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小話と短編は連載となる  作者: 黒田明人
2章 連載版・色々と想定外
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02 誰もいないらしい

 



 何度も使ったスキルのせいか、妙にだるさを覚えた彼はそこでまた眠りに就いた。

 それからどれぐらい経っただろうか、彼は急に身体の変調に気付いて目を覚ます。


 なんだこれ、身体が妙に突っ張るような。


 まるで身体の中から何かが溢れ出そうな不思議な感覚、だけど不快じゃない。

 それどころか力が溢れてくる、本当に不思議な感覚。

 何が起こったのか分からないまま、状態を見てみようと思い付く。


 階級 12

 状態 正常

 体力 210

 魔力 210

 技能 生活魔法・穴掘り


 どうしてだか階級が上がっていた。


 ◇


 雨も上がったようなので、彼は斜め上に向けて穴を掘る。

 階級が上がったせいか、1発で地上までの穴が開き、速やかに外に出られた。

 マスクデータっぽいステータスも向上したのか、身体が妙に軽い。


 雨上がりの空気は湿気ていて肌寒い。


 それでも昨夜のような事はなく、やはり階級の上昇のせいで身体が丈夫になっているようだ。

 彼はどうして階級が上がったのかを考えつつ、ふと昨日の事を思い出す。


 もしかして……そう思った彼は、狼達と遭遇した場所に行ってみた。

 あちこちに開いた穴からは、弱々しい鳴き声が聞こえ、それが少しずつ減ると共に彼の力は増えていく。


 お前ら泳げないのか。


 出してやりたいけど、襲われるのは嫌なんだ。

 だから悪いな、そのままくたばってくれ。

 どうやら経験値になっているみたいだしさ。


 即興の落とし穴だったのに、罠って事になっているみたいだな。

 けど、まさかこんな事になっているとは、本当に想定外だ。


 かなり離れていたはずなのに、彼の仕掛けた罠という認識なのか、しっかりと経験値になっているらしい。

 可哀想だけどこのまま放置するしかないと、彼は心で謝りながらも全てが終わるまでそこに佇んでいた。


 そうして階級も18に上がり、以前とは比べ物にならないぐらいになった彼は人の居る場所を探して歩き出す。

 見殺しにした狼達に心で謝りながら。


 これも弱肉強食……だけど、食べないんだから罪は重いよな。


 そんな彼だったが、しばらく歩くうちに気分が上昇していく。

 それ程に階級の上昇は彼にかなりの恩恵をもたらしたようだった。

 彼の行く末には何が待ち構えているのか、それは今は分からない。

 だけどもうこの世界で生きていくしかないと、前向きに生きていこうと思う彼だった。


 しばらく歩くと村のような物が見えてくる。


 彼は良かったと思い、何か食べ物を分けてもらおうと勇んで村に歩いていく。

 外壁が妙に崩れているのが気になるが、修理中かも知れないし、何ならそれの修理の仕事があるかも知れない。

 そんな前向きな気持ちも門を潜った時に消失した。


 え、誰も居ない? 嘘。


 ここから普通に異世界体験になると思ったのに、こんなの想定外だぞ。

 そこは廃村のようで、何処に行っても人の存在は無かった。

 もちろん畑は荒れ放題で何も……


 これ、食べられないかな?


