかあるまい。

 金が無いとクリエイトするアイテムが手に入らないんだからな。


 そうして彼は仕方なく、嫌な気分になりつつもその戦い方を続けていた。


 すると……



 ポーン……《称号【鬼畜】を入手しました》


 うぐ、けどよ、他に方法が無いだろ。

 あんな攻撃力の無い武器だぞ。

 急所を狙うしか無いだろうが。


 それからも開き直ったかのような戦いは続いていく。


 しかしその代償は酷い物だった。


 ポーン……《称号【変質者】を入手しました》


 ポーン……《称号【異常者】を入手しました》


 ポーン……《称号【大悪魔】を入手しました》


 ポーン……《称号【邪神の使徒】を入手しました》


 ポーン……《称号【暗黒の帝王】を入手しました》


 ふっ、今度はそんな称号か。


 彼は既にNPCからも相手にされなくなり、はっきり言ってやさぐれていた。


 しかしこの暗黒の帝王という称号で全てが変わる。


 早速、彼の元に配下を名乗る者が訪れ、謎の城に案内される。


 そうして玉座へと誘われ、多くの配下に傅かれる事になった。


 ポーン……《魔王が降臨しました。ただ今から勇者の選定が行われ、近日中に魔王討伐イベントが開催されます。詳しい事は公式サイト特設ページをご確認ください》


 ポーン……《アイテムクリエイトに機能が追加されます。全ての武器、防具、アイテムへの干渉を可能とし、上位の物質へと変化させられる、バージョンアップが使えるようになりました》


 おいおい、魔王にならないと開放しないとか、どんな陰謀だよ。


 けどま、やれるだけはやってみるか。


『魔王様、ご命令を』


『うむ、全ての武装を上位変換させる。すぐさま揃えよ』


『ははっ、畏まりましてござります』


 へっ、勇者なんかに負けるかよ。


 ◇


 しかし、必ずいつかは破れる事になるであろう。


 しかもイベントと銘打っている限り、それは確実に訪れる未来。


 負ければ全てが無になってしまう。


 これこそが究極の不遇職ではなかろうか。


 彼は絶望的な未来に気付かぬ振りして、精一杯の努力を続けようと決意していた。


 ◇


 しかしその頃、元βテスターが彼の戦いを見て、面白そうだと感じて特典を行使していた。


 その者は元々生産職であり、初期さえ何とかすれば後はどうにでもなると感じ、彼のやけになったような戦いを見て、歯がゆさを感じていたのであった。


 そうして序盤をやはり同じ行為でクリアするも、小金が貯まってすぐさまそれを止める。


 そうして角ウサギの角を使い、拾った木の枝と合成。


 ポーン……《角槍を生産しました》


 ◇


 彼は自虐の果てに魔王になったあの者を、せめて自分の手で終わらせてやろうと、自作の武器や防具を駆使しながらも、新たな武器防具を生産しながら戦い続け、他の者達ではまだ手に入らないクラスの装備に身を包み、最先端を走り続けていた。


 そうしてあの者が君臨する城に向かう。


 魔王討伐イベントの開始である。



 本人の感性と創意工夫、また閃きとそれを生かす技能。

 それらが合致したその時に、不遇なる境遇は逆転する。


 今回の一連の事柄はそれを証明したとも言えるが、そもそも運営としては、アイテム師は別に不遇でも何でもないただのジョブのひとつであり、情報掲示板の記述はとんでもない言いがかりであった。


 テスターの貧困な発想がそれを生み出したとして、開発担当者は何とかならないものかと感じていたが、後発が見事に再生してくれて、実は嬉しく感じていたとか。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