表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小話と短編は連載となる  作者: 黒田明人
2章 連載版・色々と想定外
15/27

05 またも廃墟らしい


歩く歩くひたすら歩く。


そうして敵が出ればエアマシンガンもどきで対応して、きついならそこに落とし穴。

あんまり持てる量に余裕が無いので撃退を主眼にしているが、それでも襲ってくるなら倒さなくてはならないようだ。

それでも少しずつは進んでいるようで、周囲の様相も少しは変化している。

そのうち前方に森が見えてきた。


そう言えばこの辺りって……左を見ると見覚えのある林がある。

どうやら北に進んだようで、逆戻りになってしまったものの、当時はそんな方角の事まで考える余裕なんて無かったからな。

そう言えば狼穴は相変わらずまだあるようだけど、その中はどうなっているのかな。


うえぇぇ、腐ってるとか想定外だよ。


後始末をしておこうと、全てを限りなく浅い穴にしておいた。

病原菌とかあるのか無いのか分からないけど、もしあった場合は死の草原とか言われたら困るからな。

それから林に向かい、以前登った木の根元にやって来る。


この木の枝は寝るのにちょうど良かったんだよな。


周囲が涼しいと言うか寒いぐらいなので、早めに休息を取ろうと思ったんだ。

まだ夕方ぐらいだけど、もうかなり肌寒い。

本当はこんな時期に移動なんてしたくないのに、塩がもっとあればと思うが、無い物は仕方が無い。


木の上の枝が交差している場所に横たわり、今度は用心で落下防止のつる草ロープを付けておく。

以前落ちなかったからと言って、今回も落ちない保障は無いからだが、寝返りさえ打たなければ落ちる事は無さそうだ。

もっとも、そんな奇跡に縋る気も無いので、用心に越した事は無い。


夕食は薄い塩味の串肉で済ませ、コートを羽織って袋を枕にしてのんびりしていると、歩いて疲れたのか眠くなってきた。

以前と違って葉もまばらな枝なのでかなり風の通りが良く、コートを作っておいて正解だなと思いつつ、眠りの中に入っていった。


翌日は晴天でした。


冬の空とは思えないカラリと晴れた空を眺め、塩味串肉を食べて移動を開始する。

コートを仕舞おうかと思ったが、身体が温まるまでは羽織っておこうとそのままにして、とりあえず移動開始だ。

そこらに落ちている小枝を拾い、背中の袋に入れていく。

ここらにはそういう物もあるが、この先にもあるとは限らない。

確かに森は見えているが、どんな場所なのかも分からないのだから。


そのうちに森の詳細が分かるようになってきたが、これはただの森じゃないようだ。

何と言うのか、何かのガレキが散乱している感じからすると、都市が崩壊してそこが森になった感じと言おうか。

中に入っていくと、外からじゃ分からない中の様子が見えてくる。

やはり、町が森になったような感じのようで、石造りの建物の残骸があちこちにある。

既に木造の建物は土に還っているようだが、石造りだけが残っているって感じだ。


つまりこれは遺跡になるぐらい古い町の名残りであり、ただの廃墟って訳じゃ無いみたいだ。

この世界に考古学の概念があるかどうかは知らないが、こういう場所の調査とかはやらないのかな。

崩れそうにない石造りの建物を選んで入ってみると、太古に使っていたと思われる道具の成れの果てが見つかる。

何に使うのかは分からないが、これなんか……手に持とうとするとバサリと崩れた。


どうやら形だけは保っていたが、相当に風化が進んでいたらしい。

これが学者なら、貴重な文化的遺産が、とか言うんだろうけど生憎とそんな趣味は無い。

あちこちで探してみるものの、使えそうな代物は見つからない。


ただ、これはという物が見つかった。


どうやらここは公衆浴場の跡地のような感じで、しかも露天風呂だったようだ。

屋根が崩れたような感じじゃなく、最初から無いみたいだからだ。

さすがにこんなにでかい浴槽に水を張ってまで入りたいとは思わないが、風呂の習慣のある者達が暮らしていた事は収穫だ。

つまりこの世界にも浴槽に湯を貯めて入る習慣があるようだからだ。


小説なんかでは蒸し風呂とか、そもそもそんな習慣すらも無いとか、様々な設定があったようだけど、こういうタイプの環境は望ましい。

ただこれが他の町にもあればの話だけど、それはそうなった時に期待するしかないだろう。

そうして中をうろうろしていると、妙な物を見つけた。


これ、何だろう?


