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小話と短編は連載となる  作者: 黒田明人
2章 連載版・色々と想定外
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16 感性が異常らしい


やれやれだな。


あの鍛冶屋に移動しようと、荷物をあらかた積み込んでおいて良かったという事か。

宿屋から移動する寸前にあんな事になったけど、おかげで積み残しは小麦の袋ぐらいだな。

まあその代わりに布団とか枕が積み込めたんだから構わないと言えば構わないが。


それにしても、とんだ夢のお告げだったな。


それは良いが、ここも誰も居ないのか。

てかさ、ここってさっきまで住んでいたような感じだけど、何処に行ったもんかな。

まあいいや、居ないのなら居ないなりで荷物の整理をさせてもらうから。


おあつらえ向きの容器があったんだよな。

それにここにもその容器があるんだ。

軽くて丈夫で、なおかつたくさん入るって容器が。


なんかさ、ロウか何かで目止めをしている袋を二重にしたような袋でさ、粉を入れるのに最適な袋なのさ。

だからもしかするとこの袋は安い代物で、小麦粉とか使って空いた袋を捨てているんじゃないかと思うんだが、そんな袋でもオレにとっては大事な袋に違いはない。


だからツボに入れておいた塩とか、狼袋に入れておいた謎の粉とか、他にも狼袋の材料なんかを全部それに入れて、

ツボも最小限にして、狼袋は空にして丸めて纏めて仕舞い込んで場所を空けてある。

そうして倉庫の中も整理した結果、かなり荷物が纏まって減ったんだ。


んでその空いたところに今までに獲得した金やら貴重品やらを入れて、余ったスペースに塩の袋やら謎粉袋やら道具類を入れておいたんだ。

だから荷車にはかさばる物を積み込んであるから、いざとなって荷車を置いていかなくてはならなくなっても何とかなるんだ。

確かに寝る為のベッドやら毛布代わりの毛皮やら、程度の良いツボやら狼袋は惜しいけど、それが命と交換となれば話は別だ。


だからそれと引き換えになるならと、きちんと分けておいたのさ。

荷車に名残り残して命を削る訳にはいかないからさ。

特に塩が無いとどうにもならないから、倉庫のほうにきっちりと全て入れており、小分けすらも入れてあるんだ。


まあいいや、ここでひとまず寝るか。



避難所跡地らしき場所で眠った翌日、またしても荷物整理をする。


避難民と思しき者達が置いて行った荷物の中に、有用そうなのがあったのだ。

とは言っても単なる残り物みたいなものだけど、挽いて残った小麦粉を袋に入れて放置してあるんだ。


いやはや贅沢だよな。


いくら少量でも、パンになる粉を放置するとか、どんだけ贅沢なんだよ。

しかも、作りかけのボールみたいなのまで放置してあるから、そこに水と粉を足したらパンの元になってくれるってありがたいな。

となれば後はこねて寝かせて、あまり膨らまないのはきついが、それでもとりあえずは焼いた後、簡易蒸し器で柔らかくすれば良いだけだ。


塩水と蒸しパンもどきで食事を終え、残っていた肉串も食べておく。


パンのネタはまだ使えるようなので、倉庫の中に入れておく。

その代わり、倉庫の中の武器を取り出して腰に差しておく。


片付けも終わって移動しようとした時、役人みたいな人がこちらにやって来る。


おお、初の人類遭遇か。


え、昨日の? あれは人間もどきだから違うよ。


「少し良いかな」

「はあ、何でしょうか」

「君は……ううむ、違うか」

「え、何か」

「そうだな。うむ、立派な騎士のような方はこちらへは来ておられぬか」

「はい、見てませんが」

「ふむ、となると別の方向かな」

「何かあったのですか」

「いやいや、特には」

「では、失礼します」

「うむ、気を付けるがよい」

「ありがとうございます」


(中々に礼儀が出来ておるな。何処の小僧かは知らんが、善き躾が出来ておる店のようだ。それにしても、1人で買い出しでも頼んだものか。いささか無用心だの)


立派な騎士?


