表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
叶え人-さよならは言わない‐  作者: 凜風 杏花
8/12

第8回 島への船旅

台湾ドラマのようなお約束場面がいっぱいの、プラトニックなラブロマンス。

自分好みのピュアな物語を妄想全開で書いています。

脚本バージョンも作成していつか2時間ドラマに。


ヒロイン・町田杏子(まちだきょうこ26歳)

30日限定の夢の相手は台湾の俳優アージ

舞台は香川県、金曜日更新、全12回

風呂上がりの杏子がパジャマ姿でアイスコーヒーを飲んでいる。今日の帰り道、アージに送ってもらったことを思い出す杏子。


微笑むアージ…そんなアージから目が離せなくなり、ドキドキした自分……。

(ドキドキするのは当たり前。だってファン なんだもん。でも、ただのファンだった時と全然違うのはなぜ?うれしいはずなのにつらい、なんだかとてもつらい…)

   

杏子の頬を涙がひとすじ伝う。

窓から見える夜空。



同じ時間、ホテルの部屋ではアージがソファに座り、同じように帰り道のことを思い出している。


杏子が道を間違えて両手で顔をおおい、本当の道を指しながら謝る。アージは嫌そうな顔で杏子をじっと見た後、杏子の額をひとさし指でつつく。

(杏子さん……おもしろい?可愛い?いや、それとも……)


同じ時間に、片方では泣いている杏子、そしてもう一方では考えこんでいるアージ。



次の日、帰宅してすぐに杏子のスマホが鳴り、杏子はうれしそうに電話に出る。

「アージ、いえ、アージさん、こんばんは。いくらファンでも、私だけ呼び捨てにするのはよくないよね」


「問題ありません。気になるなら僕も呼び捨てに」


「えっ!え~と、え~と、それはきょうこって呼ぶってこと?」


アージは大きな声で

「きょうこ~」


杏子はあわてて

「だめ!ぜったいだめ!」


「失礼……ですか」


「そうじゃない、そうじゃないの。すごくドキドキするからダメなの」


アージは笑いながら

「きょうこ、きょうこ」


「それならもう会わない!」


「わかりました。でも僕のことは今まで通り、アージで」


「うん……」


「そうだ、用事があってかけました。明日、案内してほしいところがあって」


「どこ?」


「どこかの島にある道」


「道?」

杏子は首をかしげる。


「潮がひく、あらわれる、道」


「あ~、行ったことあるわ。エンジェルロードね」


「エンジェルロード?」


「二人で手をつないで、その道を渡ると幸せになる」


「そう、そこ!きょうこは幸せになった?」


「手をつないで渡ったことないもん。あっ、アージ、きょうこって呼んじゃだめ」


「ふふ、わかりましたか」


杏子はしみじみと思う。

(いつか本当の恋人になって、杏子って呼んでもらいたかったなぁ)


「杏子さん、聞いてる?」


「あっ、はい、聞こえてます」


「明日、そこへ行ける?」


「もちろん行けます。潮がひく時間を調べて連絡しますね」


「OK」



早朝の港、杏子が待合室の入り口で待っている。


アージは帽子をかぶり、サングラスをかけてやってくると、杏子に向かって手をあげる。


杏子は

「アー…」

と、アージを呼びそうになり、急いで周りを気にすると

「あっちゃん、こっちこっち」


アージはふきだして

「きょうちゃん、おはよう。これからきょうちゃんと呼ぼう」

   

杏子は、はにかみながら

「おはよう。船の切符は買ってあるから。あの船がそうよ」


アージは自動販売機でお茶を買おうとする。


杏子がアージに

「あっちゃん、お茶なら、持ってきたよ」

と、得意げにカバンの中を見せる。


アージはカバンの中をじっと見て

「そ、それは…?」


杏子はカバンをのぞきこむと

「あ~!]

二人は顔を見合わせて、同時に笑い出す。


カバンの中に台所洗剤が二本入っている。

杏子はしきりに首をかしげて、何度もカバンの中をのぞいている。

   

アージは改めて自販機でお茶を買いながら、横目で杏子の様子を見て笑う。



二人は島に着き、港からバスに乗る。

エンジェルロードのバス停に着いたのは、潮が引き、道が現れ始めている頃だった。


「ほら~、見て見て、アージじゃなかった、あっちゃん。少しだけ道が見えてる」


「ほんとだ、もう歩ける?」


「まだちょっと無理かも。その前に展望台に上がってみよう」


アージは首をかしげる。


「丘の上に展望台と鐘があるの。プロポーズの場所よ」

杏子はプロポーズのジェスチャーをすると歩き始め、アージが待ってというように追いかける。


杏子に続いて、展望台に上がったアージは大きな声で

「わ~!」


「この景色、きれいでしょう」


「あれがエンジェルロード?」


「そう、さっきよりもっと道が現れてるから、もう少しで歩けるかも」


二人は一緒に幸せの鐘を鳴らす。


アージはまわりにつるしてあるたくさんの絵馬を不思議そうに見る。

「これは何?」


「絵馬、え・ま。願い事を書いてつるしておくの」


「きっと叶う?」


「信じてればきっと。アージも書きたい?」


「うん」


「だと思って、さっきの売店で買っておいた」


杏子が得意げに、貝殻の形の絵馬を二つバッグから取り出すと、アージは手をたたく。


アージが書き始めると杏子が覗き込む。

アージ、絵馬を手でおおって隠す。

「アージ、見せてよ」

「だめ、内緒」


   

エンジェルロードに降りてきた二人。

アージは杏子を振り返り

「もう、歩けるよね」


杏子がうなずき、二人はエンジェルロードを歩きだすが、杏子はアージのずっと後ろを歩く。


アージが振り向き、手招きする。

「早く、ここまで」


杏子はかぶりをふると立ち止まる。


アージが杏子のところまで戻って、杏子の手を取ろうとするが、杏子はそれを振り払う。


アージが聞く。

「なぜ?」


杏子は目に涙をためてアージを見ると、その場にしゃがむ。


「僕じゃダメ?」


「だって、だって、あなたには……」


アージは無言で杏子を立たせると、杏子の目を見つめ、杏子の手を握る。


杏子は手をはなそうとするが、アージはしっかり握って離さず、そのまま歩きはじめる


「……アージ」

杏子は引っぱられるように歩き、アージはまっすぐ前をむいたまま何も言わない。


(アージ、どうして?婚約者がいるでしょ?それに、あなたは知らないけど、この記憶はあなたには残らないのよ)


アージは唇をぎゅっと結んで歩くと、道の最後で杏子の方を向き

「さぁ、これでいい」


杏子はアージを見つめると、泣きだす。


アージは思わず杏子を抱きしめる。

(ここからやりなおしたい)


杏子は突然アージの腕を引き離すと走り出す。

島への旅でさらに心が近づいた杏子とアージ。

でも、別れが近づいていることを知る杏子は、伝説の道でアージの手を振り切って走り出した……。


第9回「乗り遅れた船」は9月29日(金)夜掲載。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