丸い球のようなものに棒がくっ付いている感じ。

そこまで朽ちてないようで、棒は頼りないが球は多少欠けているものの丸さを保っている。

もしかしてこれって、そう思って肩をトントンと叩いてみる。


うん、多分だけどこれ、肩叩きだ。


風呂の中で肩を叩くってのも変だけど、他に考えようもないからな。

球はガラスっぽい材質で柄は石っぽい材質なので長期間でも朽ちてないんだろう。

それにしても肩叩きが1つだけポツンとあるのも変な話だな。


とりあえず、これは持っていこう。


大した重さでも無いので何とか小物入れに入ったので、何かに使えれば良いかと持っていく事にした。

他に目ぼしい物は無いみたいで、もう少し先に進んでみようと歩き出す。

相変わらず道にはガレキが散乱していて、所々に木が生えていて歩き辛い。

それでも何とか進んでいくと、また景色が変わった。


これはまた想定外。


一面の石畳はあちこち破損しているものの、さっきの場所とは比べ物にならない。

これは年代が新しいのかも知れないと思った。

第一、通路に木とか生えてないし。

木造の建物の名残りが分かるぐらいの古さのようで、石造りの建物もしっかりしている。


なのに誰も居ないんだよな。


何が原因で放棄したのかは知らないけど、これだけの規模の町を捨てるなんてもったいない事をするものだ。

今度の町は残留物がかなりあり、それもあんまり朽ちてないので調べるだけの事はある。

これは少し腰を落ち着けて調べてみるのも良いかも知れない。

そもそも南に行こうとはしているけど、特に目的がある訳じゃない。

確かに塩が欲しいけど、あの廃村でも手に入ったんだし、ここにももしかしたらあるかも知れない。

それを調べてからでも遅くないだろうし、それぐらいなら塩味串肉も保つだろう。

そういう訳で暫定5日の調査期間を設ける事にした。


5日間ここで色々と物色して塩が見つかれば住処を探して滞在継続、無ければ諦めて移動開始にする。

そう思っていたんだけど、いきなり塩のツボを発見して拍子抜ける。


無いかも知れないと覚悟していたのに、こんな想定外なら嬉しいな。


穀物の袋は無いみたいだけど、ツボには塩がかなり入っている。

ざっと数えたら8つもあり、これならば相当長く保ちそうだ。

さすがに全ては小物入れに入らないので、重い物を出して何とか入るように調整する。

背中に背負う重さが増えたものの、まだまだ余裕はある感じだ。


他にも無いかと探してみるが、塩のツボ以外では目ぼしい物は無かった。

他の建物はどうかと思い、あちこち入ってみたものの、殆ど何も無い感じ。

家具の残骸はあるものの、まともに使えそうな物は無かった。

もっとも、焚火にするには材料に事欠かないようで、家具の残骸を暖炉みたいな場所で炊く。


ああ、暖かいな。


今日はここで休もうかと、あちこちから家具の残骸を集めてくる。

そうして叩き壊してマキにして、くべていけば部屋中が暖かくなっていく。

もちろん隙間風は自由自在にそこらを走り回っているが、それでも外よりはましだ。

それでも大きな穴だけは塞いだので、かなり部屋が暖かくなった。


そうしてまた家具の残骸を叩き壊していると、チャリンと何かの音がする。

よくよく見ると金色の丸い金属が何枚か散らばっている。


これって金貨かな。


知らないおっさんの肖像画が描かれた金貨のようで、裏には花のような模様が描かれている。

他にも無いかと思い、残骸を物色してみた感じでは、どうやらヘソクリみたいなのを入れたまま忘れたような感じで、朽ちた皮製の入れ物の中に合わせて28枚見つかった。


これはそのうち使えそうだな。


またしても小物入れ行きである。

その日は結局そこで就寝となり、もはや恒例となった塩味串肉が夕食になった。

ただ、こう毎回肉だけでは拙いので、数は少ないけど手持ちのスープを消費する事にした。

熱々でツボに入れて小物入れに入れたスープは5つしかないので大事にしようとは思うものの、肉だけの食事じゃ心配なのでここいらで摂ろうと思えたんだ。


久々に味わう山菜汁はとても美味しく、野菜不足だったのを痛切に感じた。

本当は毎日食べないといけないんだろうけど、こんな石の町では雑草すらも生えてないからなぁ。

もちろん、多少はありはするが、食べられそうな草って感じじゃない。

それこそセイタカアワダチソウみたいな本当の雑草っぽくて、とてもじゃないけど食べようって気にならない。


それでもこれはこれで使い道が無い訳じゃない。

カゴまでは無理にしても、それっぽい代物は以前も拵えていて、簡易の道具入れにしていた事もある。

荒いろ過にも使えるので、腕を磨く意味もあってそれを編んでみようと思った。

そこいらに生えている雑草を集めて回り、草を編んでカゴっぽい代物を拵えていく。

最初の頃よりはコツを掴んだのか、調子良く編めているような気がする。

これに慣れたら麦藁帽子も作れそうなので、夏場に備えて意欲も沸いてくる。


確かにあちらの世界なら安価で売られているような帽子だけど、こちらの世界にあるかどうかは分からない。

あれはあれで夏の暑い盛りにはちょうど良い帽子なので、今から腕を磨いておけば麦の藁が無くてもこうして雑草では編める。

藁に似たような草で編んで乾燥させれば、それっぽくなりそうな気もする。

それに何事も経験しておいて悪い事はあるまいと、熱中して編み始める。


こういうの、好きなんだよな。


そういや昔、牛乳の紙パックでカゴとか作っていたよな。

あれは母親の趣味の手伝いだったが、もうあちらの世界には両親は居ない。

まさかフルムーンの旅行で両親共に亡くなるとか想定外だったな。


そうして天涯孤独になって3年目だったっけ。

そういや当時、もうすぐ墓参りにとか思っていたような気がする。

不義理になっちまったけど、想定外だから勘弁してくれよな。


それにしても誰が投げたんだろう、三輪車とか。


あれって殺人だろうけど、投げた奴はちゃんと罪に服したんだろうな。

頼むから二階からガキが投げたとか、そういう落ちだけは勘弁してくれよ。

罪にあたわずな年齢でも、殺した事実は変わらない。

しかも、そんな年齢だと歪んでしまうかも知れないよな。

あの辺りは都会だったから、人通りもそれなりに居たはずで、目撃者も居ただろうから騒ぎになったろう。


まあ、全ては妄想だけど、酷い事になってないといいな。


確かにあちらの世界では死んだけど、こうして今は生きているんだし、あんまり恨みとかも無いんだ。

そりゃ人にまだ会えてないから少し寂しいけど、元々は独り暮らしだったから慣れている部分もある。

今はとりあえずは生きていられるから何とかなっているけど、そのうち人の住まう町に行きたいものだ。


さて、何とか形になったし、今日はもう終わりにしよう。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