表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
叶え人-さよならは言わない‐  作者: 凜風 杏花
10/12

第10回 夢時間のリミット

台湾ドラマのようなお約束場面がいっぱいの、プラトニックなラブロマンス。

自分好みのピュアな物語を妄想全開で書いています。

脚本バージョンも作成していつか2時間ドラマに。


ヒロイン・町田杏子(まちだきょうこ26歳)

30日限定の夢の相手は台湾の俳優アージ

舞台は香川県、金曜日更新、全12回

夜、杏子は部屋で何度もメールを確かめている。

机の上に置かれたカレンダーには、6日後に星のしるしと夜7時と書いてある。


杏子は思い出す。

「もし、もしそんな事があっても、僕はきっと君を思い出す」

そう言って、杏子の肩を抱いたアージ。

   

「すべて片づけるから、心配しないで」

と言ったアージ。


でも、そんな出来事も一週間も経てば、アージにとっては何もなかったことになる……。


(船の中で見ていたメールは何だったんだろう?あれから、アージからはなんの連絡もない。台湾でなにかあったのかしら)


その頃、ホテルの部屋ではアージと社長が電話をしている。


アージは

「来週、水曜夜の便に乗って帰ります」


「悪いな、せっかくの休暇に」


「いえ、今まで僕のわがままでいろいろとご迷惑をおかけしました」


「アージ、おまえからそんな言葉を聞くとは思わなかったよ。旅もしてみるものだな」


アージは、うつむいて苦笑いする。


「じゃぁ、待ってるよ」

そういって社長の電話は切れた。


アージは窓から空を見上げながら

(逃げちゃいけない。すべては自分の責任なんだから)

   

会社近くのバス停に、杏子がとぼとぼと通りかかる。

アージが木にもたれて立っているのにも、気づかずに通りすぎる。


アージは後ろからゆっくりとついていき、人通りが絶えた場所で

「きょうこ小姐(しゃおじえ)、大事な人を忘れてますよ」


杏子、驚いて振り返る。

「アージ……いつから」


「バス停で見つけてもらえなかった」

   

杏子はアージに近づくと、じっと顔を見る。

「台湾に帰ったかと思った」


「ごめん」


杏子はアージの胸を両手でたたき、アージは片手で杏子のあごを持ち、顔を上げさせる。

「あさっての便で帰る」

   

杏子、ハッとする。

「あさってのいつ?」


「夜の7時」


杏子、目を見開いて後ずさる。


アージは一歩前に出ると

「でも、また帰ってくる、必ず。その時には君とあたらしくやり直せる」


杏子は言葉が出ない。

(その時には、もう、あなたは私を忘れているのよ。あぁ、叶え人が確認に来た時、取り消してもらえばよかった。あの時なら忘れられたのに)


アージは心配そうにもう一歩前に出ると

「待っててくれるね」


杏子もアージの方へ一歩踏み出す。

「待ってる。ずっとずっと待ってる。あなたが私を忘れても、それでもずっと永遠に待ってるから」


アージは笑う。

「オーバーだなぁ、長くても一か月くらいだよ」

   

杏子、涙ぐんでアージを見つめる。

   

アージはそんな杏子の手を引っ張ると、強く抱きしめる。



空港でアージが杏子を探しているが、空港スタッフに促され、何度も振り返りながら搭乗ゲートをくぐる。


杏子は柱の陰でアージを見ている。

(………あなたに会えば、きっと泣き叫んでしまうから、アージ、ここで見送るね。でも、さよならは言わない。あと30分で夢叶い時間が終わって、あなたが私達の思い出をすっかり忘れてしまっても、あなたが健康で、笑顔でいてくれさえすればそれでいい。思い出をありがとう、アージ。どうか、どうかずっと幸せに………)


