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恋のライバル!?

『それでは、いってらっしゃいませ』

学校でのあたしは、ただの学生だ。

家の事も、谷のことも関係なく、皆と平等な関係でいられる。

決して友達は多くはないが、一緒にいてくれる仲間がいる。

『おはよう凪』

『おはよう』

『ねぇねぇ、さっき夕実達と話してたんだけどさぁ。凪の従兄弟の谷さんだっけ?

今日会いに行ってもいいかな?』

『えっ、どうして?』

友達には谷のことを従兄弟だと話している。

家のことも、あたしが谷に想いを抱いていることも何も話していない。

親が外国に住んでいるという理由で、谷は幾度か懇談など、保護者役になってもらっていた。

顔の良い谷は、クラスの中でも噂されているらしい。

ただ、あたしはそこまでクラスに溶け込んでいるわけではないので、谷について聞いてくる者はいなかった。

だけど、沙希は好きな人もいて、谷には興味がなかったはず・・・

それなのにどうして?

その疑問に答えるかのように沙希は笑顔で言った。

『夕実ったらね。谷さんのこと好きになったんだって。この前懇談の時に夕実と入れ違いになったらしいじゃない?

その時に運命感じたって言ってたよ』

『そう。なんだ・・・』

友達の恋模様に嬉しそうに話す友達に、あたしは動揺を隠すのに必死だった。

まさか、谷のことを本気で好きになる子が出てくる何て・・・

それに、悲しいことに仲の良い子だ何て・・・

あたしはどうしたらいいの?

『行ってもいいよね?凪も応援してくれるでしょう?まあ、従兄弟だから複雑かもしれないけど・・・

でも、いいよね。自分の身内にあんなにカッコいい人がいるなんて』

『そうかな・・・』

あたしは必死に平常を保つよう勤めた。

ここであたしが谷を好きだと言ったら・・・

あたしだって友達の恋は応援したい。

だけど、それが何年も前から思い続けている人だなんて・・・

『凪は本当に醒めてるね。好きな人とか作ったらいいのに。で、段取ってくれない?お願い』



あまりにも真剣にお願いする沙希に、あたしは断ることが出来なかった。

今日はいつもと違い、授業が終わるのが遅く感じる。

谷に言えば、何の躊躇いもなく来てくれるだろう。

執事だから。ではなく、谷はそういう男だ。

思えばあんなにカッコいいのに、執事何て仕事をしているから、恋もろくに出来ないもんね。

あたしと一緒にいるから・・・

考えれば考えるほど悲しくなってきた。

もしも今日夕実に会って、夕実が谷に想いを告げたらどうなるのだろうか?

いくら何でも、その場で付き合うということはないだろうが、それから時間の許す限りに二人は会うことになるのだろう。

夕実はいい子だ。谷だってそのうちに好きになってしまうかもしれない。

執事が恋愛をしてはいけない。そんなきまりはないのだから・・・



その日の授業は一つも頭に入らなかった。

そして、とうとう放課後が訪れた。

昼休みのうちに谷に連絡を入れると、何も聞かずにOKしてくれた。

どうして何の躊躇いもなく友達に会えるの?

