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【6】

皆様、あけましておめでとうございます。

今年一発目は『誰が嘘をついている?』です。よろしくお願いします。











 エフェリーンと言う少女は、十五歳にしては肉感的な体つきをした美少女だった。エルシェが見る限り、顔立ちは幼さを残しており、顔のパーツの配置から言っても、やはり十五歳前後なのだろう、と思った。


「初めまして、エルシェ様。エフェリーン、と申します」


 西の部屋を与えられているエフェリーンは淡い茶髪に明るい青灰色の瞳をした、目鼻立ちのくっきりした美少女だ。整ってはいるがどちらかというと普通顔のエルシェは、彼女の美貌が少しうらやましい。

「ええ。はじめてお目にかかるわ。クラウスヴェイク大公公女エルシェ・ファン・デル・クラウスヴェイクです。よろしくね」

「こちらこそ。よろしくお願いいたします」

 礼儀がしっかりした子だ。貴族の屋敷で下働きをしていたようだし、三年前にドリューネン侯爵に引き取られたようでもある。なので、礼儀作法ができていてもそれほど不思議はない。

 とりあえず座って。と、エルシェはエフェリーンに座るよう促す。失礼します、と座る彼女はこのまま公女としてもやっていけそうなくらいである。

「お会いできてうれしいわ。お兄様の娘の話は聞いていたけど、わたくしは小さかったからよく覚えていなくて。まさか会えるかもしれないなんて、思わないもの」

「私がアンドリース大公閣下の娘だと決まったわけではありませんわ。しかし、条件に会っていたおかげでエルシェ様にお会いできました。とても光栄な話です」

「そんな大げさな」

 困ったように笑って見せながら、エルシェは注意深くエフェリーンを観察していた。


 先ほども言ったように、とても美人だ。身のこなしも優雅で、とても孤児とは思えない。さりげなく爪も見たが、きれいに整えられている。さすがに指は荒れていた。

「何度も聞かれたでしょうけど、わたくしにもあなたのことを聞かせてくれる?」

「もちろんですわ」

 エフェリーンの了解が出たところで、エルシェは質問をする。

「あなた、ご両親の顔は覚えてる?」

 もちろんこれには。


「いいえ」


 と答えた。エルシェは少し考える。アンドリースの娘の特徴として挙げられた六つのことは、シルフィアもドリューネン侯爵も調べているだろう。もちろん裏を取ることも大事であるが、エルシェはあえて違うことを聞いた。

「あなたを育ててくれた人はどんな人?」

「……さあ。私は、気づいた時には屋敷に奉公に出ていたので」

 エフェリーンが含みのある答えを返した。エルシェは「そう」と短く返事をする。

「だからあなたは所作がきれいなのね」

「ありがとうございます」

 ふとした仕草というのは、一朝一夕で身に着けられるものではない。エフェリーンの仕草の丁寧さは長い期間、その空間にさらされてきたことを意味する。貴族の屋敷に奉公に出ていたのなら、珍しい話ではない。

「途中からドリューネン侯爵に引き取られたそうね。何歳のころ?」

「正確な年齢がわからないのではっきりとは言えませんが、十二歳か、十三歳くらいの頃でしょうか。それに、引き取っていただいたと言うより、侯爵家で下働きをしておりました」

「そうだったの」

 てっきりエルシェは、ドリューネン侯爵がエフェリーンをアンドリース大公の娘に仕立て上げるために引き取ったのだと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。


「ねえ。少し、眼を見せてもらってもいい?」

「眼、ですか?」

「ええ。眼よ」


 にっこりと笑って許可を請うと、戸惑いながらもエフェリーンはうなずいた。エルシェは「失礼」と立ち上がり、エフェリーンの顎に指をかけてじっと目を見つめた。

 確かに明るい青灰色の瞳だ。兄アンドリースの瞳の色に似ている……気はする。エルシェは微笑んだ。

「ありがとう。もういいわ。何度か話を聞きに来るけれど、いいかしら?」

「もちろんです。楽しみにお待ちしています」

「ありがとう。では、今日はこれで失礼するわね」

 そう言って立ち上がったエルシェを見送るようにエフェリーンは立ち上がった。スカートをつまみ、貴族的な礼をする。ややぎこちないのは、やはり生まれながらの貴族ではないからかもしれない。まあ、断言はできないけど。


