04 腐っていたらしい
ニカワ製作をやると、それっぽい代物になりました。
不純物のろ過に困ったものの、以前使った後ろポケットのろ過袋でゴミなんかは取れたので、それっぽくなった状態で口の欠けたツボに入れて小物入れの中です。
そろそろ持てる限界が近いようで、入れる物も限定しなければ、とは言うものの、罠で少しずつ階級の上昇があるようで、現在は25になっているのでもう少し余裕があるかも知れません。
そして遂に弓が入ります。
後は穂先の無い槍が入れば良いんだけど、3メートルぐらいなので、もう少し上がれば入りそうです。
着火も階級の上昇と共に進化しました。
イメージのままに温度が変えられたのは良いほうの想定外、なのでバーナーみたいな着火もやれるようで、持続時間も延ばせました。
ただ、長時間は無理のようですが、それでも鉄がドロドロに溶けたのにはビックリしました。
そこいらから石を拾ってきて溝を彫り、溶けた鉄を流し込みます。
穴の形状すらも変えられるようで、調子に乗って釣り針の形の穴を掘り、そこに溶けた鉄を流し込んでみました。
軟鉄な針を熱して水の中に入れての急速冷却で硬くしようと思ったのです。
最初はポッキリと折れていたが、何とか弾力のある針が作れたので一安心。
こういうのはやればやる程に意欲も上がるようで、気付けばすっかり鍛冶屋もどきの生産職をやってました。
鍋底の修繕もまともになり、全く水が漏れなくなったのがありがたく話で、ニカワもそれっぽくなってこれまたありがたい話。
問題は塩の在庫が怪しい事ぐらい。
◇
今日は絶好の釣り日和。
とは言うものの、竿は弓でも構わないけれど、テグスがありません。
抜くとハゲが心配なので、髪の毛は根元で切りましょう。
はい、そういう訳で髪の毛のテグスです。
切る物が無いので困りましたが、包丁の先で少しずつ切りました。
元々、散髪に行かないといけないと思っていたものの、何となく面倒で放置していたので、肩甲骨の中ほどまでになっていたのです。
野郎のポニテとか見苦しいので、近々と思っていたところにこんな想定外な事態になってしまいました。
なので50センチぐらいある髪もありまして、根元の辺りで適当にザクリと切って、数本ずつ繋いでテグスの代わりにしました。
さすがにそれで縄を編むほどに器用じゃないし、第一編み方なんて知りませんので、ニカワを活用してくっ付けたんです。
髪の毛テグスの完成です。
実は村の中に小川が流れていて、かつては野菜なんかを洗っていたのかも知れません。
そこには何か泳いでいるようで、早速にもそこらの石をひっくり返します。
中々虫が出ないのですが、そのうちそれっぽいのを見つけました。
それを自家製釣り針に刺して釣りの開始です。
一応は返しっぽいのも拵えてありますが、事によるとすぐに欠けるかも知れません。
念の為に焼き入れはしたのですが、硬くなり過ぎると脆いとか言いますし。
こうしてぼんやりしていると、異世界というのを忘れそうになります。
人が居ないのは残念だけど、少し肌寒いがまるで晩秋を思わせる風景は、ひなびた山村みたいで風情を感じたりします。
ふと、手に何かの振動を感じて我にかえり、そこで釣りをしていた事を思い出す。
ぴくん、ぴくん、ぐいっ、今だ。
来た来た来たぁぁぁ……。
合わせが成功したようで、小さいながらも確かな手ごたえを感じ、後はバラさないように気を付けて少しずつ引いていきます。
どこかで見たような魚ですが、名前は分かりません。
こういう時に『魚の名前が分かるスキル』があれば便利だったのになと、今更のような事を思ってしまいました。
どれぐらい前から廃墟になっていたのかは知りませんし、この村の住人に釣りの心得があったのかすらも知りませんが、スレてないようで意外とすぐに釣れてくれました。
調子に乗って数匹釣れたので、その日の夕食は焼き魚も加わり、異世界生活初の献立は自己満足の結果、久しぶりの満足感の中に心地良い眠りとなりました。
布団? もちろん毛皮です。
◇
進化した生活魔法は、その性能が想定外。
捌いた魚に『丸洗い』を使ったら、鱗やら骨やらヒレやら皮やらが洗い流されて魚肉だけになりました。
なので今日は鍋にします。
とは言うものの、ここ最近鍋ばかりですが、山菜鍋です。
村の中のやぶのようなところには、山菜もどきがあったんです。
詳しくは無いが、イタドリみたいな竹の出来損ないがあったので、塩煮して皮を剥いて炊いてアクを取った後に『風出し』で急速乾燥をして干しておきました。
他にもサイトで見たような山菜を見つけ、同様にあく抜きをして乾燥させておきました。
それらを少し使えば山菜鍋になると。
なんせ娯楽が無いので仕事をするしかなく、とは言うものの試行錯誤なので時間も掛かり、気付けば夜になっているって事も多く、退屈など発生する事も無いのは幸いでした。
素人クリエイターもやっていればいくらか慣れるようで、既に最初の頃のようなぎこちなさはありません。
もちろんプロに笑われそうな手つきですが。
今日の山菜鍋は魚肉入りです。
それは良いのですが、そろそろ塩が心許なくなってまいりました。
まだありはするのですが、このままだともうじき無くなってしまいそうです。
そろそろ旅立ちの時期なのかも知れません。
