14 悪夢の存在らしい
今日は陶芸に挑戦したいと思います。
実は土を見つけたのです。
それも陶芸に使えそうな。
いかにもそれっぽい土です。
まさに陶芸に使えそうな土。
素人でも分かるような土。
はい、見つけました。
えーと、何処にあったのかと言われますと、ですね。
ある店の裏手の、四角い、家のような……はい、蔵の中ですね。
泥棒じゃないんだ、蔵の中の土なんだ、品物じゃないんだ、地面なんだ。
はぁはぁはぁ。
どうしてボクは誰も居ないのにこんなに弁解しているんだろう。
やはり根が善良だから、少しでも怪しい行動を取ると、良心が咎めるのね。
うん、ボクは本当に善良で、悪い事なんて出来ないんだから。
だからあれは悪い事じゃないんだ。
うん、そうなんだよ。
そもそもね、蔵の中とか、カギが開いていたんだよ。
さあどうぞ入ってくださいと、言わんばかりに開いていたんだ。
勧められたら入らないと逆に失礼になるからね、だから入っただけなんだ。
それでも善良だから、気が咎めてしまうんだ。
ただそれだけなんだ。
そうしてね、中に入ったら一面に綺麗な土があったのね。
あくまでも地面にある土だからね、いくら綺麗でも品物じゃないよね。
ボクはこの世界にある土の場所を、少し移動しただけなんだ。
蔵の中の土を少し異動しただけなんだ。
それは取るんじゃなくて移動しただけね。
ほら、取るのは泥棒だから、善良なボクはやれないからね
。
ただ、開けると目の前に土の塊が鎮座していて、
それを作業場まで移動しただけなのね。
これを泥棒と言ったら、移動する人はみんな泥棒になるよね。
それぐらい自然な行為だから泥棒じゃないんだよね。
気を取り直して、土を捏ねていきます。
いきなり食器はハードルが高いので、まずは人形ぐらいからやってみます。
それでも焼き物と言う以上は焼かないと話にならないので、後々に焼くとしても、先に品物を拵えないと焼く以前の問題です。
質の良さそうな土はこねた後で寝かせておきますが、それ以外の土は練習台として今から人形を拵えていくのです。
作っては置き、作っては置き、作っては……
熱中していると周囲が人形だらけになってしまいます。
それにしても、人形と言うより、どう見てもハニワだね。
あの子のハニワ~部屋中に飾りましょ♪
これはね、夢で見みたボクの初恋の子に似せて作ったの。
その子はね、もうすぐ逢えるの。
それが楽しみなの。
だからたくさん作って部屋に飾るの。
そうしてあの子と暮らすの。
一緒に暮らすの。
こねこねして、そっくりにして、並べて……
ああ、早く来ないかな。
もうすぐ来るよ、きっと来る。
逢ったらすぐに分かるんだ。
そうしてボクはあの子と抱き合って、それから一緒に寝るんだ。
だってあの子もボクを好きになってくれるから。
◇・
えーと、今日は、何これ、あれ、ゴミがあるよ。
なにこれ、変な顔。
邪魔だわ、こんなの。
お仕事の邪魔になりそうなので、全部捨ててしまいます。
変な顔の人形は全部捨てました。
さて、今日も鍛冶をやりますよ~
トンテンカン・トンテンカン・トンテンカン……
稼がないと、パンが食べられないもんね。
神様ありがとう。
鉄の才能で色々な物から鉄が取れたり作れたりするのよね。
後は地味なんだけど、縁が繋がる才能で、すぐに人と知り合いになれて、
食べ物とか分けてくれたりするのよね。
工作の才能も欲しかったけど、2つだけだと言うし、仕方が無いのよね。
ああ、また好みのタイプの夢でも見ないかしら。
優しい人が好みで、優しく抱いてくれる人が好きで……
あれ、あの子の人形が無くなっている。
もしかして、あの子のところに行ったのかな?
そうだとすると、あの子もボクを求めてくれるって事だよね。
ああ、嬉しいな、そして、待ち遠しいな。
ええと、これをここに嵌めて……嵌めて、嵌めて……
そうじゃなくてっ。
固いわね……これ、それに凄く逞しくて……
そうじゃなくてっ。
逢いたさが募って、今日のボクは少し変です。
早く来て、そして抱いて欲しいの。
ボクの人形をあげたんだから、それはもう義務だよ。
世の中は義務アンド奉仕なんだからね。
鋼の板をここに嵌めて、こーして、あーして、えっと、あれ?
部品が、こうだから、こうなって、あれ、足りない、何処行った?
あったあった、これをここにこーして……バキッ……ああああっ。
えっと。
さて、お昼にしますかね。
小麦粉をこねて、パンを作り……
ええと、水を入れて練って固めて焼いて……
粉にするのが大変で……
ゴリゴリゴリゴリ……
ハックション……
ああ、粉が……
ゲホッゲホッ……
今日はお肉にしようっと。
隣のお肉屋さんの戸が開いていて、どうぞご自由にって言うからもらったんだ。
ほら、ボクは善良だから、カギを壊したりはしないんだ。
そういうのは泥棒だからね、ちゃんと入っても構わない、開いているトビラからしか入らないんだよね。
手前にあった肉を食べます。
うん、ちょっと変な味。
でもこれがお肉の味だよね。
でも、なんか、変だな、これ。
冷たくて、あんまり美味しくない。
どうしてなんだろうね。
えへへ、焼いてなかった。
ついうっかり焼くのを忘れていたみたい。
本当にボクはうっかり者だね。
さーて、焼きますよ~
焼くのも良いけど、今日はフライにしようから。
あれ、フライって焼く事だっけ?
それとも煮るんだっけ?
いやいや、揚げるんだよね。
ボクは何を言っているのかな。
愛しい人に中々逢えないから、少し変になっているのかも。
うん、そうだよね、だから逢ってきちんと愛してくれたらまた元気になるよね。
ボクが愛している、のは、ボクを好きな、のは、ボクを刺し、た、キミじゃ、なくて、ボクは、ボクは……
あれ、油?
油なんか何に使うの?
てんぷら鍋も無いと言うのに。
そういや、鍋を買わないと。
あれ、肉とか何時買ったんだろう。
変だなぁ。
あれ、お腹が……
どうしたんだろう。
変なお腹が痛いんだ。
いたたたたたたた……
お腹が……いたたっ、いたたっ……
◇
うわあああああっ……
はぁはぁはぁ、夢か。
うわ、鳥肌が立ってら。
あんな夢、なんで見たのかな。
ああ、もう、キモくてキモくて。
朝から食欲も出ないぞ。
ふうっ、何だ、あの夢は。
オカマさんの夢かと思えば、ただのオカマさんの夢じゃなくて、色々と辻褄が合ってないんだ。
まるで多重人格者のようなオカマさんが、恋人を待っているような。
てかあれ、もしかしたら、恋人に殺されて転生とかじゃないのかな。
だからおかしくなったまま転生になったとかさ。
自分を善良と言いながら、やっている事は空き巣だし。
悪い事は出来ないと言いながら、それをやっているのがまた怖い。
罪の意識が無いって事だからさ。
ああいう人はさ、自分が納得したら罪の意識の無いままに、何だってやりそうだろ。
だから怖いんだ。
それにしても知らない男、それもオカマさんの夢を見るとか、予知無だったらどうしよう。
もしかしたらそんな夢を強制的にとか、だとすると遭ったら即逃げしないと拙いかも。
そういや、もうすぐ恋人に逢えるとか言っていたし、オレと勘違いされたらきっと、説得は無理だぞ。
油断させて、気絶させて、即逃げだな。
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