第33話 フェイクスシバトラー②
前回のあらすじ:
鳥路さんが徹夜してシャコのツメを作った。
◆◆◆
HRが終わり放課後になった瞬間、寿司同好会のメンバー以外のクラスメイト達が家庭科室に向かって猛ダッシュを決めた。呆気に取られる司先生から何とも言えぬ悲壮感を感じる。
「……さて、ついに初陣よ。鳥路さん、準備は良い?」
「いつでも行けます」
先生の確認に対しいつもの調子で答える鳥路さん。なんとか体力回復させることに成功した。後日授業ノートは共有してあげるとして……これで本番はフラフラという最悪の事態を回避することができた。
「あ! 審査員ってうちらの誰がやるの?」
賀集さんが審査員の話を思い出してくれた。忘れてた。
「山本くん、よろしく」
「え!?」
鳥路さんが俺を指名した。なぜ俺!?
「じゃあ、山ちゃんお願い!」
「頼んだわよ」
賀集さんと司先生もその流れに乗るの!?
「審査員って……寿司同好会に票を入れるだけの役ですよね? 向こうも金星さんがやるみたいだし……痛っ!?」
鳥路さんが俺にデコピンした!? 痛いし速いし何!?
「忖度無し。山本くんが正しいと思う寿司を選んで」
それだけ言って鳥路さんは教室を出ていく。
勝敗以上に鳥路さんは真剣勝負を望んでいるんだな……
「私達も行きましょう」
「家庭科室すんなり入れるかなぁ」
司先生と賀集さんも鳥路さんを追うように歩き始める。俺も置いてかれないように二人の後に付いて行く。
審査員……責任重大だな。
◇◇◇
家庭科室は生徒でごった返していたが、教職員用の大きなテーブルと恐らく勝負するための二つのテーブルは聖域のように人避けがされている。大きなテーブルには既に三人の生徒が座っており、審査員として選ばれた人だと察することができた。
勝負用のテーブルには既に鳥路さんと松風先輩が向かい合うようにそれぞれのテーブルで待機している。お互い精神統一のように目を瞑っており、バチバチ感は無い。
「寿司同好会の審査員は誰ですのー?」
「あ、俺です!」
マイクを持った金星さんに呼ばれ、慌てて俺も審査員席に座る。一番端っこ、鳥路さん側の席だ。
「こんな凄そうなスシバトルの審査員なんて光栄だよ!」
「私、ドキドキしてきちゃった!」
「松風先輩が有利なお題ですが鳥路さんがどこまで意地を見せるか見ものですねぇ!」
他の審査員は学年も所属もバラバラな雰囲気だけど、なんで当たり前のようにスシバトルに詳しいのだろう……
「それではこれより、スシバトル部所属の松風琴音お姉様と寿司同好会所属の鳥路英莉さんのスシバトルを始めますわー!」
金星さんの司会に湧き上がるギャラリーの皆様。なんか、廊下の方からも聞こえてきたぞ……
「勝負の様子は中継されていますので家庭科室に入れなかった方も校内に貼られたQRコードからライブ映像をお楽しみくださいませー!」
この狭い空間で器用に撮影用のドローンが飛び回っている。誰が操作しているかわからないけど、すごい事をしていると思う。
「勝負は事前にお伝えしたとおり、お二人にはシャコのお寿司を握って頂きますわ! そして私を含む五人の審査員による投票で勝敗を決めますわ! ここまでよろしくって?」
鳥路さんがスッと挙手する。
「鳥路さん? どうぞ」
「二種類握りたいのだけど問題はない? ルールで指定されてないけど一応」
騒つくギャラリー。俺もてっきり一種類で勝負するものだと思っていた。
「確かにそうですが……琴音お姉様はいかがですか?」
「構いません。私も二種類のシャコの寿司を握りましょう」
大いに盛り上がるギャラリー!
「突然の提案にも柔軟に対応! これが松風鮨の娘さんの胆力!」
「これは加点要素かもしれないぞ!」
審査員でも無い人達からそんな声が聞こえてくる。
「……そちらがツメなしの握りでも勝負をしようという考えは想定していました。残念でしたね、鳥路さん」
松風先輩が不敵に笑う。お、お見通しだったということか! そして鳥路さんが二種類握ると言ったのはそういう意味だったのか! これは……あまり有利な展開は望めそうにないぞ、鳥路さん!
「え?」
「ん?」
鳥路さん動じない! いや、むしろ松風先輩の看破が失敗しているレベルの反応!
と、鳥路さんは一体何を握るつもりなんだ!?
「まぁ、お姉様がOKならOKで! それでは! シャコスシバトル! 始め!!」
金星さんのやや適当な合図でスシバトルが始まってしまった。
鳥路さんのアドリブに司先生と賀集さんも肝を冷やしたような顔をしている。
始まってしまったスシバトルはもう止まらない。あとは二人の完成を見守り、俺は正しく寿司を審査するだけだ……!
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◇◇◇
こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




