元勇者一行現ギャグ担当の騒がしトリオ
中々別作品の筆が進まないので気晴らしに書いてみました。
どうぞ作者の知能レベルに合わせ頭の中を空っぽにしてお楽しみください。
そう遠くない過去、魔王を倒した3人の英雄がいた。
一人目は、茶髪で小柄な平凡少女。自分の故郷の村を魔族に滅ぼされた彼女は、復讐心をその小さな胸に秘めて旅を始めた。
類いまれなる剣術の才能を持っていた彼女は、数々の強敵との実戦を経て、幼いながら「王国最強」と呼ばれるほどの実力を手にした。
旅の途中で実は彼女の村を焼き払ったのは人間だった事が判明したりするのだが、それはまた別のお話。
二人目は、エルフの青年。長寿で知られるエルフの中では若者に位置する彼は、超絶イケメンだった。
その美貌故に女性に対して良い思い出のない彼は、一人目の少女と出会った当初は険悪だった。しかし、とある事件を経て彼女を「仲間」に相応しいと認め、旅に同行するようになった。
彼はエルフの一族の中でも有数の弓の使い手で、その目は千里を見通すとまで言われたようだ。反面、魔法は苦手だったようだが。
三人目は、かなりの巨体を持つ男性。ボディビルダーも羨む理想的なムキムキ巨体の彼は、その見た目に反して優秀な魔術師だった。
元王宮魔術師だったが、堅苦しいのは苦手ですぐに自主退職、冒険者として活躍していた。
困った人を放ってはおけない正義感溢れる性格で、少女と青年の二人組と出会った地点で、事情を知るやいなや即同行を決意したのは必然であっただろう。
3人は数々の困難や試練を経て力を付け、絆を深めあっていった。
彼らの快進撃は止まることを知らず、各地で侵略行為を行っていた魔族を撃退、遂には魔王城まで進行。魔王との激闘の果て、それを見事打ち倒した。
彼らは後に「勇者一行」と呼ばれ、英雄として語り継がれるのであった。
しかし、彼らの物語は正確にはここで終わってはいなかった。
魔王が倒されたという知らせが全国を回ってそう遠くない日。まだ熱狂覚めぬといったとある村の酒場で、3人の男女が談笑し飲み明かしていた。
村の人は、仕事中の冒険者が魔王撃破の知らせを受けて祝っているのだと気に止めなかったが、彼らこそ魔王を倒した「勇者一行」。旅の大目的達成の打ち上げをしていたのだ。
「でさ、あの肝心なところで…ふふっ」
「ガハハハハ!あの致命的なドジには胆が冷えたなぁ!」
「今でこそ笑い話で済みますが、あれは死を覚悟しましたよ」
今までの数々の旅を振り返り、それを酒のつまみに(一人はオレンジジュースだが)談笑する。その様子は、まさに心を通わせた仲間の見本のようであった。
「……ねぇ、二人とも」
突然、少女が真剣な顔で話を切り出した。二人は怪訝な顔になりながらも真剣に聞く。
「私たちの旅で足りなかった物って、何だと思う?」
それは不思議な質問だった。
絆はたくさん育んだ。
経験は十分に積んだ。
復讐は思わぬ形で終結し、魔王討伐も全員生還という理想的とも言える結果で終わった。
お金も名声も実績も、十分すぎるほど手に入れた。
それでも足りなかったもの、それは…
「…余裕ですか?」
「確かに足りなかったかもだけど、私が思ってるのとは違う」
「娯楽か?」
「惜しい、すごく近い。私たちに足りなかった物、それはね…」
「笑顔だと思うの」
その言葉に二人はハッとした。旅路は険悪というわけではなかったが(むしろ良好)、自分達が笑顔で談笑するのは久しぶりな気がした。
