第32話 フェイクスシバトラー①
スシバトル部とのシャコ対決当日の朝。スシバトルの相手は松風鮨の大将の娘である松風琴音先輩。松風先輩が恐らく持ち出すであろう五十年の歴史を持ったツメ(穴子に塗られてる甘辛タレ)に対し、鳥路さんが用意するのはシャコの頭や殻を使ったツメ。まだどんなツメになるかはわかっていないけど……鳥路さんならきっとなんとかしてくれるだろう。
勝負は放課後。それまではいつも通りの学校だけど、正直授業に集中できるかとても怪しい。もし鳥路さんが負けてしまったら恐らくスシバトルの勝者の《《ならわし》》で鳥路さんはスシバトル部に強制入部させられてしまうだろう。緊張と不安はあるけれど、俺にできることはほとんど無い。何かしてあげられないだろうか……
「あ、あー! テストテスト! 本日の放課後、家庭科室でスシバトルを行いますわー! 三年生の松風琴音お姉様と二年生の鳥路英莉さんとの対決でしてよ! お時間のある方は是非お越しになってくださいましー! 以上、ごきげんよう!」
教室のスピーカーから金星さんの声。放送部でもないのに朝から何やってんだ……いや、告知は大事だけれども。
「スシバトルだ!」
「放課後家庭科室ね! もう待ちきれないわ!」
「松風先輩と鳥路さんの対決!? 今から家庭科室の席取りした方が良いんじゃないか!?」
さっきまで静かだったクラス……いや学校全体が盛り上がり、喧騒な空間に変化した。このスシバトルの熱は恐らく金星さんの仕業なのだろう。どうやったか気になるけど、お金の力が大いに関係ありそうだ。
「おはよう山ちゃん!」
「……おはよ」
元気な挨拶の賀集さんに対し、ちょっと覇気のない声色の鳥路さん。
「おはよう賀集さん、鳥路さ……鳥路さん!?」
二人の方を見ると、目にくまを作ってふらふらの鳥路さんを賀集さんが支えて歩いていた。それを見て俺は思わず席から立ち上がってしまう。
「何があったの!?」
「登校中に一緒になったんだけど……とりっじ、ツメを作るのに徹夜したみたい。お鍋持ってふらついてたからビックリしちゃったよ! あ、鍋は司先生に預かってもらったから大丈夫!」
鳥路さんを支えている方の反対の手でピースをする賀集さん。笑顔が眩しい。
「それは安心だけど……勝負は今日の放課後だよ!? 大丈夫なの鳥路さん!?」
「ツメは大丈夫……時間の中でベストは尽くした」
サムズアップする鳥路さん。俺が心配しているのは体調なんだけど……
賀集さんが鳥路さんを席に座らせると鳥路さんは机に突っ伏して寝てしまった。
「山ちゃん、とりっじをよろしくね! 頑張ったみたいだし……できるだけ休ませてあげて!」
「わ、わかった」
俺の返事を笑顔で返してから賀集さんは自分の席へと向かう。
……寝息を立てる鳥路さん。今はゆっくり寝かせてあげよう。
俺にできる事が見つかった。今日の授業のノートをしっかり取り、鳥路さんの学校生活をサポートしてあげよう。勝負の時には何もできないんだ、これぐらいはやってあげなきゃ。大事な友達だしね。
授業が始まると鳥路さんは起きてくれたけど、案の定船を漕ぎながらノートにミミズを走らせていた。普段の綺麗な字とのギャップでどれだけ眠いのかが伺える。
中休みと昼休みはできるだけ寝かせてあげて、放課後までにはコンディションを戻して貰おう。今日は体育がなくて本当に良かった。
ツメの心配はもうしていない。鳥路さんが徹夜して仕込んだんだ。俺はそれを信じる。あとは、もう、鳥路さん次第だ……!
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