 まるで雑草そのものだけど、柔らかそうだし何とかなるかも。

 そう思った彼だったが、さすがに生で食べるのは気が引けたのか、台所用品が残ってないか探し始める。

 しばらく探していた時に、穴の開いた道具をいくつか見つける。

 無いよりはましだと、鍋を『飲み水』で洗った後、斜めにして再度『飲み水』で水を入れ、こぼれないように組んだ石に載せてそこらの枯れた草木で『着火』で火を灯す。

 しばらくすると湯が沸いたので、雑草みたいなものを入れて湯掻く。

 緑色の汁が出てそれが妙に青臭いが、だからこそいけるかもと彼はそれを口に含む。

 木の枝の箸じゃ巧くつまめないようで、かなり苦労しながら。


 うわ、まだ苦いや。

 もっと煮ないと。


 それでも食べられない事もないようで、同様の草を摘んでは湯掻いて食べていく。

 何とか腹の足しになったような気がしたので、後は水で何とかしようとまたしても『飲み水』に頼って腹を誤魔化す。


 それにしても、本当に良かったな、生活魔法と穴掘りが残っていてそれを選んで。


 誰も取らなかったのは多分、もっと凄いスキルがあったからだろうけど、そうじゃなかったら動物や植物の種類が分かっても、今頃は狼に食われていただろう。

 あれを何とかしたにしても、風邪を引いていたかも知れない。

 更に言うならこんな風に料理の真似事も無理だったろうし。


 何にしても不幸中の幸いだったなと、彼はそう思った。


 ◇


 ボロ家でも雨露ぐらいは何とか防げそうで、とりあえずしばらくの間はここで過ごそうと考えた。

 狼の件もあり、生物は存在している。

 ならばそれらを狩れば食べ物は手に入る。

 廃村を巡って目ぼしい物を探しつつ、今後の事を色々と考えていた。


 刃の折れた槍、弦の無い弓、折れた矢、刃の欠けた包丁などなど。

 そんな中、鍛冶屋みたいなボロい家を発見し、そこを仮の住まいに決めた。

 埃だらけの中を掃除……『風出し』で吹き飛ばし……


 うげぇぇ、ゲホッゲホッ、たまらねぇ。


 慌てて外に走り出る。


 あんなに埃が立つとは想定外だったな。

 やれやれ、窓の外から出入り口に向けてやれば良かったか。

 それでもそのうち落ち着いたようなので、ゆっくりと中に入る。


 自前の下着を雑巾にするのも嫌だと思っていたら、ボロボロの布のようなのを見つける。


 試しにこれに『丸洗い』とやってみると、今度はちゃんとそれが洗われるようだ。

 つまりあの時は何も考えずにやったのが失敗だったらしく、洗いたい代物を意識するとそれに対しての現象が起こるようだった。


 テーブルや椅子をそれで拭きながら、そんな事をつらつらと考える。


 ちなみに小物入れの詳細は入れてみると分かった。

 刃の折れた槍は入らず、弦の無い弓も入らない。

 だけど折れた矢は入り、刃の欠けた包丁も入った。


 その事から大きさに制限があるようであり、長い物は無理のようだ。

 後は重い物も無理のようで、石臼っぽい代物はとても手では持てないが、小物入れにどうかと思えばやはり入らなかった。

 その代わりそれが壊れたような、両手で持てるぐらいの欠片だと入ったが、次の欠片は入らなかった。

 それからも色々な重さや長さの品で確かめたところ、2メートル角ぐらいの大きさの箱に物を入れるような感じで、重さは自分が持てる程度の重さが限界のようだった。

 最初の頃を調べてないので何とも言えないが、推理としては階級×10センチ角の長さで、現在の筋力で持てる範囲の重さだと思われた。


 階級 18

 状態 正常

 体力 270

 魔力 270

 技能 生活魔法・穴掘り


 この数値も簡単な推移で増えていて、階級が上がるごとに10ずつ増えているようだ。

 つまり階級18なら1.8メートル角の大きさで、持てる範囲の荷物が入る事になる。

 ただし、斜めにすれば入ると思うのに、2メートルぐらいの弓は無理だった。

 その事から、長さの制限は一辺の長さにイコールすると思われた。


 小物入れって名前の割には便利かも。


 それからも彼は廃村中から色々な品を集めては、仮の住まいに置いてまた探しにいく。

 元々、そんな技能は無いから鍛冶とかはやれないが、鉄は熱すれば柔らかくなるぐらいの事は知っている。

 そうして急に冷やしたり叩いたりしたら硬くなる事も。

 だからその真似事と言うか、もどきぐらいなら何とかなるかも。


 そのうちに持ち手の折れたハンマーを見つけ、それを何とか修理して使えるようになった時、これで何とかなるかもって思えたんだ。

 そうしてそれをひとまず置いて、畑の雑草をよくよく見ていると、妙に見た事があるような草を見つける。


 これってヨモギじゃないのかよ。


 匂いも確かにそんな匂いだ。

 他にもフキっぽい葉の丸い草とか、ネギみたいな草とかが見つかる。


 何とかなるかも。


 だが、残念ながら調味料が無い。

 何とかならないかと、廃屋全ての台所と思しき場所を探していく。

 そうしているうちに、ツボの中に何かの結晶がこびり付いているのを発見する。


 これって塩だよな。


 自信が無かったので、少しだけ指に付けて舐めてみる。

 どうやら確かに塩のようだが、妙にいがらっぽい。

 それでも無いよりはましだと、彼はそれを削って集めた。


 これ1度溶かしてゴミと分けたほうがいいな。


 またぞろ穴の開いた鍋を活用して、塩水にすると何やら浮いている。

 それを何かで漉せばいけそうだけど、生憎とそんな代物は無い。


 もったいないけど、仕方が無いよな。


 ズボンの後ろのポケットを引っ張り出し、千切って漉し袋の代わりに使う。

 集めた中で欠けた湯飲みがあったので、それですくっては入れて、またすくっては入れる。

 とりあえず漉せたのでひたすら熱して再度の結晶化を図る。

 パチパチとはぜるような音と共に、鍋の中に白い結晶が現れてくる。

 それを慎重に削って容器に入れ、舐めてみると今度は少しましのようだ。


 これが限度かな。


 村中の塩ツボを回収して、繰り返して一握りぐらいの塩を確保する。

 漉した代物が何なのかは分からなかったが、表でよく見ると何かの破片のような。

 これってもしかして昆虫の……つまり、いがらっぽいのはそれの死骸が。


 うわぁぁぁ、ダメだ、考えない、そんな事は考えない。


 折角の戦利品がおぞましい代物に思えそうなので、余計な事は考えない事にした。

 それから気を取り直して様々な草を塩で煮て食べたところ、以前とは比べ物にならない味となり、これなら何とかなりそうだと一息をつく。

 囲炉裏のようなところに火を灯し、穴あき鍋を熱しながら次々と草を放り込んでいく。


 山菜汁っぽいな。


 異世界に来て、やっと料理っぽい食べ物を食べた瞬間であった。

一汁三菜じゃなくて一汁山菜なのがネックだけど、読みは同じだ。

 今はこれしか食べられないけど、今後、食事は充実させていきたいものだ。


 ずっとこのままとか侘しいもんな。

 




 

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