「ねぇ、二人ともこれからどうするの?」
二人にそう聞いた少女の眼には、何かを決意した意思が見えた。
「あのね、もし何も決まってないなら…また3人で旅をしない?今度はね、前のような緊迫した旅じゃなくて、笑顔溢れる旅にするの!」
少女曰く、今度は観光のような気分で世界を回りたいらしい。初心に戻り、冒険者としての以来で路銀を稼ぎ、次は何処に行こうかと談笑する。そんな旅。
「ふむ、この3人で各地の名所巡りというのも悪くないかもしれませんね」
「良いじゃねぇか!どうせ王都に戻っても退屈だしな、乗った!!」
そして、まだ仲間と共にいたいと心のどこかで思っていた二人には願ったりかなったりの提案だった。
「やった!!あのね、初心に戻るって言う意味で、一つ提案があるの」
断られるのか内心ビクビクしていた少女は喜び、あらかじめ考えていた一つの提案をする。
「ほう、聞こうじゃないか」
「あのね、…………………………」
魔王は勇者一行によって倒された。だが、彼らが王都に帰還することはなかった。
人々の間では「また何処かで旅を続けている」だの「人気のない秘境で隠居している」だの、色々な噂が広まったが、最後は皆こう言った。
「ありがとう、勇者御一行様」と。
数年後、新たな魔王が擁立される。
これを恐れた王国は、世界平和と市民の安心のため、「異世界の勇者召喚」を敢行した。
二代目勇者の誕生である。
「見つけた…この中のどこかにあるのか」
「ええ、情報が正しければ…ですが」
とある人里離れた森の奥地、そこにひっそりと開いた洞窟型ダンジョンの入口に、4人の男女が現れた。
金髪でどこか高貴な王子のような騎士の青年と、おしとやかで優しげな雰囲気を漂わせる青髪少女と、褐色な肌を持つ活発な少女…そして、どこかこの世界の住人とは違う雰囲気を持った黒髪の青年。
彼らこそ、魔王討伐のために旅をしている「2代目勇者一行」である。彼らがこのような場所に来ている理由、それは、とある村で入手した情報の為だ。
「本当にこんな辺鄙な場所にあるのかねぇ、『先代勇者の聖剣』とやらは」
「わかんないならとにかく行ってみよー!」
「お前は冒険したいだけだろうがっ」
「いたいっ!?」
悪逆非道の限りを尽くした先代魔王を倒した「初代勇者一行」、その剣士が使っていたとされる聖剣がここに眠っているという。真偽は定かではないが、もし手に入れられれば魔王との戦いにも大いに役に立つであろう。
そう思いやって来た勇者一行の前に、3人の人影が現れた。
「……おや?」
「げっ」
その人影が誰なのか認識した瞬間、勇者の青年はつい悪態をついてしまった。かというのも、彼はこの3人を知っており、苦手としていたのだ。
それは何故なのかと言うと…
「ハーッハッハッハ!!誰かと思えば兄弟ではないか!お前も噂を聞きつけてきたのか?」
「あ、ダーリン!こんな所で奇遇ね、会いたかったぁ!」
「同志ユウト、前のメイド服の美しさについて語り合った日は楽しかったです。今度はナース服について語り合いましょう」
「だから変な呼び方すんじゃねぇ!」
単純に騒がしいからだ。
自分の事を兄弟と呼ぶ(決して兄弟ではない)このムキムキな巨漢は、グロイス。両手剣を豪快に振るう戦士だ。何故か異様に気に入られ絡まれている内に、兄弟と呼ばれるようになってしまった。
