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小話と短編は連載となる  作者: 黒田明人
2章 連載版・色々と想定外
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03 肉は食えるらしい

 



 それからも試行錯誤は続いていく。


 例えば鍋の修繕であるが、鉄とか溶かせないのでどうしようかと思った挙句、小銭入れの中の10円玉の活用を思い付く。

 銅ならば鉄の容器で溶かすのは無理でも柔らかくなるはず。

 まずは叩く為の台をどうにかしないと、鍋の中をいきなり叩くとかやれそうにない。

 そこで思い付いたのが壊れた石臼で、早速にもハンマーで叩いて整形していく。

 硬いので簡単には形が変わらないが、叩き台ならばこれぐらいのほうが安心だ。

 それで何とかそれっぽい形になったので持ち帰り、鍋を逆向きにして割れ石臼に載せる。

 穴の大きさは10円よりも少し大きいので、まずはそこに10円玉をはめてみる。

 このまま叩いても多少は伸びるだろうけど、接着しないと意味が無い。


 熱を加えないのならニカワでも良いだろうが、生憎と煮炊きするには相応しくない。


『着火』のスキルを10円玉の表面限定で試してみると、1回じゃ無理だけど何度もやると柔らかくなった。

 スキルを使いながら叩いていくと少しずつ伸びていくような感じがする。

 そのうち10円玉の原型を留めなくなり、動かしても外れない感じになりはした。

 ただやはり多少水が漏れるのは仕方が無いので、鍋を空焚きして継ぎ目の辺りに草の汁を流して焦がしてみた。

 ダメ元だったんだけど、少し漏れが減ったような気がする。

 それから煮炊きはその鍋もどきを使い、コンスタントに山菜汁もどきが作れるようになった。

 他の穴開き鍋も同様に修理して、何となく使える代物になったんだ。


 そう言えば、あの穴って落とし穴の罠になるよな。


 と言うか、落とし穴の罠を作るのがとても楽だろう、なんせ穴を掘る労力が要らないんだから。

 そう思って村の外で色々と試してみたんだけど、穴の形状には底の形状も含まれるようで、尖った槍みたいな底にするのも可能だったんだ。


 更に言うなら空洞タイプの穴も作れるようで、地上の厚みをそのままでは落ちないぐらいにしたうえで、中の形状をそれなりにして、地上部分をそのままという、一見何も無い落とし穴になった。


 もちろん試行錯誤はかなりやったんだけどな。


 そうして草原のあちこちに穴を開けて落とし穴にしてみたんだけど、知恵ある存在への警告の為に木の枝を1本差しておいた。

 未だ人には会えないけど、この世界に狼しか居ないはずもない。

 もしかしたら誰かが通りかかるかも知れないし、それが冒険者みたいな専門職じゃなくても木の枝で気付くはずだ、ここに罠があると。

 こっちも生存が掛かってんだし、それに気付かない奴の事まで考えてられないんだ、悪いな。


 警告するだけありがたいと思えよな。


 その他にも木の弾力で動作するタイプの罠も考え、試行錯誤のうちに確立していく。


 それには雑学の中の記憶も役立ちはしたものの、サイトで見ただけという浅い知識のせいでかなり苦労した。


 材料になりそうな木の枝は小物入れで持ち帰っており、それを使って踏むと動作する、当たると動作する、などという罠をあちこちに設置していく。


 欠けた包丁がちょうどのこぎりのような役割を果たし、生木でも細ければ何とか切れたんだ。

 一番欠けて使い物にならないような包丁の刃を更に欠けさせてギザギザにして軽く研いでみたところ、何となく細い枝ぐらいなら切れない事もないぐらいになったからそれを使っているんだ。