「いかがでしたか」


 興味津々という様子でヨナスが尋ねてきた。エフェリーンの部屋をちらりと振り返り、エルシェは言う。

「……そうねぇ。他の二人の話を聞いてみてからでないと、はっきりしたことはわからないかな」

 エルシェはそう言ってはぐらかすと、次はミナのところに行こう、と言った。少し離れたところにあるもう一人の娘候補ミナの元に連れて行かれる。

「突然お邪魔してごめんなさいね」

「いえ。こちらこそお邪魔しています。ミナと申します」

 ミナはエフェリーンとは違い、スカートをつまむ貴族的な礼ではなくぺこりと頭を下げた。その素朴な礼の仕方にエルシェは微笑む。


「ミナね。わたくしはエルシェ・ファン・デル・クラウスヴェイク。クラウスヴェイク大公公女です。よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 あか抜けない感じだが、それでも丁寧に接しようとしているのがわかる。それがとても微笑ましい感じだ。

「突然で悪いけど、少しお話をさせてくれる?」

「もちろんです」

 緊張しているだろうに、快く応じてくれたミナにエルシェは好感を抱いた。

「ではお言葉に甘えて。まず、ご両親の顔は覚えている?」

「いえ……残念ですが」

「ええ。そうよね」

 エルシェはわかっていることを確認していっているようなものなので、返答もある程度予測できる。

「あなたは孤児院で育ったと聞いたわ。どんなところだった?」

 ミナは孤児院で育ち、ある程度大きくなってからは小さな子の世話をしていたようだ。宿屋などで給仕の仕事をして稼いだ給金を孤児院の経営に回していたと聞く。しっかりした娘だ。

「そうですね……まあ、孤児院ってどこもそんなものだって聞きますけど、経営は苦しかったみたいです。でも、シスターも優しくて、ちゃんと食事も食べられたし、そこそこいいところなのかなって」

 孤児政策はシルフィアが手を付けているようだが、まだ実現には程とおりだろう。現状、最高決定者がいないからだ。大公がいない場合、主だった官僚、つまり、宰相、副宰相、各省庁の長たちの合議制となる。これがまた時間がかかるのだ。

「孤児院に併設された教会で毎日お祈りをして、畑仕事や料理を作るんです。あたしは、十二歳くらいの時から近くの宿屋で給仕の仕事をしたりもしていましたけど。でも、チビたちを放っておけなくて、結局ずっと孤児院にいたんですけどね」

 まだ城に来てからそれほど経っていないはずなのに、ミナは懐かしそうに孤児院時代を語った。

「しっかりしているのね。まだ十五歳くらいなんでしょ」

 正確な年齢がわからないので、エルシェはそう言って小首をかしげた。大体十五歳くらい、で集められているので、ミナが本当に十五歳なのかは、本人にもわからないのである。

「十六歳で決起し、公都を奪還したエルシェ様に比べれば、大したことはありません」

「わたくしなんて、みんなに助けてもらってこその公都奪還だもの。あなたの方がしっかりしているくらいよ」

 これは本当にそう思ってのことだ。市井で育ったミナは、城でぬくぬくと育ったエルシェに比べると、世間慣れしたしっかりした性格をしていた。


 それに、エルシェがもっとしっかりした性格ならば、公都を奪還した後、全てを捨てて逃げたりしなかったはずだ。このことが、エルシェに後ろめたさを覚えさせる。完全に自業自得であるのだが。

「最後にもう一ついいかしら」

 エルシェが微笑むと、ミナはこくりとうなずいた。

「眼を見せてもらってもいい?」

「眼?」

「ええ。眼。瞳ね」

 エルシェがそう言うと、ミナは戸惑いながらもうなずいてくれた。エルシェは「ありがとう」と立ち上がるとミナの前に立ち、その顎を指でくいっと持ち上げた。先ほどエフェリーンにもした体勢である。じっとその青灰色の瞳を見つめた。吸い込まれそうな空色の瞳である。パッと見同じだが、やはりエフェリーンの瞳の色とは若干違う気がした。

「はい。ありがとう」

「いえ……」

 ミナが戸惑いながら首を左右に振った。エルシェは微笑む。

「今日のところはこれで失礼するわね」

「もうよろしいのですか?」

「ええ。また話をしに来ると思うけれど」

「歓迎いたします」

「ありがとう。緊張させてしまってごめんなさいね」

 緊張しながらも、エルシェに対して丁寧な態度を崩さないミナはやはりすごいと思う。エルシェは目を細めて微笑むと、その部屋を後にした。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


新年開けてしまいましたよ~。今年も変わらぬ調子で行きますので、よろしくお願いします。


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