自分の事をダーリンと呼ぶ(決して付き合っているわけではない…可愛いけど)この小柄で茶髪な少女は、フィリア。弓使いだ。グロイスと同じく何故か気に入られ、ふざけ半分でダーリンと呼ばれるようになった。でもその呼び名は止めてほしい、何故か呼ばれるたびにフローリア(仲間の青髪美少女)がこちらを射殺すような目線で睨んでくるのだ。
自分の事を同志ユウト(決して変態ではない、たぶん、きっと。ちなみにユウトは俺の名前だ)と呼ぶこのムカつくほどイケメンなエルフの青年は、レイン。エルフらしい魔法使いだ。前にとあるきっかけで学園制服萌えについて語り合って以来、よく服装萌えについて語り合う仲となった。同志呼びくらいは認めても良いかもしれないが、なんとなくこちらの女性陣の視線が痛いので止めてほしいのだ。こら王子騎士、仲間に入れてほしそうにこちらを見るな。
彼ら3人は、旅の途中で何度か会うたびにこうやって絡んでくる。俺は彼らを心の中で「騒がしトリオ」と呼んでいる。
そして今回も例外ではなかった。
「フハハハハハ!兄弟達も先代勇者の聖剣の噂を聞きつけてきたらしいが、残念だったな!先に頂くのは俺達だ!」
「たとえ同志ユウトとはいえ、簡単に譲るわけにはいきませんね」
「どうしても欲しいなら、競争だよ!おっさきー!」
何だか反論する前にあちらで話が完結してしまい、笑い声と共にあっという間に洞窟の中へ消えてしまった。はぁ、本当に騒がしい…
「競争?面白そう!」
「ふん、お前は単純でいいよな」
「とはいえ、どうしましょう…?」
どうするかって?そんなの決まっている。騒がしトリオに乗るのは嫌だけど…
「聖剣を手に入れられれば大きな戦力増加になる。なんとしてもあいつらより早く手に入れるぞ!」
「…ふふっ、そうですね」
「そうでなくっちゃあ!」
「ま、ただで負けるのは癪だしね」
満場一致で決定、俺達は意気揚々と洞窟へ突入した。
「うそだろ…」
洞窟へ入ってどれくらい経っただろうか。寄せ来る魔物を打倒しながら進んでいった俺は、危機に陥っていた。
「皆とはぐれた…だと…?」
どうやら大量の魔物を倒していくうちに、深入りしてしまっていたようだ。ここの魔物は大して強くないとはいえ、やはり一人では心もとない。
「………っ!敵か!?」
暗い道をカンテラで照らしながら(一応暗視は出来るが)歩いていると、人影が現れた。それに警戒して剣を抜く…が。
「……おや?」
「……げっ」
その影の正体を見るや、別の意味で絶望した。何これデジャヴ。
「フゥワッハッハッハッハ!また会ったな兄弟!何だ、仲間とはぐれたのか?」
「もしかして会いに来てくれたの?ダーリン…私嬉しい!」
「同志ユウト、やはり今度はスクール水着について語り合いましょう」
「だから変な呼び名で呼ぶんじゃねぇって!あとレイン、それ今関係ないだろ!!」
まさかの騒がしトリオと遭遇である。仲間とはぐれた後にこれって…頭痛がしてきた。
「でもダーリン、ダンジョンに一人じゃ危ないよ?」
「ならば簡単、我々についてくると良いですよ」
「ガッハッハッハ!そりゃ良い、競争は一旦やめだ!一緒に行くぞ兄弟!」
確かにダンジョンソロは危険だ。一人だと罠の見落としや奇襲を受けやすくなる。
それに彼らもこう見えて、このダンジョン程度なら安全に潜れる実力者達だ。こちらにとっては願ったりかなったりの提案だろう。
相手が騒がしトリオじゃなければ…ええい、背に腹は代えられん!