もしかしてあの化け物を倒した奴を探しているのか。

ふーん、立派な騎士があれを倒せるのか。

それがこの世界の常識な訳だな。

となると絶対に名乗り出る訳にはいくまいよ。


こんなしょぼくれたのが倒せるとなると、何か特別な技能があると宣伝しているのも同じだ。

神から受けた特別製の生活魔法など、絶対に知られる訳にはいかない。

となると、どっかの立派な騎士に擦り付ければ良いだけだ。

どのみち、町から討伐報奨金は勝手に徴収したんだし、名誉なんぞは不要さ。


それでも勘違いされるのは困るので、早々に移動を開始する。



過剰反応だと思われるかな。


いや別にあいつがどちらの性でどちらの性を好きになるか、なんてのは別に好きにすれば良いんだよ。

オレはそんな事に興味なんかは全く無いんだけどさ、オレに関わって欲しくないんだ。

そもそも、後ろから首筋に手とか、武器があったら命に関わるような事を平気でしやがって、しかも気配を消してだろ。


あれでダメだと思ったんだ。


あんな事を平気でやれるってのは、まともな人間じゃない。

それが親しい相手ならまだしも、初対面でいきなりやる事じゃない。

それがやれる感性は普通じゃないと感じたからこそ、不意を付いて気絶させて逃げたんだ。


抱き付くとかも異常だし、それがハグにしても初対面でする事じゃない。


初対面でいきなり親しい友人のような立ち位置をするってのは、今までの経験上、そいつの性癖はまともじゃない。

大した経験も無いが、情報的に知っているだけだけど、そういう統計を見た事があるだけだ。

それが無くてもパーソナルスペースがおかしい奴とは、付き合いたくない。

オレはあの時、下手したら2回死んでいたんだ。


首筋と、腹に危険があったんだ。


あいつがたまたまナイフを持ってなかったから助かったようなものであり、いわばあいつの気紛れに救われたに過ぎない。

そういう、潜在的な危険を初対面で平気でやれる感性は、オレに合わないと思うんだ。


そりゃそういうのが平気なら好きに付き合えば良いが、機嫌が悪い時にグッサリ刺されてもオレは知らない。

特にアッチの趣味っぽいから、好まれて余所見をしていたら、知らない間に殺されていたとか、ならないとは断言出来ないんだしな。

興味も無いのに一方的に好かれた挙句、他の人間との対話で勝手に嫉妬されて勝手に殺されたんでは、全くもって合わないと思うから、危うきに近寄らないんだ。


君子危うきに近寄らずは真理だと思うから。


オレは元々素人だから、荒事には縁が無かった人間だ。

なのにいきなり生殺与奪権を握るような相手と、普通に過ごせる程に自分に自信が無い。

せめて言動がまともなら、そこまでの心配はしないんだけど、あれは絶対にダメだ。


あれはさ、子供が虫に対して持つような感情なんだ。


悪意無く、意味も無く、無邪気に人すら殺せる存在だと思われる。

首の部位がまた問題でさ、あいつ、頚動脈をサラリと撫でたんだ。


冷たい手で。


オレはあの時、死神に狙われたぐらいに感じたよ。

そうして落ち着いた頃にあいつの顔を見たんだ。

確かに端正な顔つきだけど、そこに何の感情も浮かんでなかったんだ。


そう、あれはまるで研究者が実験体を見るような。


言葉は確かに楽し気で、好意を持っているかのように言うけど、顔には感情の欠片すらも見当たらず、まるで下手な芝居を見ているようだった。

そうしたら唐突に抱き付いて来るだろ。


それに反応出来なかったんだ。


仮にもオレはレベル100を超えているんだし、そこいらの魔物の動きには対応出来る。

現にここに来るまでに数匹出現したけど、あっさりと対応して倉庫の肥やしになっているぐらいだ。

なのに気付いたら抱擁されていたって、その怖さが分かるかな。


あんな身のこなし、まるで殺し屋のようだったよ。


つまりさ、何時でも殺せる存在だから、優しくしてやっているって感じを受けてさ、必死で隙を伺って、何とか当身を当てて気絶に持ち込めたから逃げたんだ。

次にはもう、絶対に無理だろうと思うから、係わり合いになりたくないんだよ。


もうあちらには戻れないかも知れないけど、まだ人生に絶望している訳ではないからさ。

 

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