雲の王国
GWはベタに飛行機に乗って東京ディズニーランドへいくことにした。彼女が勝手に決めたのだ。目に浮かぶは人人人。それに潰される僕ら。小さい子供にぶつかってごめんなさいという僕。絶対人多いし面白くないそれに自分は疲れてるんだ。というと、これは命令と彼女は言った。うるせえくそアマ。でもその命令に従う。
空港には、老若男女がひしめいていた。どこにカウンターがあるのか、どこにトイレがあるのか、必死に背伸びしながら、案内板を見ていた。こういうとき背が高いひとって便利だよねと彼女がいう。それ皮肉?ぼそっと呟くけれどもターミナルのざわめきに消された。
やっと飛行機に乗れた。アナウンスを片手間に聞いて、ごごごごと音がすると、空がだんだんと下になっていった。窓際の席に座れた彼女は飛行機の厚い窓にぺたっと顔をくっつけている。エンジン音がやかましいと僕は思う。座席に付属してある有線放送を聞く。彼女はあいかわらず景色に夢中だ。
イヤホンを引っこ抜かれた。ようやく眠りかけたのに。彼女が怒ったような顔をしてイヤホンをつかんでいる。なに?どしたの?
「ねえカメラない?」
「デジカメならあるよ。」
「デジカメとかの電子機器じゃあダメだよ。それ、飛行機の中じゃ使っちゃダメってさっき機内放送で言ってたじゃん。」
「じゃあだめだな。」
ねえ見て、これ。彼女は窓を指さす。雲が下にあった。そのまた下には海がある。空はあおい。
「綺麗と思わない?雲の王国みたい。」
「思うけど今は眠いんだよ。」
「ちいさいころね、ちょうどこんな時期に両親とディズニーランドに行ったの。でね、やっぱり飛行機に乗って、この景色を見て、写真撮ったの。そっかあの時は普通はインスタントカメラだったよね。今はもう無理なんだね。」
彼女は僕を見ているようで見ていなかった。今彼女の網膜には、記憶の中の青い海と、その景色を見てはしゃぐまだ幼かった頃の自分が映っているはずだ。
「そうだね、でも今は僕は眠いんだ。」
僕はとうとう彼女を突き放した。飛行機は無遠慮に体をゆすり不快な音を耳に注いでくる。窓の外の景色に僕はなんの感情も抱かない。僕等はいつか別れるだろうなとなんとなく思う。彼女は一心不乱に雲を眺めている。僕は目をつむりイヤホンを耳に挿した。