「……お願いします」
「フッハハハハ!よろしく頼むぞ兄弟!」
「わぁい、ダーリンと一緒に冒険だぁ!」
「道中で前のメイド服の機能美の考察について補足を加えたいのですが、良いですか?」
帰ったら胃薬買おう。俺を囲んでくる3人を見ながら、そう思った。
この騒がしトリオ、実は結構強い。ずっとこの3人で組んでいるのか、コンビネーションが完璧なのだ。
だが、彼らには大きな欠点がある。それは…
「ぬおおおおおお!!……ぬお、目が、回る…」
「馬鹿!敵が多いからって回転斬りのしすぎだ!」
「待ってて!今助けるから…わきゃあっ!?」
「矢が逆方向に飛んで行った!?ナンデ!?」
「燃やし尽くせ、地獄の業火!……おや?」
「何で炎属性の詠唱で花が咲くんだよ!」
こいつら、致命的に才能が無い。
…いや、何だろう。よく分からないが「かみ合っていない」気がするのだ。
どうしても違和感が拭えず、一度聞いて見たことがある。そしたら…
「「「……………」」」
「……………」
露骨に目を逸らされた。そして何事も無かったかのように騒がれた。ナンデヤネン。
…まぁ、彼らなりの事情があるのだろう。そう思い、深くは詮索しない事にした。
「ぬおおお、筋肉さんがこむらがえった……」
「助けてダーリン!矢筒落として矢が散らばっちゃった!」
「流水よ、万物を押し流し削り落とせ……おや?」
もう帰って良いですか。
「どうやらここが最深部のようですね」
今、俺達の前には「いかにも」といった巨大な扉がある。どのダンジョンも何故か最深部はこうやってわかりやすいように出来ているのだ。永遠の謎である。
「さて、噂の正体は何かな…」
「……?」
フィリアの呟いた言葉が、何故か引っかかった。うーん…?
「あの3人はまだ来ていないようだが…とりあえず行くぞ!」
グロイスが扉を開けて中に入るのを見て、思考を一旦止め慌ててついて行く。
中は、外壁沿いに柱の立った大広間のような場所だった。
「情報通りなら、ここに聖剣があるはずだけど………」
そう呟いたフィリアが、不自然に立ち止まった。
「…随分かくれんぼがお下手な様子。分かってるよ、出ておいで」
そのフィリアの言葉からしばらくして、広間に不快な嗤い声が響いた。
「イーッヒッヒッヒッヒ…かく言うお嬢ちゃんは『彼ら』より目ざといようで…勘の良いガキは嫌いですよ」
嗤い声と共に一本の柱の影から、一人の老人のような魔族が現れた。
…ん?待て、「彼ら」だと?
「おい!俺達の仲間に何かしたのか!?」
「んふふ~?あなたの仲間ぁ?この人達の事ですかねぇ?」
そうわざとらしく笑った魔族が指をパチンと一回鳴らすと、他の柱から別の影が現れた。
「うぅっ……」
「すまねぇ、ユウト……」
「……!!」
それは、縄で縛られ捕まっている俺の3人の仲間達だった。
「てめぇ、離しやがれ!」
「おっと、動いてもらっては困りますよ…間違って首が飛んじゃうかもしれません」
怒りで剣に手を構えるが、仲間の後ろで首元に刃を添えるゴブリン達を見て留まる。
「卑怯な手を……」
「卑怯でもなんでも構いません、命のやり取りに正々堂々なんて言葉はない…立派な戦術ですよぉ?イッヒッヒッヒッヒ!」
その不快な嗤いに悔しさで奥歯をかみしめる。
この状況からして、どうやら先代勇者の聖剣の噂はこの魔族の罠だったようだ。更に憎しみが募る。
だが仲間を人質に取られている現状何も出来ない。どうすれば…
「さぁて、皆さんお待ちかねの料理タイムですよぉ?カモ~ン!」
魔族が再び指をパチンと鳴らすと、周囲から別の魔物が現れる。まだ伏兵が居たのか…!
「さぁ皆さん、あの憎き『3人』を潰して差し上げなさい!」
万事休す。そんな中、フィリアがぽつりと呟いた。
「……伏兵はこれで全部かな」
そこでふと疑問に気づく。
……「3人」?
咄嗟に騒がしトリオを見る。フィリアとグロイス………レインがいない?
