第40話 レイジアゲインストバッドスシ③
前回のあらすじ:
松風鮨の親方代理の三下と鳥路さんがスシバトルをすることになった。
◆◆◆
「ルールは簡単だ。元親方の松風誠司に俺とお前の握ったお題の寿司を食わせ美味いと評価された方の勝ちだ! 松風鮨よりも美味い寿司が握れると豪語するなら余裕だよな?」
「問題ない」
三下の説明したルールを即承諾する鳥路さん。審査員は松風先輩のお父さんか……大丈夫なのだろうか?
「ちょ、鳥路さん!? 父に審査員をさせるのはやめたほうが……」
「大丈夫」
「どこにそんな自信が……」
松風先輩の心配も跳ね除け説明されたルールでスシバトルをすることに。司先生も賀集さんも……当然俺もこの勝負を見守ることしかできないようだ。
「それで? 何を握れば良い?」
鳥路さんがお題を確認する。
「マグロ……いや、大トロだ!」
三下が指さしたショーケースの中には立派な大トロのサクが見える。いかにも高そうなネタ……寿司ネタの札はあるけど値段書いてないんだよなこのお店。時価ってやつ?
「わかった。審査員はどこに?」
「元親方なら二階の自室だ。腕の怪我だが無理に降りてきてもらう必要はねぇ。おい、ヤス!」
三下が呼びかけた店員がこっちに駆け寄る。
「へい、兄貴! 何でしょう?」
「これから俺とそこの嬢ちゃんでスシバトルをする。前と同じで作った寿司を元親方に届けて、AとBのどちらが美味かったかを書いたメモを貰ってきてくれ、サイン付きでな」
なるほど。匿名で食べてもらって公平に判断して貰うのか。これなら親子の関係とかを気にしないで平等に評価されるというわけか。
「承知しやした!」
ヤスと呼ばれた人、いかにも下っぱな感じなのだけど寿司職人っぽくもあるな……大丈夫かこの人に任せて?
「ヤスさん、よろしくお願いします。お忙しいのに……」
「いやぁお嬢! あっしは運ぶだけでさ! 気にしないでくれ!」
松風先輩が信頼できる人なら大丈夫か。
「俺がA、お前がBだ。では、大トロスシバトルを開始する!」
いきなり開始宣言をした三下はその場ですぐに調理を始める。鳥路さんはまだ客席側にいるのに!
「失礼」
鳥路さんは軽々とカウンターのショーケースを飛び越え板場に入る。その光景を見てギャラリーが少し湧く。相変わらずの身体能力。鳥路さんはそのまま……あぁ、ちゃんと手洗い消毒してから調理に入るようだ。
「おら! 大トロの握り完成だ!」
鳥路さんの方を見ていたら三下の寿司が出来上がっていた。Aと書かれた紙が貼られている皿の上に大トロが一貫置かれている。どうやって作ったか見てなかったけど、まぁいいか……誰も気にしてないし。
準備のできた鳥路さんがショーケースから大トロを取り出し、松風先輩の使っていた包丁で寿司ネタの大きさに切る。そして、いつもと変わらぬ感じで握る準備に入る。
「へ! 普通の高校生のガキが握れんのか? うちのお嬢さまは英才教育の末ようやくサマになったぐらいだぜ?」
鳥路さんは三下を無視して大トロを握り始める。昨日は見れなかったけど、いつ見ても鳥路さんが寿司を握る姿はサマになっていると思う。あと今になって松風先輩と握り方が違うことに気づいた。何だろう、鳥路さんの方が手数が多いのか?
「本手返し!? ど、どこでそんなの習ったんだ!?」
「動画」
「動画!?」
鳥路さんの握り方は本手返しって言うのか。じゃあ松風さんや三下の握り方は……
「それで小手返しじゃないのですね……うちも老舗ではありますが本手返しを使う職人は一人もいませんよ」
小手返し、つまり松風さんの握り方が主流なのか。確かに本手返しの方は手数が多そうだし、小手返しで十分握れるなら小手返しで良いやってなりそうだ。そう考えると本手返しで早く握れている鳥路さんはとんでもないことしてるのでは……そんなことを考えていたらとっくに鳥路さんは大トロの寿司を握り終え、Bの皿に大トロの寿司が置かれていた。
三下の寿司と比べるとやはり鳥路さんの寿司は形が綺麗……なんかちょっと大きい? 気のせい?
「あとは……よし。ヤス! 寿司を元親方に運んでくれ!」
「了解でさ!」
ヤスさんがAとBの皿を持って店の奥へ消えていった。その先に松風先輩のお父さんの部屋があるのだろう。
「多少腕は立つようだが……それだけで簡単に勝てるほどスシバトルは甘くねぇぜ」
ニヤリと笑う三下。どこにそんな自信が……でも松風先輩に勝っているのだから、あの寿司に何かしらの秘策が隠されているのかも? ちゃんと見ておけば良かった。
「知ってる。私は負けるかもしれない」
弱気な発言とは裏腹に表情を崩さない鳥路さん。
「へ、今更謝ったってもう遅いぜ!」
「……そちらが何もしなければ、ね」
「あ?」
その時、店の奥から何かが落ちたり割れたりする音、そして激しく咳き込む音が聞こえる。
「お、親方ぁ!?」
これはヤスさんの声! 松風先輩のお父さんの身に何が起きたんだ!?
「て、テメェ! 何をしやがった!?」
どうやら三下が何かやったわけではないらしい。じゃあ、これの犯人は……
「さぁ」
不敵に笑う鳥路さん。いや、本当に何をしたんだ鳥路さん!?
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




