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第41話 レイジアゲインストバッドスシ④

前回のあらすじ:

審査員の松風先輩のお父さんの身に何かが起きた。


◆◆◆


 咳き込む声が止まったと思ったら、ドタドタと階段から誰かが降りてくる音が聞こえてくる。


「だ、誰だ!? 巧妙にワサビを大量に仕込んだ寿司を握った奴は!?」


 右腕を包帯で固定した壮年の男性、いかにも寿司職人といった風貌……この人が松風先輩のお父さんか。それよりなんか鳥路さんの寿司が大きかったのはワサビを仕込んでいたからか……いつの間に……


「こ、こいつです! 俺じゃねえっすよ親方!」


 三下が鳥路さんを指差す。本人を前にすると元を付けないんだなこの人。

 

「良かった。舌がおかしくなった親方はいなかったのね」


 鳥路さんは悪びれる様子もなく、むしろ松風先輩のお父さんを逆撫でするように雑な拍手を返す。


「どう言うつもりだ? いや、君が琴音の言っていた友人か……随分な挨拶をしてくれる」


 怪我はしていても有名寿司店の親方としての威厳は衰えておらずスシバトルで浮かれていた空間が一瞬でひりつくような空気に変化した。


「娘の寿司の味も見極められなかった愚かな父親がどんな面かと思っていたけど……腐っていない事はわかった」


「鳥路さん! 何を考えてるの!? 勝負を捨ててまで父をこの場に呼び出すのが目的だったんですか!? 三下に何をされるかわからないんですよ!」


 松風先輩が少し大きな声で鳥路さんの行動を咎める。そうだ。劇物寿司を作った鳥路さんは最初からこのスシバトルを捨てていたということ。そこまでして松風先輩のお父さんの顔を見たかったのか? そんなはずはないだろう。


「……ところで、AとBのどちらの寿司にふざけた量のワサビが入っていたの?」


 鳥路さんが松風先輩のお父さんに確認をする。そりゃ鳥路さんの寿司はBだから……


「Aの寿司だが……それがどうかしたのか? まだBの寿司は食べてすらいないよ」


「え? そっちは三下さんの寿司のはずですよ?」


 咄嗟に矛盾を口に出してしまった。俺の一言で周囲が騒つく。


「親方の寿司はAだよな? でも大量のワサビを仕込んだのは寿司警察の嬢ちゃんだろ? だったらワサビ寿司はBのはず……」


「じゃあワサビを仕込んだのは親方? でも自白したのは寿司警察の方でしょ? どうなっているの?」


 ギャラリーの中で今起こっている状況の整理が始まる。

 いつも通り落ち着いた様子の鳥路さんに対し、三下は冷や汗を流してそうなぐらいに動揺している。まさか……


「すり替えたんでしょうね。AとBを。そしてこれが三下が松風先輩に勝った方法」

 

 鳥路さんが松風鮨で起きた全ての事象に対して辻褄の合う答えを口にした。

 そ、そんな原始的な方法で……


「そ、そんな、まさかヤスさんが?」


 松風先輩が信じらないといった感じでお父さんの隣に立つヤスを見る。


「や、ヤスゥ! 神聖なスシバトルに不正をするなんて何てことをしやがる!」


 三下がヤスの胸ぐらを掴む。それは無理があるだろ……


「そんな! あっしは兄貴が合図したから入れ替えただけですぜ!」


「馬鹿っ! お前は口を開くな!」


 ほら。


「スシバトルで完成品の捏造は御法度よ」


 司先生がスシバトルのルールについて補足してくれた。サブリナさんも完成した寿司は銃で撃ったりしなかったもんな……


「これはどういう事だ! 三下! ヤス!」


 松風先輩のお父さん……親方の怒りの矛先が三下達に向けられる。


「こ、これは何かの間違いでして、はい」


「お前達の味方はこの場に一人もいない。観念しろ親方……違うな、《《元》》親方、か」


 鳥路さんが三下達にトドメを刺す。相変わらずレスバというかこの手の喧嘩に強いな鳥路さん……


「くそっ! 将来的に女が上司になる寿司屋なんてこっちから願い下げだ! それにおっさんの腕がそんな調子じゃどうせ松風鮨は長くねぇ! あばよ!」


「あ、兄貴! 待ってくださいよぉ!」 


 捨て台詞を吐いて三下達が荒々しく店を出ていった。なんなんだあいつら……

 松風先輩がお店を継ぐことが気に入らなかっただけでこんなことを? 


「なんだよ、スシバトルは不発か」


「はーやめてほしいなぁ中途半端なことは! というか俺が食ってる寿司は不味い寿司ってことかよ! 金返してほしいぜ!」


「気分が悪いわ! お勘定!」


 ギャラリー達のこの反応は当然だ。インチキで勝った奴の寿司が松風鮨の寿司として出されていたのだから。


「お代は不要です。大変申し訳ありません」


 ギャラリー、お客さん達に頭を下げる親方。右腕の怪我もあって痛々しい姿だ。

 松風先輩も頭を下げているが、前掛けを握る手には力が入っている。こうなる事を一番避けたかったのは松風先輩だったはず……


 最終的にお店に残ったのは店員の人達と寿司同好会のメンバーだけ。

 気まずい空気が流れる。寿司を食べに来ただけなのに……どうしてこんな気持ちにならなきゃいけないんだ……

 鳥路さんはもしかして毎回こんな事をしているのか? 成金寿司の時はいい感じに収まったけど……あれはたまたまで、多くの場合はこんなことになってしまうのでは?


「……鳥路さん。これがあなたのやっている行い……スシバトルの結末よ」


 司先生が厳しめの口調で鳥路さんに語りかける。司先生がスシバトルを憎む理由……今なら理解できる。


「とりっじ? 大丈夫?」


 賀集さんが鳥路さんに声をかける。鳥路さんは今、どんな気持ちなのだろうか。


「……勝負はまだ付いていない。三下の代わりは誰? 他に松風鮨の代表は?」


 え? 鳥路さん?


「親方が握ってくれるの? 片手で? 私は片手でも握れるけど?」


 鳥路さん!?


「まだ私が松風鮨よりも美味い寿司を握れることを証明できていない。一度始まったスシバトルは終わらない。それとも勝負もせずに私の不戦勝で良い?」


「……どういうつもり鳥路さん。もう何もかも終わってるのよ。ふざけないで頂戴」


 鳥路さんの挑発に松風先輩が静かに怒る。いや、はっきりと怒っている!


「ふざけているのはあなただ。松風鮨の誇りとやらはその程度だったのか?」


「鳥路英莉!」


「覚悟を決めろ、松風鮨。いや、スシバトル部副部長、松風琴音!」


「……スシバトル続行よ。大トロの寿司、私が握ります!」


 松風先輩と鳥路さんのスシバトルが……再び始まる。始まってしまった……!

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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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