プロローグ
プロローグ
「ごちそうさま!!」
イツキは大声で言う。それに答えるように父は話す。
「なんだイツキ、もういいのか? 男はちゃんと食ってスタミナつけないとだめだぞ?」
「いいんだよ、もう十分力はついてる!」
そう言い放つ。
「先に風呂入っていいよなー?」
「いいわよ。先に入っちゃいなさい」
今度は母が答える。
「わかった!」
そういって、部屋をあとにする。
いたって普通の日常だ。とてもつまらない。そう思うのも無理はなかった。
イツキは小さいころから都へ行くのが夢だった。父から都の話を聞くたびに「絶対行く!」と、心に決めていた。
そんなイツキも18歳。もうすでに立派な大人だ。しかし、イツキには少しほかの人とは違う部分がある。
この村、イル村は都「アレクシア」から遠く離れた山奥の村だ。この世界の人は、男女関係なく、18歳になると固有の精霊が宿される。
精霊を宿したものは魔法を自由に使える。
しかし、18歳になったイツキだけにはその精霊の力が宿されていない。イツキはそれが何よりの不安だった。
精霊は火・水・風・地・光・闇の6つの属性のいずれかを持つといわれている。
光・闇は希少性がとても高い。村でも数人しかいない。
どの属性の精霊かは18歳になるまでわからない。村の者は、精霊の力は護身用としてむやみに使わないようにしている。
しかし、例えば火の精霊なら火を起こすのが得意なためそういうところでは活用はされている。
イツキは、いつも通り就寝の準備をして寝床についた。今日はやけに眠い。そう思ったのもつかの間、あっという間に
眠りについてしまった。
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目を覚ますとそこには、見慣れない光景が広がっていた。
荒れ果てている大地、焼け焦げたにおい。それに、ぞっとする悪寒までする。
「ここは……一体?」
そう口にした瞬間だった。イツキの心に直接語りかけるように何者かの声がしてきた。
「……ここは、100年後の世界」
そう、女性のような声をした者が言った。
「誰だ!?」
「あなたは選ばれたのです。この世界を生まれかえるために……」
イツキの言葉は儚く無視され、再び語りだす。
「あなたの世界は窮地に追い込まれてしまっています。このまま何もしなかったら100年後、あなたの住む世界は
このような、荒廃した世界へと変わっていくでしょう」
「何を言ってるのかわかんねーぞ」
ようやく質問に答える。
「あなたは都アレクシアへと赴き、世界を変える英雄へとなるのです」
「この世界には、7つの大陸があるといわれています。あなたの住む大陸はその中の一つ、アレクシア大陸です。
このような世界へと変貌させてしまう原因。それはその他国との戦争です。ほかの国は自国以外の滅亡を望んでいます。
その戦争を止めるため、あなたは都アレクシアへと赴いてもらわなければいかないのです」
状況を飲み込めずにいるイツキだが、問いただす。
「なぜ、俺がそんなことを?」
「いったはずです。あなたは選ばれたのだと」
「いいのか、おれなんかで」
「あなたにしか果たせない使命があるのです」
「それで……俺は何をすればいい?」
「都アレクシアの女王ソフィー・アレクシアに会いなさい」
「そして?」
「私が言えるのはここまでです。あとはあなたの行動次第……最後に、手助けとなるであろう精霊を授けます」
そういうと、目の前に眩しい光が飛び込んできた。それがイツキの体に入っていく。
「これは?」
「これは闇の精霊シェイドです。闇の精霊の中でも強力な魔法ばかり。あなたの冒険の手助けとなるでしょう」
精霊!? しかも闇の精霊なんて…… イツキは驚きを隠せない。
「これで話は終わりです。イツキ、あなたの活躍に期待していますよ」
「ちょっと待て! まだ話は終わって……」
最後まで言わずにその者は言う。
「大丈夫。今後も話せる機会が必ずあります。その時まで……期待してますよ」
そう言ったきり、声は聞こえなくなった。
「一体何なんだこれは? 夢じゃないのか?」
イツキがそう呟くが誰も答える者はいない。
次の瞬間再び眠気がイツキを襲う。
「…………っ!」
イツキの意識は再び深い眠りへと落ちていった。
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目を覚ませば、そこにはいつも通りの天井が見える。
何も変わったところはない。唯一変わったといえば……
「……っ!胸がいてぇーッ!」
胸を押さえて堪える。少し経つとその痛みは治まる。
「夢じゃ……ないのか??」
イツキは不思議に思った。
「でも都に行けるのか!? それはめちゃくちゃうれしい!」
そうしてイツキは慌てて父の所へ向かう。
「親父! 魔法の使い方、教えてくれ!!」
親父は出かける準備をしていたが、イツキの質問に答えた。
「何言ってるんだ? イツキ。お前は精霊持っていないだろ?」
そういうのはなんとなくわかっていたが、イツキはさらに聞いた。
「いいから教えてくれよ。試してみたいんだ」
そういうと、父は言う。
「あー、手に気を集中させて、それを一気に放ってみろ」
いわれるがままにやってみる。すると……もやもやした黒い影が出てきた。
「おお! おおおおおおお!! やった……やったぜ!!!」
イツキが喜ぶその姿を見て父は、
「どういうことだイツキ、おまえ、精霊なんて……」
「ちょっといろいろあってな……」
「まーーいいか。それにしても闇の精霊だとは……」
「へへ、すごいだろ!」
父も喜んでいる。そのついでにイツキはもう一つ話した。
「親父……実は俺、都に行かなきゃいけなくなったんだ。理由は言えない」
少し驚いた表情を見せた父だったが、悟ったように言った。
「おまえがそういうとは思ってたさ。予想より早かったけどな」
「親父!! サンキュー!!」
そういうと、イツキは急いで支度をしに行った。
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村を出るとき、大勢の村人が見送りに来てくれた。
「みんな、行ってくる!」
「気をつけてな! 必ず帰って来いよ。そういや母さんにはいったのか?」
親父にそう言われると、イツキは慌てた
「げ! 言うの忘れてた! どうしよう……」
「構わず行ってこい。あいつも覚悟はしてだろうよ」
「わかった! それじゃ!」
イツキは笑顔で手を振りながら都へとその一歩を進み始めた。