サヨナラトレイン
今日もまた、さよならの時間が来た。
想和は今日も電車に揺られて、帰っていく。
電車の去ったホームで、僕は別れたばかりの君を思い出すんだ。
「晃!」
駅の改札で、彼女は待っていた。
小花柄のワンピースと白いカーディガンを身にまとって、遠くからでもわかる可愛げなを見せる。
「待たしちゃってごめんね、想和」
「ううん。早く会いたかったし、それに晃も時間前だよ」
時計の針は待ち合わせの時間の十分前をさしていた。
「行こっか」
「うん」
想和は明るくうなずく。
僕は彼女の左手をつかみ、駅を後にした。
今日は久しぶりのデートだ。
想和はとなりの町に住んでいる。
デートの日は、いつも駅で待ち合わせをするんだ。
「まだ帰りたくない」
想和は僕に抱き付いた。
「門限でしょ? 帰らないと、怒られちゃうよ」
僕はそう言って想和の頭をなでる。
すると彼女は嬉しそうに笑ったけど、少し不機嫌そうに見える。
「わかった……。また、どっか行こうね!」
「もちろん」
ホームに電車が来る合図が響いた。
ホームにいた人たちは列を作り出す。
僕に手を振りながら、想和は電車に乗り込んだ。
「ばいばい!」
「ばいば……」
発車メロディーが僕の言葉を切り裂いて、空気の読めない扉が閉まる。
別れ際、想和は笑顔を作った。
その笑顔はへたくそで、思わず僕は笑ってしまった。
扉に映った僕の笑顔も同じ想和と同じでへたくそで。
電車は徐々にスピードを上げて、想和を遠くへ連れていく。
それを僕はホームから見送った。
カーブに差し掛かって、その後姿が見えなくなっても、ずっと。
「想和……」
冷静に想和を送り出したけど、本当は苦しかった。
彼女のいなくなったホームで、僕は空を見上げる。
君を連れ去ったのは、残酷なサヨナラトレインだ。