色のないヒーロー
「(雨の日は好き?)」
誰かの問いかけに僕は笑顔で答える。
「好き!これを見てよ!このかっこいい長靴が履ける日だもん」
その答えに誰かは
「(…僕は苦手だ。人通りも少なくなって淋しい気持ちになる。)」
とても悲しそうな声でに答えた誰かに
僕と同じ気持ちになってもらいたくてこう返した。
「なら君も新しい長靴を買ってもらいなよ!雨の日が楽しみになるよ!」
「(そうだね。そうしようかな…)」
やっぱりどこか悲しそうな返事をした誰かの声はそこでまた聞こえなくなってしまった。
この道は毎日通る一本道。
住人や車は必ず使う道だ。
そんな道で誰かの声が聞こえるようになったのは数日前。
「(おはよう)」
誰かが僕に言って来たように聞こえた。
「おはよう」
と、挨拶を返した。
「急にどうしたの?鳥さんにおはようってご挨拶?」
ママはつないだ手を少し挙げて微笑みながら話している。
「違うよ、誰かがおはようって言ったからおはようって返したんだ」
不思議そうな顔をして周囲を見回し
「誰もいないようだけれど…本当に聞こえたのならカズ君とお話したい鳥さんがいるのかもね」
と、いいながら僕の頭をポンポンとかるく撫でる。
「そっか。僕も鳥さんとお話してみたい!」
「また聞こえたら話しかけてみたらどうかしら?」
僕は大きく頷いた。
「(いってらっしゃい)」
「あ!」
誰かが、また話しかけてきた。
「ママ!またっ」
腕時計を見ていたママは驚いた顔をしていた。
「大変!!バスの時間ギリギリ!ちょっと急ぐよ!」
帰りも明日もこの道は通るのだからまた聞こえたら話しかけてみよう と、思いながら
大きく早くなった歩幅に遅れないように僕は必死で着いて行った。
その日の帰り道。
やはり誰かが話しかけてくる。
「(おかえり)」
次の日の朝もやはり
「(おはよう)」
と、聞こえてきた。
確かに聞こえる声に鳥さんではないと思ってはいるものの
ママには聞こえていないようだし、姿も見えない
しかし誰かが話しかけてくるのは確か。
毎日話しかけてくる誰かに会いたい。会って話がしたい。
そう思った僕は一人で毎日通る道に出かけることにした。
「ママー!お外で遊んでくるね。近くだから一人で平気だよ」
「気をつけて行ってくるのよー」
「うん!行ってきます!」
誰かに会えるかもしれない。
そう思うと少しワクワクして自然と早歩きになった。
どこから来たの?どのに住んでいるの?歳はいくつなの?
まずは何から話そうか考えているうちにいつも通るその道についた。
「(…うっううっ…)」
誰か泣いてる?
「(イヤだ…どうして…)」
間違いない、この声はいつも話しかけてくる誰かだ。
「どうして泣いているの?」
「(…え?…うっ君は…)」
「毎日話しかけてくれるのは君でしょ?いつも姿が見えないから今日は会いに来たんだ」
「(…僕に…会いに?)」
「うん!泣くのをやめてこっちにおいでよ。お話しよう。おやつだって持ってきたんだ。」
ポケットから持ってきた飴玉を出して、姿の見えない誰かに話し続ける。
「(…飴…ありがとう。でも…僕は食べることができないから君が食べて…)」
「嫌いな味だったかな?ごめんね。」
ちょっと残念に思いながらポケットに飴玉を戻した。
「(違う!そうじゃない!そうじゃないのだけれど…)」
「いいんだ。今日会いに来たのは君の事が知りたいから。この飴が食べられないって一つ分かったよ!」
少し嬉しくて自然と笑顔になる。
もっと知りたい。そう思い、話を続けた。
「どうして毎日話しかけてくれるの?ママには聞こえないようだし僕にだけ話しかけてくれているの?」
「(ここを通るみんなにあいさつをしているんだ。でも声が届かないみたいでね…。君が挨拶を返してくれた時、正直驚いたんだ)」