 そうして石臼で作った叩き台は硬いので、その叩く場所を使えば何とか包丁が研げるんだ。

 ギザギザ包丁にも使ったけど、それなりの包丁もそれで研いだんだ。

 もちろん、本物の砥石じゃないから効率は悪いけど、ひたすら研いでいるとそれなりに切れるようになった。

 そうしていると叩き台の表面もツルツルになるので、ますます作業には調子が良くなった。


 一石二鳥だな。


 後は折れた槍も何かに使えないかと思っているうちに、それを取り外したらノミにならないかなと気付いたんだ。

 槍の穂先はちゃんとした鍛冶屋が拵えたんだろうし、ならばかなり硬いに違いない。

 ちょうど斜めに折れているから、その辺りをもう少し研げば、本物には及ばなくてもそれなりのもどきにはなりそうだ。

 直したハンマーとセットで使えば、色々な作業に使えそうで見通しが明るいな。


 そうして何とかそれっぽい形となり、まずは底に大穴が開いて潰れた鍋だった代物から、金属の端材を作り出そうと思った。

 ハンマーで曲がっている面を軽く叩いて直した後、色々な形状に切り取っていく。

 鋼と思しき槍の穂先は、ハンマーで叩いてやれば金属に食い込んでいき、ガタガタながらも金属片が取れていく。

 一塊で取れた金属片を更に加工して、不細工だけどお玉みたいな代物も完成した。


 色々取った鍋だった代物はもう、鍋の側面しか残っていない。


 だけどその代わり長方形の板になりそうで縦に切断して伸ばしてみると、これがちょっとノコギリの刃みたいに見えてくる。

 となればこのままノコギリにしちまおうと、比較的まっすぐなほうを刃にしようと、ガタガタのほうを少し折り返して叩いて曲がりに対する強度を確保して、ノミもどきでノコ刃っぽく刻んでいく。

 目立ては出来ないけど先だけでも研げば細い枝ぐらいなら何とかなるだろう。


 そんな訳でノコギリもどきに木の棒を付けて持ち手にしてみたら、細い枝ぐらいなら何とか切れる代物になった。


 のこぎり包丁の引退である。


 もっとも、それはそれで肉を切るのには使えそうなので、罠で獲れた動物を捌くのには重宝しそうだ。

 動物と言ってもやはり狼であり、ワンコの親戚とか普通なら食べないんだけど、今はどんな肉でも欲しい。


 確か毛を抜くか焼くかして排除した後、皮を剥いでそれを水中に浸けておけば良かったはずだ。

 確か2日ぐらい浸けた後で煮ると、ニカワになるとかサイトで見たような気がするんだ。

 他にも何か必要だったような気もするけど、それが何か分からないんだけどね。


 それでも他に接着剤なんて知らないから、試してみようと思っている。

 そりゃもちろんいきなり成功などするはずもないから、その原料を大量に集めて研究しながらになるだろうけどね。


 早速にも罠の調査に出かけると、獲物が数匹掛かっていた。


 さすがに空洞罠などおいそれとは作れないようで、この世界では初だったのか、用心深いはずの野生の生物なのに獲れていた。


 確かサイトでは追い込まないと罠には普通は掛からないとあったのであんまり期待してはおらず、見付けたら誘っての狩りにするしかないと、半ば覚悟していた事もあって安堵した。


 確かに階級が上がったせいで直径数メートルの広い罠も可能だったので、中央部を踏まないと発動しないようにしたうえで、そこを踏むと全てが崩れ落ちるようにしたのが良かったのかも知れない。