谷は何も思わないのだろうか。



『凪本当にありがとうね。ずっと会いたかったの。でもね、そんなに会ったわけじゃないし。勘違いかなって思ったの。

でも、やっぱり谷さんのことが頭から離れなくて・・・本当に良い友達を持ったよ』

嬉しそうに話す夕実は、本当に谷に恋をしてしまっているようだ。

あたしだって、こんな風に言ってみたかった。

谷が好きだって友達と話して、盛り上がりたかった。

だけど、そんなこと出来ないから・・・

夕実がうらやましいよ。



谷とは近くの喫茶店で待ち合わせることになっていた。

仕事もあるからか、谷は7時にならなければ来れない。

今はマダ5時で、2時間も時間が空いているのだが、今から夕実は落ち着かない様子でいた。

『夕実ったら、今からそんなに緊張してたら会った時死んじゃうよ?』

『本当に死んじゃいそうだよ~。凪って良く普通に会えるよね。てか、今一緒の家に住んでるんだよね?羨ましいな~』

谷が来るまで2時間も耐えられるだろうか。

今でももう限界だ。

もう何も話せない。

『谷なんて別にかっこよくないよ。まあ、そりゃ顔は良いのかもしれないけどね。ていうか、マダ2時間もあるよね。

谷の奴・・・もう少し早く来ればいいのに。あたししばらく本読んでるから』

『えっ、もう・・・凪ってばいっつもこの調子なんだから』

『凪って男の人に興味ないの?』

二人から批判されようが、あたしはこのキャラを貫き通そう。

そうじゃなきゃ、あたしは言ってしまうかもしれない。

楽しそうな夕実に、あたしは真実を言ってしまうかもしれない。

二人には何も応えず、本を開け始めた。

正直全く頭に入らず、二人の恋愛話ばかりが耳に入ってきたのだが、気にしないようにすることにした。




6時半が過ぎた頃に谷は現れた。

『すみません。お・・・凪、遅くなりました』

『う、うん・・・予定より早かったじゃん』

執事だということを隠しているから当たり前のことだが、急に凪と呼ばれたので驚いた。

夕実じゃないが、家に帰ったら心臓が爆発してしまうかもしれない。

『あっ、あの・・・今日はわざわざ、わざわざ・・・あの、すいません』

夕実は早速真っ赤な顔になって、しどろもどろになっている。

そんな夕実の様子を、ただ不振に思いつつ、谷は相変わらずの様子で『かまいませんよ』と言った。

その言葉は、夕実を更に沸騰させてしまった。

口をぱくぱくさせたまま、顔を俯かせて動かなくなった。

『ちょっと、夕実大丈夫?凪、夕実死んじゃったみたい』

沙希は明らかに楽しそうに言った。

『大丈夫ですか?』

谷は何もわからずに、本当に心配しているようだ。

本当に鈍感だ。

まあ、こんな性格だからこそ、あたしのことも気づかずにこのままでいられるのだろう。

『あの・・・』

『ああ、谷さんごめんなさい。夕実のことは放っておいていいので、何か頼みませんか?』

『わかりました』

渋々と言った様子で、夕実からメニューに視線を移すと、谷はコーヒーを頼んで沙希の方に顔を向けた。

『ところで今日はどういったご用件でしょうか?』

『えっ、ああ・・・あの・・・』

言葉を探しているフリをしながら、明らかにあたしに『助けて』と視線を向けていることに気づいたので、

気づいてしまったので・・・『あたしの保護者代わりの谷について知りたいんだって』と言っておいた。

『そうでございますか。しかし私のことなど知っても何の得もしませんよ』

谷は何も不振には思わなかった。相変わらずと言っていいのか。鈍い。

『そんなことないですよ。ていうか、谷さん年上なんですから敬語は止めてくださいよ』

沙希が慣れたように話すのを、夕実はちょくちょく顔を上げながら様子を伺っていた。

沙希は人なつっこく。大人でも、誰であろうとかまわずに話す。

そこはある意味尊敬できるところだ。

『すみません。仕事柄慣れてしまっていますので』

『へ~、何の仕事してるんですか?』

夕実の方をちらちらと見ながら、沙希はどんな些細なことでも聞いてあげようと、くいついている。

でも・・・谷嘘つけるのかな?

心配になったあたしは、そっと谷の方を見ると、谷は『安心して下さい』とでも言うように、微笑みかけてきた。

だから、それがダメなんだってば・・・

本当に心臓が止まりそうな思いを、ジュースを飲むことで落ち着かせると、改めて谷に視線を向けた。

『それは内緒です。あまり人にお話しできるような仕事ではございませんので、ご想像におまかせします』

営業スマイルとでも言ったように、谷はさっき以上に爽やかな笑顔を向けた。

谷に微塵も興味がなかった沙希ですら、思わず頬を染めたほどだ。

夕実は耳まで真っ赤にさせて、更にうつむいてしまった。

『夕実・・・こんなチャンスないんだから、話しなさいよ』

沙希は照れ隠しのように俯いたまま、夕実に小声で話しかけた。

『む、無理・・・』

蚊のような掠れた声が、かすかに聞こえた気がした。

『ところで・・・皆さんお夕飯は召し上がらないのですか?よろしければ私がご馳走いたしますが』

『えっ』

さっきまで意地でも顔を上げるか。とでも、言った様子の夕実が、驚きで顔を上げた。

その時の声が思った以上に大きかったようで、夕実はまたすぐに俯いてしまった。

本当に、こんな可愛い反応が出来るのが羨ましい。

そして、こんなにあからさまな反応をしているのに気づかない谷が腹立たしい。

自分の好きな人を好きだとはいえ、応援していないわけじゃない。

女心がわからないにもほどがある。

『いいんですか?』

夕実の反応に笑いを堪えながら、こんな誘いを断るわけにはいかない。と言ったように、沙希が身を乗り出すように聞いてきた。

『もちろんです』


そうして私達は、谷におごってもらうことになった。






『谷さん今日は本当にありがとうございました』


食事の間中は、沙希も話の種がなくなってしまったのか。

谷に話しかけることはなかった。

夕実はというと、谷に視線を合わせまいと食事の皿にばかり視線を落としていた。


『いえ、こちらこそ楽しかったですよ』

『夕実』

沙希が小声で夕実に促すと、夕実は意を決したように拳を握り締めると、『あの』と声を張り上げた。

『はい?』

驚いたように谷が目を向けると、夕実は顔を真っ赤にしたまま言った。

『また、こうして一緒に会ってくれますか?勿論凪も、沙希も一緒に・・・迷惑ですか?』

言ってから、夕実は勢いをなくしたように、俯いてしまった。

そんな様子に、谷は優しく微笑むと、少し屈み込んで言った。

『迷惑なんてとんでもありません。いつも凪と仲良くしてくださっているお方です。

私の方から頼みたいぐらいですよ』

『そ、そうですか』

夕実は嬉しそうに顔を上げると、笑顔で『それじゃあまた』と言った。


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