始まり
友達が笑顔であたしにこう言ってきた。『片思いって凄く楽しい。その人を見てるだけで幸せになれて、話すととても嬉しい』って、
そんな友達の言葉が羨ましくて仕方がなかった。
何も考えずに人を好きになれる。何も考えずに恋を出来る。
そんな平凡な友達、学校の皆が羨ましくて仕方がなかった。
そんな毎日を送り続けて、もうすぐ中学校生活も終わりを迎えようとしている。
三年になった皆は、自分の志望校のことで頭がいっぱいになり、勉強に取り組み始めている。
そんな姿も青春だぞ。って担任の先生が言っていた。
そんな何処にでもある光景が近くにあるのに、何もかもがあたしには遠いものだった。
高校になったら、もうこんな平凡な生活は出来なくなってしまう。
このまま時が止まってしまえばいいのに・・・
*
『お嬢様お帰りなさいませ』
『ただいま』
あたしのうちはとても大きな屋敷だ。
まるで、ここだけ日本じゃないような錯覚に陥るぐらいに西洋被れしていた。
だけど、ここはただの金持ちな家じゃない。
大きな会社を背負ってるわけでもない。
背負っているものは・・・
『お嬢様、お帰りそうそう申し訳ありませんが、お父様がお呼びになられています』
『そう・・・』
こいつは、この家の執事で、あたしのお世話役を勤めている。
この執事にあたしは・・・
『お父様、お待たせしました』
『おかえり凪。そこに座りなさい』
ちなみにあたしの母方は物心つかない時に病で亡くなってしまった。
あたしの身内はお父様一人だけだが、そのお父様も普段は仕事でほとんど家にはいない。
こうして珍しく帰って来るときも、決して楽しい話しが待っているわけでも、家族水入らずの食事の時間が待っているわけでもない。
待っているのは・・・
『どうかな?銃の方は、すでにやり始めているんだろう?』
『はい。ですが、マダ少し慣れずにいます』
『そうか。まあ、銃だけではないからのう。お前は剣術が優れておる。それでも十分のことだ』
『いえ、お父様に比べれば・・・』
『まあ、謙遜するでない。これからも頑張りなさい。じゃあ、私はまたイギリスに行ってくるからな』
『はい、お気をつけて・・・』
何処の平凡な家庭で、親子との間で『銃』などという言葉が出てくるだろうか。
そう、お父様の仕事は裏社会のものだ。
今はマダ何も聞かされていない。
だけれど、後一年したらあたしもそっちの道を本格的に教え込まれる。
だから高校生にはなりたくない。
高校になると、中学と違って色々と自由が利くらしい。きっと高校は普通のところじゃなくて、定時制とかになるに違いない。
そうして、みっちりと教え込まれて、高校の勉強の課程を終えると、あたしもそっちの道に・・・
最初にも言ったけれど、あたしは平凡ではない。平凡な皆といるはずなのに、それはとても遠いところにある。
だから、恋愛何て出来ない。
だって・・・巻き込んでしまうから、巻き込まれて死んじゃったりしたら、あたしは生きて何ていけない。
巻き込みたくない。
大好きなあの人だけは・・・『お嬢様?』
『た、谷!』
考え事をしている間に、既に行ってしまったお父様の代わりに、谷が顔を覗き込んでいた。
『どうかなさいましたか?』
『何でもない・・・着替えてくるから』
『さようでございますか』
谷はあたしが小さい時からうちで働いている。
どんな時も谷は傍にいてくれた。
剣術の練習の時も、銃を撃つ時も・・・
そう、あたしが大嫌いな銃の練習をしている時、谷はずっとあたしの傍にいてくれた。
初めて練習したのはいつだったかなあ?




