第37話 フェイクスシバトラー⑥
前回のあらすじ:
勝つのは鳥路さんか松風先輩か。
◆◆◆
「準備はよろしくて? それでは! 一斉にオープン!」
金星さんの合図で審査員が回答札を掲げる。俺が手に取った回答札は……!
「うおおおお! 二対二で同点だああああ!」
「いやちょっと待って! 五人の審査員だろ!? 誰だよ一斉にオープンしなかったやつ!」
「おい! 金星のお嬢が札を上げてないぞ!?」
審査員の回答札を見てギャラリーが困惑する。俺が手にしているのは鳥路さんの名前の書かれた回答札。金星さん次第だが俺が鳥路さんを選んでなかったらこの時点で決着がついていた……
「金星さん! なぜ回答札を上げないのですか!?」
「公平なジャッジではないわ!」
「松風鮨の勝利は確定しているのですから、これは演出、演出ですよ皆様! その証拠に金星さんは既に回答札を握られていらっしゃる!」
確かに金星さんは右手に回答札を握った状態だ。なぜこんなことを……
「……山本葵さん。あなたは今寿司同好会のメンバーとして審査員席に座り、鳥路さん、つまり寿司同好会の票を取った。その理由を答えて頂きますわ」
金星さんは俺が手にした回答札の是非を問おうとしているのか。
「どうせ仲間だから票を入れたに違いない!」
「神聖なスシバトルに私情を持ち込むな! 恥を知れ!」
ギャラリーが俺を非難し始める。賀集さん、司先生、そして鳥路さんが俺のことを心配するような目で見ている。
「お静かに。私は今、山本さんにお話を聞いているのです」
金星さんの一声でピタリとギャラリーが静まる。この人は色々と底が見えてこないな……
「さぁ、山本さん! お答えください! 貴方の言葉一つで私の握っている札が変わるかも知れませんことよ?」
その握られた札がどちらか……俺には分からない。どちらにせよ俺にできることを理由を答えることだけだ。
「確かに、松風先輩用意したツメの方が鳥路さんのツメよりも美味しかったと思います。ツメなしのお寿司も素晴らしかった」
「そうでしょう! では松風先輩の勝ちで、グエッ!?」
松風鮨推しの審査員がテーブルに突っ伏す。金星さんのメイドさんの手刀が決まったらしい……怖い!
「続けなさい、山本さん」
金星さんが俺の言葉の続きを求める。
「……ですが、今回はシャコの寿司の対決。鳥路さんの方がシャコを活かしていたというか、全体的にシャコを味わえた感じがしました! それにシャコの爪の軍艦は見た目こそ美しいものではありませんが、味は普通の握りにも劣らない、むしろ超えているところさえありました! それが、俺が鳥路さんを選んだ理由です」
静かなままの家庭科室。廊下の方まで静かな状態だ。俺は、間違ったことを言ってしまったのだろうか。金星さんはどう思っているんだ?
「なるほど。まずは試すような真似をしてしまったことを謝ります、ごめんなさい」
金星さんは回答札を握ったまま、俺の方に体を向けエレガントな感じのお辞儀で謝罪をしてくれた。
「……そして、これが私の答えですわ」
金星さんの回答札が掲げられる。
そこに書かれた名前は……鳥路さん!
「と、鳥路さんの勝ちだ!」
「うおおおお! 松風先輩に勝ちやがった!」
「松風鮨が負けた!?」
「スシバトル部のしかも副部長に勝つなんて一体何者なんだ!?」
学校中のギャラリー達から様々な感情が飛び出し、何を言っているのか聞き取るのもやっとなぐらいの盛り上がり。
これでひとまず鳥路さんが寿司同好会を辞めさせられるといった事態は避けられそうだ。逆に松風先輩は……
「……鳥路さん! 二種類の寿司という提案は初めから罠だったと言うことね!? 私のわずかな慢心……準備不足を見破り、シャコの爪の軍艦でツメの差を埋めた! そうでしょう!?」
松風先輩は右手の拳をテーブルに叩きつけ鳥路さんを睨む。悔しいのはわかるけど……今の松風先輩に初めて会った時のような余裕や穏やかさは感じられない。単に勝負に負けただけでこんな顔はできないと思う。何が松風先輩をここまでさせているのか……
「違う」
「はぁ!?」
鳥路さんのシンプルな否定に松風先輩は怒りと困惑が混ざったような表情を見せる。
「私はどちらの寿司も美味しいから一つに選ぶのを悩んでいただけ。それなら二種類とも食べて貰えれば良いと思って提案した」
「なっ……!」
鳥路さんは表情を崩さす、あくまで冷静に言葉を紡いでいく。
「松風先輩が藻塩のシャコを握った瞬間、私は勝ちを確信した。美味しいとは思うけど、なぜシャコの寿司にツメを使うのか……その点を軽んじていたから」
確かにシャコの寿司はツメと相性が良い。ツメがない状態だと……少し淡白なエビといった感じになってしまうだろう。きっと醤油で味を付けてもそこは大きく変わらないと思う。穴子も同じような理由でツメを塗られているわけだし、シャコのツメにも先人の知恵みたいなものがあるという事だろうか。
「穴子の煮汁を利用したツメは確かに美味しい。でも、それがシャコにとって最適かと言われるとそうではない。ツメとしての美味さが逆にシャコの繊細な風味を失うこともある。だったら、シャコだけで作ったツメなら、味を豊かにしつつシャコの風味を活かせるはず」
「くっ……そこまで考えていたなんて……」
「……松風先輩がスシバトラーなら、そこまでやっていたはず」
「どういう意味?」
松風先輩はスシバトラーじゃない? スシバトル部なのに?
「松風先輩は松風鮨の味に誇りを持っている。だから松風鮨のツメで勝負をした……あなたはスシバトラーじゃない、寿司職人だ」
鳥路さんの言葉で松風先輩の握られていた拳にさらに力が込められた。
しかし時間と共にその拳はゆっくりと開かれていく。
「……私の負けよ。何でも言いなさい」
松風先輩から溢れていた負のオーラが少し弱まったように感じる。それでも松風先輩の顔からは未練や後悔といった感情が残っているようにも思えた。
「とりっじ! やったね! おめでとー!」
「鳥路さん! わかってるわね!?」
賀集さんの祝福と司先生の念押しが聞こえる。スシバトルの敗者は勝者の言うことを何でも聞く。副部長の松風先輩にスシバトル部を辞めるように命令すれば、スシバトル部は弱体化するはずだ。司先生の狙いはそれだろう。
鳥路さんの次の発言をギャラリーや俺達は固唾を呑んで見守る。
……鳥路さんがゆっくりと口を開く!
「松風鮨のお寿司が食べたい。寿司同好会のみんなで」
「……え?」
松風先輩が想定外の言葉を受けてキョトンとする。
「とりっじ!?」
「鳥路さん!?」
賀集さんと司先生も驚いている。俺は……正直こうなると思っていた部分がある。だって鳥路さん、すげぇ松風先輩の寿司食べたそうに見てたもん……
鳥路さんのまさかの要求にギャラリーも困惑した感じで騒つく。
そんな中で金星さんだけが腹を抱えて笑っていた……
◇◇◇
フェイクスシバトラー おわり
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