幸いにも残留物で様々な道具は出来たので、道々の役に立ってくれるでしょう。
階級も30を越えたので、かなりの道具が小物入れに入っていますし、塩味串肉も入っています。
塩を直接揉み込むと量を使うので、塩水に浸けてから焼いています。
なので薄味串肉になりはしたものの、かなりの数になったので毎食でも1ヶ月ぐらいは食べられそうだけど、塩分の取り過ぎにはならないと思います。
そうして周囲の山菜っぽい代物もかなり集め、既に乾燥三歳として小物入れの中です。
そんな訳で、長らく住んでいたこの廃村ともお別れです。
可能な限りの道具と食べ物を小物入れに詰め込み、手には手製の槍と背中には弓と矢の容器と袋を背負っての旅立ちです。
あれから弓の弦にと、そこらのつる草の中でも丈夫そうなのを見つけ、既に試射も終えています。
20回ぐらい撃つと切れてしまうのですが、予備も10本ぐらいは小物入れに入っています。
矢も枝を切って乾燥させて、やじりも拵えたまでは良かったんだけど、肝心の矢羽の為の鳥がどうしても見つからなくて、仕方なくボロ布を矢羽に見立ててニカワで貼り付けています。
一羽も出会わないとは想定外でした。
とりあえず矢は10本しかありませんが、メインウエポンは槍なので弓は保険です。
その代わり、やじりは可能な限り拵えて小物入れに入れてあります。
そうして愛用していた修繕した鍋も一応は背中に背負っていますし、包丁の類も腰に差してあります。
刃物サックは狼の毛皮で何とか拵えましたが、ニカワでくっ付けてあるだけなので長持ちはしないかも知れません。
ハンマーは惜しいので持参しますが、叩き台は残しておく事になりました。
階級が上がったせいか、かなりの荷物なのに辛くありません。
実はリュックを拵えようと思ったのですが、どうにも無理なようでナップサックの出来損ないになってしまいました。
ただ、狼の毛皮の利用なので寝る時には枕になりそうですが。
ああそうそう、毛皮で上着も作りました。
もちろん上着もどきであり、実際には毛皮の毛布に近い代物なので、どちらかと言えばコートという感じです。
それと言うのも段々寒くなってきたので、それがどうしても必要だったのです。
もっとも、冬らしき時が過ぎるのを待ちたかったのですが、生憎と塩がヤバいので仕方が無いのです。
恒星の移動する関係から方角が分かり、南に進んでみようかと思っていますが、南半球、もしくは金星のように西から登って東に沈むなら逆になるので、北半球の地球型なのを祈るばかりです。
そう言えば攻撃魔法もどきが出来たんでした。
『高温着火』の投擲です。
この世界の物は魔力を含んでいるせいか、燃焼が地球とは違うようで、小枝でもかなりの熱量で燃えてくれます。
油は更に顕著で、ただの動物の脂なのに料理に使うのが危険なぐらいに燃えてくれます。
しかも、小さなツボに入れ、朽ちた繊維でこよりのようなものを漉しえらて、着火すると派手に燃え出した挙句、一気に油に引火して小さな爆発を起こしてしまいました。
これは想定外。
ここまでの威力を制御する方法が見つからないので、まずは投げ易いサイズに切った木に穴を掘り、油を流し込んで底の浅い穴に上書きすると共に、油を封じ込んでみました。
そして投げたら即座に『高温着火』するんです。
そうすると瞬間的に派手な燃焼となって中に燃え進んでいき、しまいには炭化するんですけど、それが灰になるまでに目標にぶつかると散らばった脂に引火して、ちょっとした爆発魔法もどきになったんです。
想定外武器・手投げ式燃料爆弾の完成です。
そうして風出しも進化しまして、更なる強風も可能になりました。
さすがにウインドカッターとかは無理ですけど、強い風はそこいらの石ころも吹き飛ばします。
しかも瞬間的な強風の場合だと、ちょっとした打撃に似た現象になります。
風で殴る感じですかね。
試しに狼で実験してみましたが、可哀想に飛び掛った体勢のまま吹き飛んでしまいました。
そうして何度もやっていると逃げてしまいました。
なので次は逃げられないように穴の中に落としての作業で簡単な狩りになり、集まった狼達は食料に化けてしまいました。
これで狩ると傷が付かないので綺麗な毛皮になるのは想定外でしたが、良い服や毛皮毛布になりそうです。
こうなるとエアマシンガンです。
飲み水も大量に出るし、水出しの水は更に大量に出るようになったので、浴槽っぽい穴を掘ってお風呂もやれています。
側面と底を硬い感じに穴を掘ると、水も漏れない造りになるんです。
そうして底全体を着火で熱してやると、五右衛門風呂みたいな底の熱い風呂になり、入るのに苦労したけど何とか風呂っぽくて、適温になるまで放置した後、久方振りのお風呂を味わいました。
灰とアクと脂を使った石鹸もどきじゃあんまり泡も出なかったですが、無いよりはましなんだけど、肝心のタオルが無いので下着を代用した。
さすがにパンツのほうじゃないよ。
ただ、『丸洗い』すれば砂埃とか酷い汚れは取れてくれたので、そこまでゴシゴシと洗う必要が無かったのは幸いでした。
そうして出発の前にも風呂に入り、ぐっすりと眠って翌日の朝、荷物纏めて背負っていよいよ廃村を出る事になりました。
さあ、行きますか、新天地へ。