それに気付くと同時に、フィリアがこちらをちらりと見て…ウィンクした。
「出番だよレイン!」
「やれやれ、やっとですか」
その声が聞こえたと同時に、矢が仲間達を拘束していたゴブリンに飛来する。突然の攻撃にゴブリンが反応できるわけもなく…
『『『ギギャッ!?』』』
「なっ!?」
その矢は見事にゴブリンに直撃し、膝から崩れ落ちた。
「ば、馬鹿な!?いつからそこに!?」
「私はあなたと違ってかくれんぼが得意なんですよ」
「今だ!受け取れフィリア!」
奇襲で騒然としている中、今度はグロイスがフィリアへ両手剣を投げ渡した…って、えぇ!?
グロイスの持っている両手剣は、彼の体格に似合った2mはあろうかという巨大な物だ。そんなのを小柄なフィリアに投げ渡したら…!
「……ふふ、久しぶりの剣の感触」
だが、その予想に反してフィリアは軽々とその両手剣を受け取った。
そして、横に振るって構えた。
「特別に見せてあげる…『概念を斬る斬撃』を」
―――断溝―――
その言葉と共にフィリアは両手剣を片手で大きく振るう。
無論、その圏内に敵はいない。にもかかわらず…
『『『ガァァッ!?!?』』』
周囲を囲んでいた魔物が、その一振りで粉々に砕け散った。
「なっ…!?」
「ヒ、ヒィィッ!?」
魔族が何が起きたか分からないと言いたげに後ずさる。だが、何故か俺には分かった。
…あれは、敵を「距離ごと斬った」んだ。
「せ…戦略的撤退ぃぃぃ!!」
完全に威圧された魔族は、転移魔方陣を発動させる。
しまった!ここからじゃ間に合わない…奴を逃がしてしまう!
「させると思う?ほらグロイス、返すよ」
「おう、待ってました!」
この地点で、彼らの事情はある程度理解した。何故かは知らないけど、それぞれの得意分野を交換して戦っていたんだ。
だとすると、残るはマッチョの巨漢なグロイスと、魔法の組み合わせになるわけで…
グロイスはレインの投げた魔術書を受け取ると、手慣れた様子で詠唱を…破棄した。
「ふん、この程度の詠唱破棄、造作もない…詠唱破壊」
「な、なにを…ヒィィッ!?」
パリィィィン
何かが割れる音と共に、転移魔方陣が砕け散った。同時に近づいていたフィリアが、両手剣を首元に添えるのが見えた。
「あなたの敗因は一つ…」
「ヒッ…!?」
「私達の嫌いな『人質戦法』を取った…ただ単純に、それだけ」
そう言ったフィリアは、両手剣を振り上げ………
「今回は助かった。なんてお礼を言えばいいか……」
ダンジョンの外に出た俺が最初にしたのは、感謝と共に頭を下げる事だった。
「お、おい兄弟、そんなの言いっこなしだぜ」
「そうだよダーリン、困った時はお互い様だよ!」
「同志ユウト、礼は今度また語り合う事で手を打ちますよ」
「……ありがとう」
今は変な呼び名も気にならない。彼らがいなかったら、俺達はきっと…
だから、俺達に何か出来る事は無いか。そう提案した。
「…なら一つお願いしても良いかな」
そう言ったフィリアは一本の剣をこちらに差し出した。これは……
「……!?これって…」
「…うん、聖剣『カリバーン』だよ」
聖剣カリバーン。王の持つ聖剣「デュランダル」と、先代勇者の持つ聖剣「クラウソラス」に並ぶ聖剣の一本。こんなものを何で彼らが…
「…魔王討伐に行くんでしょ?」
「あ、あぁ…」
「…なら、絶対生きて帰って来て。これは、私なりのお手伝い」
そう言ったフィリアの眼には、強い心配が映っていた。
そうだ、彼らはこんなにも自分を慕ってくれている。俺だって彼らが嫌いじゃない。そんな友人が魔王と戦うなんて言ったら、確かに心配だろう。
何故彼らが聖剣を持っているのかは分からない。だが、きっとこれは「お守り」のような物なんだ。
