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第35話 フェイクスシバトラー④

前回のあらすじ:

鳥路さんがシャコのよくわからない部位で軍艦巻を作った。

シャコ対決はついに実食へ。


◆◆◆


「ツメなしの寿司があるお姉様の方から実食させて頂きますわ! お姉様よろしくお願い致しますわー!」


 金星さんの指示を受けて、松風先輩が審査員の前に二種類のシャコの握りを並べていく。一つはツメの塗られていないもの、もう一つは松風鮨の歴史の詰まったツメが塗られたもの……


「どちらも醤油を付けずにどうぞ」


 松風先輩が食べ方について教えてくれた。ツメなしもそのまま? 何にせよ、金星さんの配慮とセオリーに従いツメなしから頂くのがベストだろう。皆そうしてるし。

 

 ツメなしのシャコの握り……まろやかな塩の旨味、そしてシャコが持っている上品な甲殻類の味が口の中に広がる。赤酢のシャリの程よい酸味が上手く寿司全体をまとめてくれて、シャコの卵の食感と味わいも独特で美味い。


「ツメなしでもシャコはこんなに美味いのか!?」


「これが松風鮨の味!」


「これはもう優勝で良いでしょう!」


 他の審査員の人達も絶賛している。これが……松風先輩の寿司!


「藻塩でシンプルに頂くシャコも良いですわね」


「瑠璃子さんは流石の味覚ですね」

 

 金星さんが塩の種類を言い当て、松風先輩が少し嬉しそうに肯定した。

 この豊かな塩味は藻塩なのか。しょっぱさより旨味が強い塩……でもシャコの味を邪魔しないと言う点でシャコの寿司の一つの正解な気がしてきた。

 ……鳥路さんが食べたそうにこっちを見ている。勝負中ですよ?

 審査員の人達は続けてツメ有りの方に手を伸ばしていく。五十年の味はどれだけの力を持っているのか。


「では続けてツメ有りを……んん!? うっま!?」


「塩でも美味しかったのに! ツメだともう、ワンランク上のお寿司になったわ!」


「優勝! 優勝ですよこれは! 松風鮨の歴史の味がしますな!」


 ……俺もツメありを食べよう。

 ガツンとツメの凝縮された旨味が口を包み込む。少し淡白なシャコの身を補うように凝縮された出汁の風味が甘辛さの中から溢れ、寿司としての完成度を底上げしている。このツメとシャコの卵がほどよく絡み、食感、味、全てにおいて俺の口を楽しませてくれる。


「う、美味い!」


 頭の中で並べた御託よりもシンプルかつ強い賞賛の声を先に上げてしまった。


「流石は琴音お姉様、美味しいですわ」


 最後に出た金星さんのコメントを聞いてギャラリーが盛り上がる。

 ……鳥路さんが恨めしそうにこっちを見ている。後で松風先輩に握って貰ったらどうです?


「審査員全員骨抜きじゃねぇか!」


「これが本物のスシバトル! 見てるだけで腹が減っちまうよ!」


「こんな凄い寿司を越えられるの!?」


 色々な声が家庭科室やら廊下の方から聞こえてくる。確かに勝負の流れとしてはよろしくない。鳥路さんはそんなことよりその寿司を食わせろと言ってそうな顔なので、周囲の評価は気にしてなさそうだけども……


「では一度舌をリセットしつつ、鳥路さんのお寿司を頂きましょう!」

 

 金星さんが手を叩くと、洋風のメイド服の女性が金星さんの背後に現れ、颯爽と審査員の前にお茶の入った湯呑みを置いていく。誰? 気付いたらもういないし。どこから出てきたの!? 怖いんですけど!?

 と、とにかく、お茶を飲んで舌を初期化しよう。程良い温度の煎茶は口の中を綺麗に洗い流してくれた。


「鳥路さん、お願い致しますわ!」 


 金星さんの指示で鳥路さんが審査員の前に二種類の寿司を並べていく。

 一つは普通のシャコの握り、もう一つは……軍艦巻だけど、何だこれ? 近くで見てわかったけど破片とかじゃなくてある程度同じ形をしている。確かにこれは軍艦じゃないと無理だ。とりあえず、こっちは後にしよう……


 鳥路さんのツメは松風鮨のツメと渡り合えるのか……答え合わせの時間だ……!

感想・評価をいただけると、執筆の励みになります。


◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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