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叶え人-さよならは言わない‐  作者: 凜風 杏花
7/12

第7回 アージのお迎え

台湾ドラマのようなお約束場面がいっぱいの、プラトニックなラブロマンス。

自分好みのピュアな物語を妄想全開で書いています。

脚本バージョンも作成していつか2時間ドラマに。


ヒロイン・町田杏子(まちだきょうこ26歳)

30日限定の夢の相手は台湾の俳優アージ

舞台は香川県、金曜日更新、全12回

出社したゆき恵が杏子に

「おはよう。先週は忙しかったね。お祭り以来、ゆっくり話す暇がなかったけど、今日晩御飯でも食べない」


杏子はちょっとためらいながら

「……うん、いいよ」


ゆき恵、そんな杏子の様子を見て

「予定があるなら、無理しなくてもいいよ」


杏子はあわてて

「ない、ない。ちょっと好きなドラマのことを考えてただけ」


「なになに、私よりドラマが大事だって?」


「そうじゃないよ。そんなことより、聞かなくちゃいけないことがあったんだ」


「なに?」


「なに?じゃないわよ。せ・ん・ぱ・いだよ、せんぱい!」


ゆき恵は急にもじもじして

「あぁ、せんぱい……ね」

下を向き恥ずかしそうにする。


杏子がゆき恵の顔をのぞきこみながら

「それは、詳しく聞く必要がありそうね」


「へへっ、じゃぁ、夜にね」


退社後、会社近くの居酒屋で杏子とゆき恵がカウンターの前に座っている。


混んでいる店内を縫うようにやってきた店員が生ビールと焼き鳥を置いていく。


二人がビールのジョッキを持ったところで、杏子が聞く。

「何に乾杯する?」

   

ゆき恵、目がきょろきょろする

「それは、まぁいろいろと」


「まぁ、いいわ。とりあえず乾杯」

二人で乾杯する。


杏子が焼き鳥の串を持ち上げ

「それで、お祭りの後、先輩とはどうなったの」


「……うん。実はあれから二回出かけたの」


「え~、聞いてないなぁ」

杏子はひじでゆき恵をつつく。


「高校の時、休み時間になると、向かいの校舎の先輩をいつも見てたの」

   

杏子、カウンターに片方の肘をついてゆき恵を見る。

「へぇ~、なんか青春」


「私は気づかれてないと思ってたけど、先輩は気になってたんだって」


「うわ~、でも高校の間、どちらも何も言わなかったわけ?」


「そうなの。だから、あのお祭りの夜は運命かなって」

ゆき恵、恥ずかしそうに下を向く。


杏子はゆき恵を見つめて思う。

(いいなぁ、叶え人がいなくても、ゆき恵は本当の恋に発展しそう。それに比べて、私は30日だけの夢……)

両方の肘をつき、は~っとため息をつく杏子。


ゆき恵がそれに気づき

「ところで、杏子の夢の話はどうなったの?」


(言えないわ、アージとデートしたなんて。信じてくれるわけない。それに、どっちみち、ゆき恵の記憶からも消えるわけだし)


「ねぇ、杏子、聞いてる?」


「あぁ、あれはやっぱりウソだったみたい。まぁ、どう考えてもそうよね」


「大丈夫。杏子もだれかに出会うよ、きっと! 素敵な人にめぐり会いますように」

ゆき恵はジョッキを持ち上げて、杏子のジョッキにカチンと合わせる。


杏子は苦笑いする。



次の日、仕事帰りにバス停を通りかかった杏子を誰かが呼び止める。

「杏子さん」


杏子が横をみると、ベンチに帽子を深くかぶった男性が座っている。


杏子は腰をかがめてその顔を覗き込む。

「あっ、アー……」


杏子は走り寄って、まわりを見ながら小さな声で

「アージ、どうしたの」


アージは片手を口にあて、杏子の耳元に

「会社がこの近くだと思って」


「そう、すぐそこなの」


アージは立ち上がり

「家まで送ります」


杏子は恥じらいながら黙ってうなずく。


アージが立ち上がり、二人は並んで歩きだす。

「あ~、びっくりした。私、会社の場所を教えたかな」


「向かいのデパートの話を……」


「あ~、そうだった」

   

アージが優しく笑い、その笑顔を見た杏子は、そんなアージから目が離せなくなり、足が止まる。


アージが不思議そうに

「どうかしましたか?」


「……ううん、なんでもない」


また歩き出した二人だが、杏子は時々、アージの顔を横目で見ては急いで下を向く動作を繰り返す。


アージはそれには気づかず、杏子に聞く。

「杏子さんの家はどこ?」


「あ~」

杏子、顔を両手でおおう。

「私の家、こっちじゃないの。アージが突然迎えに来てくれて、びっくりして」


「え~、こっちじゃないの?」

   

杏子、後ろを振り返って

「ずっと前の角を右に曲がるんだった」


アージが手でその方向を指し、そっちかとジャスチャーで問う。

   

杏子はすまなそうに両手を合わせて

「ごめん」

   

アージが怒ったように横目で杏子の顔をじっと見た後、杏子の額をひとさし指でつつく。どちらともなく笑いだす二人。



アパートの前に着き、

「ここなの。ありがとう」


「どういたしまして」


「でも、アージは、ここからホテルに帰れる?」


「大丈夫。これを持ってる」

と、アージは地図をヒラヒラさせる。


杏子は心配そうに

「迷ったら、タクシーに乗ってホテルの名前を言ってね。言える?」


アージ、杏子の顔をじっと見て、両手を杏子の頬にあて

「杏子さん、僕は子供じゃない」


両手で頬をはさまれた杏子はうろたえて後ずさる。

「で、では、気をつけて」


「うん、おやすみ」

と言うと、アージはくるっと向きを変えて歩き出す。


杏子はそんなアージの後ろ姿を見えなくなるまでずっと見つめている。

会社帰りに、突然迎えに来たアージ。

好きという気持ちがどんどん大きくなる杏子だが、残された日を思い、苦しさも増していく。


二人の気持ちがもっと近づく第8回「島への船旅」は9月22日(金)夜掲載。

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