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小話と短編は連載となる  作者: 黒田明人
1章 小話1と小話2より抜粋
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02 空は空でも空違い

 火・水・風・土、これが基本属性と呼ばれている。


 確かに他にも、光・闇・聖、という属性もあるが、これらは滅多に出ないと言われていて、光が出れば勇者、聖が出れば聖人、もしくは聖女と呼ばれるようになるという。

 そして闇は人族には発現しないと言われていて、魔族で発現すると、魔王になったりするらしい。

 そんな属性検査の結果、何故か僕の属性は『空』だったのである。


 おや、これはもしかしてと、当時はそう思った。


 確かにくう属性ならば本当に希少な属性だったのだから。

 そうして僕は空間魔術を志し、そして夢破れる事になった。

 その結果、から属性なんて呼ばれるようになっていた。

 なんせどんな魔法も行使出来ないにも関わらず、ステータスには空属性と書かれているからだ。


 しまいにはステータスの誤字じゃないかと言う奴も現れて、くう属性で読みは合っているものの、食う属性じゃないかと、成長期な彼の食欲を違う意味に取って揶揄される始末。


 そうこうしているうちに、弟が有望属性を得たという話を聞くに及び、次第に肩身が狭くなっていた。

 それでも母親のみは彼に優しくも、それだけでは防げずに彼は祖母の元に送られる事になる。

 母親は付いて行きたがったが許されず、彼は独りで向かう事になる。


 そうして田舎の街でもろくな扱いを受けなかったが、それでも優しい祖母だったので救われていた。


 だけどそんな祖母も数年後に無くなり、僕は1人で暮らすようになっていた。

 それと言うのも母親はあれからしばらくして身体を壊して亡くなったと聞かされており、もう彼の味方をしてくれる者も出ずに呼び戻される事も無かったからである。


 それにしても酷い話だ。


 たかが魔法の属性が無いぐらいの事で、どうしてこんな扱いを受けないといけないの?

 世の中には魔法が使えない人なんてごまんと居ると言うのに、貴族で使えないのがそんなに恥なのか?

 大体、この街の奴らも使えない人が殆どだというのに、どうして僕だけがこんな酷い扱いなんだろう。


 あり得ないよ、こんなの。


 それに対する答えは得られるはずもなく、僕は自給自足で暮らしていくしかなかった。

 近くの森では様々な薬草が採れるので、それを採取して売ればいくらかの金にはなった。

 それは足元を見るような買取価格だったけど、それでも金にしないとパンが手に入らない。


 そのうちに段々と僕への態度が更に酷くなり、もういくら採取してもまともな金にはならなくなり、遂に街との取引を切った。


 その時に町長と話す機会があり、実家からの手回しと知ってますます嫌になったんだ。


 もちろんいくら白状したからと言って、実家の手先になって冷遇していた街などに用は無く、行商人の方でまともな人との細々とした取引で命を繋ぐ事になる。


 そうして街に薬草が入らなくなり、町長が更迭されたという噂が行商人から得られたが、その頃にはもはやどうでも良かった。

 確かにあの森は私有地だけど、実家から許可はもらえなかったみたいだね。

 それと共に、僕のほうも禁止にしなかったみたいで、祖母にはそれだけの力があったんだと思っている。

 なのに祖母が亡くなってもそのままだったのは、こちらの事なんてどうでも良かったのかも知れない。


 森の薬草を庭で栽培したり、森で狩りをして毛皮を集めたりしてそれを行商人に売って小麦にしたり、衣服や生活用品を得ていた彼。


 既に魔術師を志していた事など忘れたかのように、狩人として一端の腕になっていた。

 貧しい暮らしでは到底、伴侶など望むべくも無かったが、男の手料理も慣れればそれなりに食えるようで、たまに行商人が訪れると宿泊を勧めて食事を出し、それなりの賞賛を得たりしていた。


 そうして貧しくものんびりと過ごしていた頃、行商人から弟が跡目を継いだとか聞いたのと、長男が病で亡くなった事になっていると聞かされた。


 平民ならば魔法が使えなくても珍しい事じゃない。


 だから死んだ事になったのならもう、貴族としての対面に拘る事も無いだろう。

 これで実家からの嫌がらせも止まると思うと、その仕打ちに感謝すらした彼だった。


 事実、それから街との折り合いはまともになり、行商人との取引の他に、街との取引もやるようになる。


 既に中年となっていた彼は、老後に備えて多少の備蓄をしようと思っていた。

 日に日に働いて薬草を売り、狩りに出ては獲物を獲て毛皮を蓄えにする。

 そうして行商人には蓄えを売り、塩などの必需品を得る。

 街でも外から得る塩なので、行商人のほうがお得なのである。


 そんな、ある意味気軽な、そしてのんびりとした時は静かに流れ、周囲の自然は変わらぬままに、彼の年月だけが積み重なっていた。


 行商人が代替わりして気付く、自分の年齢。


 いつの間にか壮年を過ぎて老年に差し掛かっている自分は、かつての父親よりずっと年上になっているのに、僕は独りきりだと、ずっと忘れるように胸に秘めていた郷愁に心を痛める。

 実家では弟の子が跡目を継ぎ、弟は引退するも孫に囲まれて幸せだと聞いた。


 全て僕の得られなかったもの。


 少年の頃は実家からの嫌がらせで街との交流もやれず、中年になってからようやく和解したものの、既に交流など望むべくもなかった。

 それでも取引だけは何とかやれたものの、異性との対話など買い物のやりとりぐらいが関の山で、浮いた話など欠片も存在しなかった。

 それでもまともな収入があればまだしも、薬草売りと狩りの稼ぎじゃ来てくれる人など居なかった。


 ああ、神様、どうして僕はこんな事になったの?


