第34話 フェイクスシバトラー③
前回のあらすじ:
鳥路さんの提案で二種類のシャコの握りで勝負することに。
ツメ無しの寿司で勝負を仕掛けてきたと松風先輩も考えていたけど、どうやら違うらしい。
◆◆◆
勝負が始まると二人ともほぼ同じような動作でシャコを茹で始める。その待ち時間で事前に炊いてあったご飯を木桶に移して調味料を合わせてシャリを作っていく。
五分経過したぐらいで先に松風先輩がシャコをお湯から引き上げる。そこから少し遅れて鳥路さんも取り出す。この時点で差が生まれてしまったか……ん?
「鳥路さん、茹でてるシャコの量多くない?」
「そのために調整した感じですか、良い勘をしてますわね」
反対側に座る金星さんが俺の呟きを拾う。松風先輩は十匹程度なのに対し、鳥路さんは……三十匹ぐらいは茹でてるぞ。
「剥き方に自信がないから保険で多く茹でているのでしょう!」
「きっちり総定数で抑える松風先輩の技術力との差が見えますね!」
「これは良くない! 減点! 減点ですよ!」
審査員の人達が好き勝手に言ってるが恐らくそうじゃない。鳥路さんは短期間でシャコの剥き方をマスターしていた。保険のために茹ですぎることなんてしなくて良いはず。
そんな事を考えている内に松風先輩は熱いはずのシャコに怯む事なく素早く綺麗に剥いていく。結構手順が複雑で難しそうだったのに、面白いぐらい剥き身が並んでいく。鳥路さんも剥きの作業に入っていくが、松風先輩と変わらない精度で剥き身を並べていっている。ただ、数が多いので松風先輩に追いつきそうにはない。今回はクイックショットバトルではないので問題ではないのだけれども。
松風先輩が握りの準備に入る。シャリは自分で用意したものかな……
「ちょっとシャリに色がついてるような……?」
「松風鮨では赤酢を使ってますのよ。普通の白いお酢よりまろやかで香り高い、シャコのような繊細な旨味のネタにはピッタリですのよ」
「な、なるほど」
再び金星さんが解説してくれた。スシバトルをエンタメとして成立させるために本気で勉強している感じなんだな……
そうなると鳥路さんのシャリの色が気になるが、まだ剥いてる最中だ。というか頭の方を持ってるけど、そこって使わない部位じゃ……
突然ギャラリーが盛り上がり、松風先輩の方に目線が動く。
俺が見たのは……鳥路さんと同じように、無駄を省いた舞のように素早く寿司を握る松風先輩の姿だった。鳥路さんと同等、いや、それ以上の握りの技術にも感じられる。勝つと宣言するだけの実力が松風先輩にはあったのだと認識を改めた。
あっという間に十貫のシャコの握りが完成すると、松風先輩は古めかしい壺を取り出した。
「あれが松風鮨五十年のツメ!」
「正確にはお姉様が育てているツメですわね」
なるほど。自宅のものではあるけど、あくまで松風先輩のツメではあるのか。
松風先輩は刷毛で五貫分の握りにツメをサッと塗り終える。塗りムラや塗り残しはなく、熟練の技や感覚が染み付いているようだ。強い。これがスシバトル部副部長の実力……!
今度は鳥路さんの方でギャラリーが騒ついている。なんだなんだ?
俺が松風先輩の方を見ている間に鳥路さんも五貫のシャコの握りを完成させていた。くそ、見逃した。でも、まだ五貫作るからこれから……
「え!?」
鳥路さんはシャリ玉を五個手早く用意すると、取り出したのは……海苔!?
「ぐ、軍艦巻!?」
鳥路さんは綺麗に五個のシャリ玉に海苔を巻き終える。そして、シャコの破片のようなもの……いや、なんだこれ。破片にしてはしっかりとした形だし、胴体とは違うよな? とにかくよくわからないものをシャリが隠れるぐらいに乗せる。
「軍艦巻なんて寿司が握れないニュービーの仕事ですよ! これは、勝負が決まったのでは!?」
「でも、五貫分は普通に握られていました! それにあんなバラバラしたものは軍艦でしか纏まりませんよ!」
「と、とにかく、軍艦巻なんてスシバトルに不適切ですよ! 全く! 神聖なスシバトルが穢される!」
最後の審査員の言葉が鳥路さんの耳に入ったのか、鳥路さんはすごい目つきでその審査員を睨みつける。
「ひいっ!?」
あの圧をまともに喰らえばそんな反応にもなる。
「寿司ネタに貴賤なし、だよね?」
鳥路さんは肯定するように頷き作業に戻った。
鳥路さんが適当な寿司を作るはずがない。あの軍艦巻きは……何か秘密が隠されている!
鳥路さんが新しめの壺を取り出し、刷毛を使ってその中身、鳥路さんの作ったシャコのツメをシャコの握りと軍艦巻きに塗る。手早くかつ正確な動作は松風先輩にも負けていない。
「軍艦で驚きましたが……鳥路さんも赤シャリのようですわね」
金星さんの言う通り鳥路さんの握りをよく見るとほんのり赤みがかった赤シャリのようだ。鳥路さんもシャコには赤シャリが正解であると辿り着いていたんだ! やはり鳥路さんは凄い!
「両者完成しましたわね! それではこれより双方の寿司の審査に入りますわ!」
鳥路さんと松風先輩の寿司が完成した。
松風先輩はツメの有無で色合いの異なる二種のシャコの握り。
鳥路さんはどちらもツメを使っているが、片方は謎の部位の軍艦巻。
見ただけでは優劣はつけられない。勝敗を分けるのは味!
ここからが勝負の本番だ。俺も気合を入れなければ……!
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




