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小話と短編は連載となる  作者: 黒田明人
1章 小話1と小話2より抜粋
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01 不可解な交代劇

 あれはちょうど、高校1年になった頃だった。


  忙しい日々の中、それでも僅かな自由時間を獲得し、その中でやっていたゲーム。

 もちろん、自由時間は僅かなのでオンラインなんかはやれず、オフゲのシミュレーションがやっとだった。

 オレは内政が好きで、その手のゲームを毎日少しずつやっていた。

 ゲーム内の配下への命令を、独り言のようにつぶやくようになったのは何時からだろう。

 いや、そもそも独り言を言うようになったのは何時からだろう。


 きっと幼い頃からだろう。


 なんせ、幼馴染達との遊びなど、滅多にやれなかった幼少時代なんだし。


 ◇


 その日も僅かな自由時間の中、ちょうど新規の配下への命令作成をやっていた。

 いつものように要生産、要生産と、つぶやいて遊んでいたら、母親に額に手を当てられて熱を測られた。

 どうしてそんな事をしたのかを聞いても教えてくれず、熱は無いみたいねと、それだけ言って部屋を出て行ったのだ。


 今でもあの事は忘れられない。

 ちょうどあの頃だったからだ。

 両親がオレを……見放したのは。


 長男なら普通は跡継ぎを望まれるものだが、あれ以来、次男がそれを望まれていた。

  高校を卒業したオレは、そのまま家を出る羽目になってしまった。

  次男が跡を継ぐからお前は好きに生きていけと、ただそれだけを言われて追い出されたのだ。


 今でも訳が分からない。


 中学の頃まではオレに期待して、それに応えるべく努力してきたと言うのに、あの頃から急にその期待が弟に移ったのだ。


 最初は気付かなかった。


 なんせ成績はオレのほうが良く、弟の勉強はオレが見てやっていたぐらいだったからだ。

 だが次第に弟のほうに期待が移ったのが分かるようになり、オレは弟の家庭教師の役割になってしまっていた。

 それでもまた元に戻るかも知れないと、勉強を疎かにするつもりはなく、弟に負けないようにしてきたつもりだ。


 なのに。


 次男は大学への道へと進むらしく、両親からの支援が約束されていた。

 長男のはずのオレに対してはそれが得られず、働きながら大学は厳しいので、仕方なく就職の道を選ばなくてはならなかった。

 そうしてオレは次第に納得するようになっていた。

 親というものは勝手に期待して勝手に諦めるものなのだと。

 それに振り回される子供は哀れなもので、せめて弟がそうならない事を祈りつつ、住み慣れた町を出た。


 もう二度と戻らない決意をして。


 ◇


 故郷を無くしてから必死で働いた。


 本家を追い出されたとは言うものの、その技術の継承は成されており、それを惜しんだ分家が受け入れてくれたのだ。

 そうして5年が過ぎた頃、正式に婿養子になる事になり、それを受け入れた。


 それからも必死で働き、嫁さんには子供も出来た。


 オレは両親の事を反面教師と思い、自分の子供にはあんな思いをさせたくないと誓った。

 その頃だったろうか、本家の家業が巧くいかなくなっていると聞いたのは。

 父親が出先で怪我をして、家業がやれなくなって弟が代替わりをしたそうだ。

 だけど、そのうちまた盛り返すだろうという意見もあったので、そんなに心配はしてなかった。


 それから数年後、弟が死んだと聞かされた。


 その話は親戚の人から得られたが、元々、オレが跡を継ぐものと思っていた為、本当は嫌だったのだと聞いた。

 両親は、弟の本心を日記で知り、急に老けたようだとも聞いた。

 元々、幼い頃からの下積みを持っていたのはオレであり、その頃は弟は幼馴染達と自由に遊んでいた。

 僅か1才違いの兄弟だったが、当時は何でオレばっかり遊べないんだろうと思っていたものだ。

 家の職人達は厳しくて、相手が子供でも容赦が無く、毎日叱られてばかりだった。

 それでも10年の下積みは無駄にはならず、ようやく認められるかどうかというところまで来ていたのだ。


 そんな頃の交代劇。


 弟はオレが10年を掛けて得た物を、急速に詰め込まれていった。

 今までならあったはずの自由な時間は切り取られ、交友関係からも切り離され、弟の生活は滅茶苦茶になっていたそうだ。

 それでも表向きには文句を言わず、その代わりに日記の内容は呪詛に近かったらしい。

 元々、長時間で覚えていく行程を、短時間で詰め込まれたからニカワになるしかなく、職人達も努力したようだがモノにはならなかったらしい。


 それでもオレの事は職人達からも意見が出たようだが無視される結果となり、先行きの見通しに不安を抱えた職人達が、ひとりまたひとりと去っていき、遂には立ち行かなくなって閉鎖になったそうだ。


 そうして閉鎖になった翌朝、梁にぶら下がっていた弟を発見したそうだ。


 ◇


 今でも意味が分からない。


 順調に思われたあの家を、滅茶苦茶にしたその原因が。

 本家の家業は閉鎖になったが、その技術は受け継がれている。


 オレは分家で継続させている。


 そうしてかつての職人達も迎え入れ、当時と変わらないような雰囲気の中、もう居ない当時の面々に思いを馳せるのだ。


 何が原因だったのかと。


 ◇


 息子は既に家業を継ぎ、立派になっている。


 この前、孫が絵本を読んでくれた。


 童話のようで、妖精が出て来る話のようだった。


 もうどれぐらい生きられるのか分からないが、分家ながらも今では本家と言っても過言ではあるまい。


 それぐらい、順調なのだから。


 「妖精さん」


 孫がまた童話を読んでくれるらしい。


 要生産か、懐かしいな。

 

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