「…わかった。魔王を倒して世界を平和にして、俺も帰って来る」
「約束だよ?」
「あぁ、約束だ」
どうやら、そうそう死ねなくなったようだ。そう思うと、自然と笑みがこぼれた。
「…でも、これは人にあげるにはちょっと貴重すぎないか?」
「私達は友人だからね。それに…」
そう言ったフィリアは、突然こちらに飛びついてきた。
咄嗟の事に反応出来ずにたじろいていると、頬にポツリと温かい「何か」が触れた。
「…友人で終わらせる気もないよ?『ダーリン』」
そのセリフと共に満足したのか、楽しげに離れる。
俺はと言うと、背中にバシバシ当たる殺気が気にならない程度には、頭が真っ白になっていた。
「フワハハハハ!!フィリアみたいな可愛い子に愛されるとはツイてるな、兄弟!」
「たとえ同志ユウトでも、フィリアは簡単には渡しませんよ」
「もう、二人ともからかわないの!……またね!」
そしていつもの騒がしトリオに戻り、騒がしく去って行った。
「…ユーウートー?説明してもらってもいいですかー?」
「ユウト!あの子とはどういう関係なの!?」
「やれやれ、モテすぎるのも考え物とは思わないか?」
「……はぁ」
想像通り流されて騒がしくなる仲間たちに頭痛を覚えながら、バクバクと騒がしい心臓を抑え、決意を新たにするのだった。
2代目勇者が召喚されてから数年。
彼らは、侵略行為に好意的ではなかった新魔王との不可侵条約締結という偉業を成し遂げた。
2代目勇者一行全員生還。その知らせは瞬く間に全国を広がり、人々は再び勇者の偉業に熱狂した。
その後、初代勇者と2代目勇者が会いまみえる日が来るのだが…それはまた別のお話。
簡単キャラ紹介
・フィリア(フィリアスフィル・ガーンテーヴァ)
茶髪で小柄な平凡少女。まだ若いが、それを鑑みても童顔。
平民にも関わらず長くて大げさな名前があまり好きではなく、「フィリア」と名乗っている。
故郷が魔族 (正確には人間)に焼き払われたのを機に、幼いながらも復讐を目的として旅に出た。
ぶっちゃけ騒がしトリオの中で一番強い。というか剣を持たせれば恐らく現人類最強。
類まれなる剣術の才能を持っており、実戦を積むうちに気付いたら剣術の極致「理」まで至っていた。
必殺技は無すら断ち切る「断空」。喰らえば魔王であれど死ぬ。作中の断溝はただの遠距離範囲攻撃。
レインとグロイスに対して恋愛感情は持っていない。純粋に仲間として付き合える珍しい男女の友情の成功例である。
・レイン(レオンハルト・E・S・ヴァルデハイト)
エルフで超絶イケメン。実はエルフの王族「ハイエルフ」と呼ばれる一族の一人。
まだエルフの中では若者だが、それを感じさせない冷静さと知識・経験の豊富さを持つ。
服装萌えで、たびたび二代目勇者ユウトと語り合う。恐らく二代目勇者と最も仲の良い男性。
弓の腕は超一流で、「射線が通っていればどんなに遠くても射程圏内」と豪語するほど。反面、魔法は苦手。魔力はあるが扱えない、俗に言う「音痴」のようなもの。エルフの中では珍しい。
ちなみにフィリアに対して恋愛感情は無いが、付き合う女性がいない理由が「彼女より魅力的な女性を見つけられる気がしない」とのこと。
・グロイス(グローヴィス・T・セントモア)
筋肉ムキムキな巨漢。貴族出身で元王宮魔術師。
堅苦しいのは苦手で、すぐに退職(逃走とも言う)し、冒険者へ転職した。
困った人を放っておけない性格で、人望も厚く誰にでも好かれるコミュ力の塊。
魔術の腕は言わずもがな、肉弾戦も結構得意。装備交換して一番まともに戦えたのが彼である。
ちなみにフィリアに対して恋愛感情は無く、保護者のように思っている。きっと彼女に彼氏が出来たら真っ先に殴りに行く。痛そう。