第5回 アージの苦悩
台湾ドラマのようなお約束場面がいっぱいの、プラトニックなラブロマンス。
自分好みのピュアな物語を妄想全開で書いています。
脚本バージョンも作成していつか2時間ドラマに。
ヒロイン・町田杏子(まちだきょうこ26歳)
30日限定の夢の相手は台湾の俳優アージ
舞台は香川県、金曜日更新、全12回
夜、ホテルの部屋でアージは窓際に立ち、ウイスキーのグラスを傾けて海を見ている。
苦々しげに
「お前はなにをやってる、アージ?」
アージは撮影スタジオの様子を思い出す。
撮影のかたづけをしながら、スタッフがアージのことを話している。
「今日の王子はご機嫌、最悪!」
「あぁ、でも、たいていのことはほめときゃ大丈夫なんだよ。監督からすれば視聴率とれる金の卵なんだから、うまくやれよ」
「だんだんわかってきたよ、アシスタントの仕事が何か」
二人は顔を見合わせて苦笑する。
アージは陰で壁にもたれ聞いている。
アージはさらに回想する。
豪邸の応接室で、アージと婚約者がソファにかける。
婚約者の父は向かいの椅子に座ると
「そんなに緊張しないで、ゆっくりくつろぎたまえ」
アージは咳払いの後
「ありがとうございます」
婚約者が言う。
「そうよ、いずれはここに住むんだから」
アージはムッとした表情になる。
「それにしても、娘が君と結婚したいと言った時はびっくりしたよ。俳優と結婚なんて!」
見下したような顔でアージを見る婚約者の父。
「お父様、俳優だなんて……アージは、これからプロデュースのお仕事もしていく実業家なのよ。もちろん、後押しもしてくれるわよね」
「それはいいが、私にできるのは資金援助くらいだよ」
「あら、それが一番大事なことよ。ねぇ、アージ」
婚約者はアージの肩にもたれかかる。
アージ、唇の片方をあげ、すこし微笑む。
「この通り、父親は娘には頭が上がらないよ、ハハハ」
思い出したことを振り払うように、アージはソファにかけてグラスを置き、両手を組む。
うつむいて苦しげな表情で
「僕は何をしてるんだ。彼女を好きだと勘違いして、婚約してから後悔するなんて」
「でも、メディアにも婚約を発表したし、彼女の父親には映画のスポンサーになってもらう約束をした。もう引き返せない」
アージ、しばらくしてはっとしたように顔をあげ
(いや、引き返せないのか、ホントに……)
ホテルの窓から夜の海が見える。
同じ日の夜、杏子はパジャマ姿でコーヒーを入れている。
スマホが鳴る(アージの歌のオルゴール曲)
嬉しそうな顔になって電話に出る杏子
「アージ?」
「え~と、こんばんは」
杏子は恥ずかしそうに小さな声で
「こんばんは……」
「まだ、起きていましたか」
「はい……ええと……」
「何?」
「初めての電話……です」
「あぁ、ほんとですね」
アージは微笑む。
杏子は何の用事か気になりながら
「えぇと……」
杏子の声をさえぎるように
「明日の土曜、デートしませんか」
思わず大きな声になる杏子
「デ、デート~!」
「はい」
「だって、あなたには……」
「婚約者のことなら忘れて……あぁ、そうか、君の彼に悪いんだね」
「そんな、いませんよ、彼なんて」
「よかった!杏子さんのおススメの場所は?」
「私、前から恋人ができたら行ってみたいと思ってたところがあるの…そこでもいい?」
「もちろん」
翌日、雨が降る防波堤で、杏子とアージが傘をさし、歩いている。
風が吹いて杏子の傘が飛ぶ。
二人が同時に叫ぶ。
「あ~っ」
アージ、傘をつかもうとするが届かず、傘が海面に落ちる。
アージが杏子を見て
「ごめん」
「ううん、私が悪いんだから」
アージ、杏子に傘をさしかけ、杏子は恥ずかしげにとまどう。
アージ、優しい目で杏子を見ながら
「その服、明るくて似合ってる]
「実は、新しく買いました」
「そう…今日は恋人だからね」
杏子はうつむく。
(今日だけの恋人でもいい。でも、この記憶もアージは忘れてしまうのね)
「恋人は嫌ですか」
「嫌だなんて、とんでもない。私はあなたの大ファンなのよ」
アージ、目を見開いて
「えっ、そうだったの?」
杏子も驚きながら
「私、言わなかったっけ?」
「一度も」
二人、黙ってしまい、しばらく海を見つめる。
しばらくしてアージが聞く。
「どうしてここに来たかったの」
婚約を後悔していた上に、仕事の上でも悩みをかかえているアージ。
杏子と出会ったことで、何かが変わるのか!?
第6回「純愛の聖地」は9月8日(金)夜掲載。