杏子は柱の陰でくずおれて、号泣する。

胸元で星のペンダントが揺れる。


アージの乗った飛行機が飛び立ち、ちょうどその時間に、杏子の夢叶い時間が終わる。

飛行機の中ではアージが目を閉じている。



夢時間が終わって1か月が過ぎ、杏子とゆき恵はカフェのテーブル席に座っている。 

コーヒーが運ばれてくる。


杏子は砂糖を入れながら

「ゆき恵、先輩とはうまくいってる?」


「うん。……そんなことより、杏子、何かあったんじゃないの?元気ないよね」


「……うん。きのう、久しぶりにテレビをつけたら、ある人を見て……ゆき恵とすごく話したくなって……」

杏子は涙があふれて止まらなくなる。


ゆき恵があわてて、テーブルの上の杏子の手を握る。

「どうしたの、いったい」


杏子、しゃくりあげる。

「ゆき恵はきっと信じないと思う。でも、でも、どうしても話を聞いてもらいたいの」


「みずくさいじゃないの、杏子。聞くに決まってるじゃない。なんでも話してよ」

   

杏子はハンカチで涙をぬぐいながら

「実は、前に話した叶え人の話なの」


ゆき恵、少し身を乗り出すが

「えっ、何の話?」


「あぁ、そうか。ゆき恵の記憶には残ってないんだった」


「どういうこと?」


杏子は夢時間の間の出来事をゆき恵に話す。

「それで、その叶え人に会った次の日に、帰り道でアージに会ったの」


「えっ、アージって、台湾の俳優の、あのアージ?」


「そう」

   

ゆき恵は目を見張る。


話を続ける杏子

「その時は、ただ落とした雑誌を拾ってくれただけだったんだけど、お祭りの日にゆき恵とはぐれたあとでまた会って……」


「ひぇっ!それで、それで」


「その日、ラーメン屋さんでご飯を食べて、灯台まで歩いて、このネックレスを買ってもらって、携帯の番号も交換した」


「すごい展開!ドラマみたい!」


「ねぇ、ゆき恵、私の言う事、信じる?」

          

「夢みたいな出来事だけど、杏子の涙を見たら信じるしかないよね」


「ありがとう」

そう言って、杏子は少し微笑み

「そのあと、電話があって、二回デートした」

   

ゆき恵は夢見る目つきになり

「どこで」


「最初は、純愛の聖地って呼ばれてる映画のロケ地」


「ひゅ~、そこ知ってる!」


「ゆき恵、これから辛い話をしようとしているのに、そんなに楽しそうに聞かれても……」


「ごめん、ごめん。でも、つらい結果になるかどうかは、このゆき恵様が相談に乗ってからでも遅くないんじゃない?」


「そうね、全部話すわ」

杏子はこれまでの残りの出来事を全部話す。

     

「すごい1か月だったんだ」


「……うん」


「そのあと、杏子の元気がなかったのはそのせいなんだね」


杏子、うなずく。

「昨日、久しぶりにテレビを見たら、台湾のニュースをやってて、それにアージが映ってて」

杏子、また涙ぐむ。


ゆき恵がテーブルをドンとたたいて

「よし、会いに行こう!」


「誰に」


「何言ってんの?アージに決まってるじゃん」


「だめよ。だって、アージは私のことなんか覚えてないんだよ」


「それが何?夢時間だろうが何だろうが、二人の思い出は本当にあったんだから」


杏子はうつむく

「……」


「そうでしょ?アージは覚えていなくたって、心の奥の、そのまた奥の方には二人の思い出が残ってるよ、きっと。初めからやりなおすつもりで会いに行きなさいよ」


ゆき恵、さらにたたみかけるように

「アージにも電話番号は残っているはず。ほら、善は急げよ。すぐ連絡して」


「でも、あの後、アージからは一度も連絡がないのに、私からかけるなんて」

そう言いながらもスマホを出した杏子。


「杏子ができないなら、私が電話してあげる。ほら貸して」

ゆき恵がスマホを取りあげようとする。


「やめて、ゆき恵!」


その時、メールが入る。アージの曲。

杏子はあわててメールを見る。

画面は「高松空港に来て」


杏子とゆき恵は顔を見合わせる。

台湾へ帰るアージの飛行機が飛び立ったその時、杏子の夢時間が終わりを告げた。

それから一か月が過ぎ、思いが募った杏子は、ゆき恵にこれまでのことを打ち明ける。

その時メールが…。


第11回「残された希望」は10月13日(金)夜掲載。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