第39話 レイジアゲインストバッドスシ②
前回のあらすじ:
鳥路さんがキレた。
◆◆◆
「な、なんだテメェ! 寿司が泣くわけねぇだろ!」
豹変した鳥路さんに怒りを露わにする三下。
「握りも酷いがその舐め腐った鯛を食わせておいてよくも親方を名乗れるな!?」
こうなった鳥路さんは止めることはできない。でも、松風先輩が握ってくれた鯛は美味しかったし、鳥路さんも美味しそうに食べていたはず……三下が握った鯛に何の問題が?
「……まさか!」
松風先輩が何かに気付いたのか、三下が使った鯛のサクを包丁で切り取り一口食べる。
「熟成されていない!? 三下! これはどういうことですか!?」
「熟成?」
「鯛は新鮮な状態より、水分を抜いた状態で丁寧に管理して二日か三日熟成させると美味しくなる。松風さんの鯛はその処理がされていたはずだけど……」
司先生が熟成について説明してくれた。松風先輩はショーケースじゃなくて個別に持ってきていた鯛を使っていた。つまり、熟成した鯛を別の場所から持ってきてくれていたのか。
「琴音さん。持ってきた鯛って……」
賀集さんが松風先輩の持ってきた鯛について確認を取る。
「お出した鯛は私が個人で管理していた鯛です。しかし、お客様に出す鯛も熟成されたものを出す決まりのはず! 三下! 説明してください!」
鳥路さんはまさかこの事を知っていて三下に敢えて鯛を握らせたのか! ショーケースを単に眺めていただけじゃなかったんだ!
「ここでは俺が親方なんだよなぁ! 熟成なんて非効率な下処理なんかしなくても俺が握れば客は松風鮨は美味い美味いって食べるんだよ!」
「なんてことを……! 松風鮨の歴史を壊すつもりですか!?」
「おいおい、忘れたのかお嬢さま。あんたの拘った歴史ある寿司より元親方は俺の寿司を選んだんだぜぇ!?」
「くっ……! 父は……やはり父は舌まで失っている!」
松風先輩と三下がスシバトルをして三下が勝ったとかそんな感じか?
いや、松風先輩が負けるわけないだろ。俺でもわかるぐらいの力量差があるんだぞ? 鳥路さんがキレるぐらいだし……やはり松風先輩とお父さんの確執はここにありそうだ。
「……」
鳥路さんの無言の圧は三下に向けられてはいるが、隣にいる俺や賀集さんにも感じられるほどの怒りである。
「あん? 何だその目は? お客様は大人しく座って寿司を食べてりゃ良いんだよ」
「この程度の寿司で親方を名乗る松風鮨に未来は無い。私がここで介錯してやる」
周囲のお客さん達も騒ぎに気づいてこちらの様子を伺っている。
「は! 客の癖にこの俺とスシバトルしてぇってのか!? お嬢さまに勝った男だぞ俺は! それでもやるってのか!?」
「私も勝っている。つべこべ言わずルールを決めろ」
やはりこうなったか。
「スシバトルだ!」
「ま、松風鮨でスシバトル!? すげぇタイミングだ! これは特上寿司以上の価値があるぜ!」
「親方と誰がやるんだ!? あ、あの女の子はまさか!?」
「寿司警察! 寿司警察ちゃんよ! あの子! 私は詳しいの!」
「あれが噂の……どうなるんだこのスシバトル!?」
場所が場所なので盛り上がりも凄い。高級寿司屋なのに。それより寿司警察って……いつの間にそんな呼ばれ方をされるようになっていたんだ鳥路さん。
「と、とりっじ、寿司警察って名乗ってたの?」
賀集さんが寿司警察について聞いてくれた。
「名乗ってない」
より一層不機嫌そうに答える鳥路さん。勝手にそう呼ばれているだけらしい。
しかし、誰が言ったかは知らないけど、しっくりくる称号である。
「まさか寿司警察がこんなガキだったとはな……ふ、ここで俺が勝てば松風鮨はさらに知名度を上げられるぜ。良いだろう、スシバトルだ!」
ギャラリーが盛り上がる。始まってしまった。スシバトルが。
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




