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第36話 フェイクスシバトラー⑤

前回のあらすじ:

松風先輩の寿司は予想通りの高評価。果たして鳥路さんの寿司はその評価を超えることができるのか……!


◆◆◆


「普通の握りは見事な寿司だけど……軍艦の方は何だこれ? どこの部位を集めたんだ?」


「とりあえず普通の方を食べるわ!」


「見た目が美しくないから減点! 減点ですよこれは!」


 鳥路さんの二種類のシャコの寿司。審査員の人達は普通の形をまず食べるようだ。俺としては軍艦の方が気になるけど……空気を読んでおこう。ツメありは先程松風先輩の寿司を食べたばかりなので比較はしやすいかもしれないし、皆その辺りの事を考えているのだろう


 鳥路さんのツメありのシャコを食べる。赤酢のシャリとシャコの身の風味が口の中に広がり、そこから甘辛いツメが全てを……いや、違う! このツメからシャコを感じる! シャコとシャコで合わせてるんだから当然相性は良い! ツメの強い味わいはあくまでシャコ! 決してシャコの風味を殺さずにツメありのシャコを完成させている! 


「美味い! 松風先輩のシャコとは少し違う美味さだ!」


 俺のコメントを聞いてギャラリーが盛り上がってくる。対等な勝負になるという期待感が彼らをそうさせているのだろう。


「口の中がシャコになるわ!」


「松風鮨よりもシャコを感じる!」


「し、しかしねぇ、ツメの美味さは松風鮨の方が上なのだから……複雑な味わいはこちらの寿司には感じられないよ!」


 審査員が次々に味の感想を述べていく。さっきから一人やたらと松風鮨派の人がいるのは気になるが……不味いと言っていないだけマシか。


「なるほど。シャコだけで煮汁を作ったのですわね? シャコ用に特化したツメ……お見事ですわ」


 金星さんのコメントで今までにないぐらいギャラリーが湧く。鳥路さんと松風先輩の寿司は互角なのか!?


「……ですが、ツメの完成度はやはり松風鮨が上。これもまた事実ですわね」


 それは……そうだ。金星さんの言う通り松風鮨のツメの方がツメとしての完成度は上。あの熟成された味わいは鳥路さんのものにはなかった。徹夜で仕込んだだけでは、五十年は越えられないと言うのか……!


「さて、皆様も気になっているでしょう! 軍艦巻の方を頂きますわよ!」


 金星さんが軍艦巻をドローンのカメラに近づけて宣言する。


「変な寿司だけど、結局ツメの味の寿司だろ? そんなに変わらないんじゃ……」


「シャコがグロテスクな見た目してるから、よく分からない部位って怖いわねぇ……」


「ははは! これは! もう! 消化試合! 消化試合ですよ! まぁ、しっかり審査しますけどねぇ!」


 審査員の人達が一斉に軍艦巻を口に入れる。俺もワンテンポ遅れ軍艦巻を口にする。


 口に入れた瞬間に感じるのは海苔の風味、シャリ、そしてシャコで作られたツメ……問題は味と食感。鳥路さんを信じるしかない。

 謎の部位を噛み締めると……弾力がある! 先程までのシャコの寿司の比ではない! そこから溢れてくるシャコの旨味は風味も豊かで甘みも強い! まるでシャコパンチで殴られたかのような衝撃が俺の全身に走る! 今食べてるシャコはパンチしないんだっけ……? それより!


「う、美味い! 何だこれ!」

 

 語彙力の死んだ感想が俺の口から飛び出す。


「シャコの味が濃いわ! 海苔に負けてない! ツメもシャコだから!?」


「見た目はあれだけど、美味いぞこれ!?」


「な!? こ、こんなのスシバトルガイドブックに載ってなかったぞ!?」


 大盛り上がりのギャラリー! 松風先輩がわずかに表情を崩す!

 鳥路さんは……余った材料で自分用に普通のシャコの寿司を握って食べている! 自由だな!?


「シャコの《《爪》》ですわね……! 一匹のシャコから二つしか取れない希少な部位。大量にシャコを仕入れないと中々お店に出ることがない代物……! やってくれましたわね! 鳥路さん!」


 シャコのツメ……いや爪か! あれで獲物を捉えてるんだから筋肉も他の部位より発達しているはずだ。蟹の爪が美味しようにシャコの爪も美味い! 部位は小さいけど甲殻類の味の法則は変わらない! 鳥路さんはそれを知っていたのか!


「……お題がシャコの寿司なんだから全部味わって欲しかった」


 鳥路さんは食べていた寿司を飲み込んで説明を加える。

 ギャラリーがもはや狂喜乱舞してそうなぐらいに興奮している。この流れ……勝てるんじゃないか!?


「全ての寿司を食べ終わりましたわ! これより、審査員による投票を行いますわー! お手元にある名前の書いた回答札のどちらか一方を私の合図の後、同時に掲げてくださいまし!」


 金星さんの言う通り、いつの間にか手元に鳥路さんと松風先輩の名前の書かれていた回答札が置かれていた。さっきのメイドさんが置いてったのかな……

 俺を含め他の審査員もどちらの札を手に取るか悩んでいる様子。味で評価するだけで良いのか? それとも……


「審査員の方々、どちらの寿司が良かったか決まりましたわね?」

 

 勝つためなら鳥路さん一択。でも、忖度するなと鳥路さんには言われている。

 俺が選ばなければいけないのは美味い寿司……必要なのは勝者を選んだ正当な理由! 俺は覚悟を決めて回答札の一つを手に握る!


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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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