 誰も答える者の無い家の中で、段々と意識が薄れていく。


 ああ、もう、終わりになるんだな。


 おばあ様が亡くなってから、何も良い事は、無かった、な……


 街との和解が、もう少し、早ければ、僕にも、お嫁さん、が来て、くれた、のかな……


 そもそも、貴族、なんて、どうして、この世に、居るの、かな……


 どうして、虐待、なんか、受けるの……


 ねぇ、かあさま、ぼく、は、きぞく、なんて、なりたく、は、なか…… 


















 霧散したはずの彼の意識が収束していく。


 それはひとつの形となり……


 似て非なる存在として……


 顕現した……













 あれ、どうしたんだろう。


 確か、意識が無くなって……


 僕は死んだはずだよな。


 うわぁぁぁ、死体だ。


 と思ったら僕だよ、これ。


 じゃあ僕は今、死んでいるのかな。


 なのにどうしてこうやって動けているの?


 それにしても軽いな。


 思うままに何処にでも行けるよ。


 自分が風になったような気さえする。


 これは、まさか、僕の属性ってまさか……


 属性が無いんじゃなくて、森の民だけが持つと言われるあの……つまり、かあさまはもしや……だから、だとするとどうしてそれを……そもそも人族の父親とどうして結婚を……いや、結婚をした話は聞いた事が……つまりは、そう、なのか。


 意に染まぬ連れ合いとの間に生まれたのが僕で?

 本当は僕を連れて森に帰りたかったのかな?

 え、でもそんな事があり得るの?

 森の民と人族じゃ生まれないってのは嘘なの?


 え、じゃあ父親も?

 あり得ないよ、そんな事は。


 となると、僕の父親は別に居るって事になり、母様は僕を身篭ったままで父親と暮らすようになり、僕を産んだものの僕と森に帰る計画に失敗したのかな?


 そうか、僕は人族に……


『ようやく覚醒したか、我が子よ』


 その声は?


『あれから50年余り、実に長かったぞ』


 僕はどうして人間になってたの?


『あれはの、我の、つまりの……』


 もしかして、森の民だったかあさまに惚れたの?


『ううむ、つまりは、まあの……』


 それを奪ったんだ、あの男が。


『このようなはずではなかったのだ。なのにあの者が森より奪い去り、なれどおぬしは既に母親の中で育っておった』


 じゃあ、僕はあの家とは関係無いんだね。


『無論じゃ。そもそも、森の民と人族など、まともな子は望めぬものじゃ。なのに人族は意味も無く得ようとする愚か者じゃ。挙句の果てに命まで縮めおってからに』


『もう良いではありませぬか』

『う、うむ、なれどの』


 え、かあさま?


『さあ、あなたも現世の事などもう忘れて、私達とずっと過ごすのよ』


 はい、かあさま……


『もっと近くに来ておくれ、我が子よ』


 とうさま、かあさま……


『お帰りなさい、くすくす』

『おお、これが我が、子、なのだな』

『そうですわ、あなた』

『おお、おお、なんとも、温かい、の』


 とうさま、かあさま……


『ふふふっ、ずっとこのまま、我達と共に』


 はい、とうさま、かあさま……


(そしてもう、人族への祝福は要るまいの。あやつが人の世に生きておる間は耐えておったが、もうそろそろ限界じゃ。既に話を聞いて他の者達も愛想が尽きておる。じゃから共に祝福を止めて移住の話で纏まったのじゃ。元より精霊術さえ分からぬようになった人族の事を、なして祝福してやらねばならぬのか。空の属性、海の属性、山の属性、花の属性、そして天の属性すらも認知されておらぬ有様じゃ。天属性の巫女を神扱いしておる有様じゃしの。あれでは本当の神に肩身が狭いと嘆いておったの。まあよい、それももう関係が無くなるのだからの)

 

空は『くう』でも『から』でもなく『そら』だったというおはなし。


精霊に見捨てられた人族に未来はあるのか。

あるとしたらそれは、剣と魔法の世界ではなく、もしかすると現世のような……


-忘れ去られた知識-

そら属性とは、精霊術を指しそう言われる。

そうして精霊術は根本的に魔法ではなく現象である為に、通常の方法では発現しない。

祝福によって精霊との交信で、一種の契約をする必要がある。

そうして欲しい現象を願うのだ。

そうすれば魔法に酷似の現象が顕現する。

それこそが精霊術の極意である。

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