 ともかく、底の形状のせいか獲物の息は既に無いようで、それだけ階級にも影響を与えていたが、まずは穴の直しをする。


 実はやっているうちに穴の改変と言うか、かつて穴の中に穴を追加で掘れた事から考えて、同一座標にもう一度穴を形成できる事が分かったんだ。


 すなわち、穴の上書きである。


 なので完全に元の地表にするのは無理だけど、限りなく浅い穴に上書きする事で、獲物が地上に出てくれたんだ。

 それと共に平らな底のイメージで、尖った底が無しになったようで近づけたのも幸いだった。


 後は獲物を埋めたままというのもやれるようで、要は全てはイメージ次第で、かなりの融通が利くのも分かった。


 なのでその場で解体作業を始めたんだけど、さすがにいきなりは気分が悪くなったんだ。

 そりゃそうだよね、あちらじゃそんな事、全くやった事もなかったのに、いきなりスプラッタな光景に耐えられるはずが無い。


 それでもやらないといけないんだと自分に言い聞かせ、吐きそうなのを堪えながら何とか解体をしたんだ。

 もっとも、やっているのうちになんとか吐き気は収まってくれたけど、気持ちが悪いのは仕方が無いと思った。


 それでも何とか一通り、皮をはいで肉も切り分けはしたものの、手はぬるぬるしているし、血脂でドロドロになった肉は、とても食おうと思えるような代物じゃない。


 なので試しにと『丸洗い』してみたんだ。


 そうしたらぬるぬるは取れるわ血も綺麗に洗い流されるわで、これぞ肉って感じの代物になったんだ。

 更には皮に付いていた汚れや血脂もすっかり取れており、そのまま煮込めばニカワになりそうな皮になっていた。


 もっとも、毛を何とかしないといけないが。


 更には内臓なんかも綺麗になっちゃって、もつ鍋になるかもだなんて、そんな事まで思えるようになったんだ。

 そうして綺麗になったのを小物入れに納め、そこいらの残り物は穴の中に放り込んで他の罠に向かったんだ。


 そこで上書きによる、中に廃物を入れたままの穴がやれたんだけどね。


 やはりこういう作業は村の外でやらないと、いくら洗い流しても臭くなるだろうし、虫でも湧いたら大変だし。

 もっとも、こんな作業を罠の傍でやっていたりしたら、他の生き物に襲われかねないけど。


 その為に一応だけど穂先を外した槍の本体も持ってきており、けん制しながら穴に落としてやろうとは思っていたんだ。

 それもこれも、最初の狼の群れを退治したのが自信に繋がっているんだとは思うけど、油断は禁物だなと気を引き締める。


 そうして全ての罠を巡って解体、回収、再度の罠とやっていると腹が減ってくる。

 なんせ野草の煮物しか食ってない訳だし、獲れた肉を食いたくて仕方がなくなったんだ。


 それでも罠を全部巡って廃村に戻ったんだ。


 帰り道に拾っては小物入れに入れておいた枝を囲炉裏に入れて火を灯す。

 火が大きくなる間にノコギリ包丁でざっくりと切った後、欠けたまま放置されていた包丁を研いだ代物で細かく切って、木の枝を細工した串に刺して囲炉裏の前の灰の部分に差していく。


 いくつか拵えた後、後は炊いてみようと鍋もどきを囲炉裏に掛けて水を注いで後に細切れの肉を入れていく。

 かなりのアクらしき物が水面に浮かんできたので、お玉もどきでそれをすくって欠けたツボの中に入れていく。


 あんまり取りすぎると油っ気の無い汁になるかと、適当なところで止めた後、ネギっぽい草を切ったり食べる気になる雑草を刻んで投入した。


 そうこうしているうちに肉が焼けたので食べると、これがまた臭くて不味く、仕方が無いので串から抜いて鍋に投入した。


 そこで新たにまたアクっぽいのが出たのですくってツボに入れた後、一度そこで全てを空の鍋に移して水を替える。

 ただそのお湯はそのままニカワ作りに使えそうなので、ツボの中に皮を入れてお湯を流し込んでおく。


 水を入れなおした鍋を焚きながら材料を再度投入し、今度は塩で味を調えていく。


 野生の肉はそのままでは臭くて食えなかったので、肉のエキスを失うのを承知で煮捨てたんだけど、無いよりはましだろう。


 そうして出来た鍋はそれなりに食べられて幸いだった事をここに記しておく。


 ◇


 腹もまともになったので保存食作りにかかる。


 とは言うものの、オレには小物挿れがあるので腐る心配は要らない。

 だけど一度煮捨てないと臭いので、皮の入ったツボへのお湯の供給を詞ながら肉を一度焚いて煮捨てていく。


 そうした肉を串に刺して焼くのだ。


 少ない塩が心配なので濃縮塩水を調味料代わりにして、串に刺した肉をツボの濃縮海水に浸けてから焼いていく。


 小物入れの時の経過に付いては、廃村に来る途中で見つけた花をさ、何の気にしに積んでそのまま小物入れに入れたまま忘れていてさ、数日後にふと出したら入れた時のままだったんだ。


 だからもしやと思い、お湯をツボに入れて小物入れに入れてさ、翌日取り出したら熱いままだったんだ。


 それで時停止の仕様が分かったんだ。


 恐らくオレの生活魔法は普通の生活魔法って訳じゃなく、神様からの貰い物だから特別製の可能性がある。

 だってそんな世界の中で学べそうなスキルとか、わざわざ特典とか言うはずもないし、1つとか2つとか限定する理由にもならない。


 そんな特殊な限定版だからこそ、特典という名で与えるんだと思ったんだ。


 だからゴミスキルに見えたとしても、実はそれは世界の中のスキルとは似て非なる代物じゃないのかと思うんだ。

 例えばだけど、覚えているのが鑑定の出来損ないなスキルだけど、あれも進化すればちゃんとした鑑定になったりするんじゃないかと思えるんだ。

 そうして他のスキルも進化するのなら、ゆくゆくは凄いスキルになると思えば特典とした意味も分かるってもんだ。


 そう考えると未来に希望が持てるからさ。

 

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