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第3話 ファーストスシストライク③

前回のあらすじ:

女の子が大将の握りの技術をディスった。大将はキレた。


◆◆◆


「私は事実を言っているだけ。あなたの握りは速度を優先し過ぎてシャリが固くなってしまっている」


「お前に握り方の何がわかる! 握り技術こそ寿司屋の宝! これで俺は十年やってきたんだ! 素人が適当なこと抜かすんじゃねぇ!」


 女の子の言葉に大将がさらに激昂した。


「シャリはおにぎりじゃない。素人でもわかる」


「偉そうに言いやがって! お前は俺より上手く握れるって言うのかよ!」


 無理だ。寿司の修行には何十年も掛かるはず。俺と同じぐらいの子ができるはずがない! この大将、大人げって奴がない!


「寿司は争いの道具じゃない。でも、あなたが満足するなら……握るわ」


 女の子はまるで忍者か特殊部隊のような身のこなしでカウンターを飛び越えて調理場に入る。す、すごい。

 大将もまさか女の子が握ると言うとは思っていなかったのか、その様子を驚きながら見守ることしかできないようだ。

 いつの間にか店内のお客さんと店員がカウンターに集まってきている。それらを掻き分けて母さんが俺達のところに来てくれた。


「二人とも大丈夫!?」


「う、うん辛かったけど、このわさびなら好きになれそう」

 

 輝理もようやく落ち着いたのか本わさびの印象を俺達に伝えてくれた。


「俺も大丈夫……それより、何が起きてるんだこれ」


 ギャラリーは騒いだりこそしないが、その目は真剣そのもの。女の子が握る姿がそんなに良いのか? いや、女性もそんな感じだし……


「す、スシバトルだ! すげぇ!」


「こうやって始まるのか! 俺初めて見たぜ!」


「しかも女の子が挑むんでしょ! 応援しなきゃ!」


 す、スシバトル!? なんだそれ!?

 謎の単語に脳が混乱したが、それよりも女の子が動き出した。

 流れるような動きでマグロのサク? が寿司ネタ用に切り分けられる。この時点で只者では無いと俺でもわかった。 

 シャリの入った桶を見て顔をしかめながら、諦めたようにサッと当たり前のように一貫分取る。ここでギャラリーが盛り上がり、大将が目を丸くする。


 そこからはもう、すごいという感想しか出なかった。

 

 まるで洗練された舞のような動作でネタとシャリが一つになり、無駄のない動きの一つ一つに意味があるように寿司が形になっていく……そして寿司げたの上には芸術品と思えるぐらいに形が美しい、少なくとも大将の握った寿司とは比べ物にならないほど綺麗に握られた寿司が置かれていた。ギャラリーを黙らせるほどのその寿司からは目に見えない不思議な力が込められているような感覚すらあった。


「ば、バカな!? こんな子供が!? な、な、何が起きている!? こんな職人、聞いたことがないぞ!?」


 大将はその寿司から発せられるプレッシャーに怖気ついたかのように腰を抜かしながら驚愕する。


「君」


「……え!? 俺!?」


「味覚が鋭そうだし、さっきマグロも食べていたから比較できるでしょ。食べてみて」


「はいぃ!? そ、そうだけどさ!?」


 傍観者気分だったが、突然の女の子からの指名に変な声が出た。

 ギャラリーの視線が俺に集まる。もう何なんだよこの空間!

 これでまずかったらどうすんだ……ええっと、ネタに醤油が塗られているからこのまま行ける感じか。てか俺の一言で全部決まるのか? 


「ど、どうなっても知らないからな!」


 俺は寿司を目を閉じながら女の子の握った寿司を口に入れた。


 マグロの味だ。少し噛むとシャリがふわっと口の中でほぐれ、寿司酢の酸味と甘み、わさびの甘みが絡み合い、醤油の塩気も加わってマグロの旨みがさらに引き出されていく。そして、全てが一つになると爽やかなわさびの香りが鼻を抜け、気づけば俺はそれらを無意識のうちに飲み込んでいた。


「う、うまい! うまいよ! すごい! 同じ素材で作ったのに!」


 何と拙い感想かと言った自分が驚くほど。しかし、余計な言葉でこの美味さを誤魔化したくなかった。何より、この店に来てようやく美味い寿司を食えた感動で俺は喜びで胸が満たされ、笑顔になっていた。


「美味い寿司は人を笑顔にするもの……私の勝ちね」


 女の子のその言葉が大将の心に突き刺さったのか大将は床で項垂れてしまった。


「俺の……負けだ……! 」

 

 ギャラリーが沸き立つ。冷静に考えて何だこの空間? 俺達家族が普通じゃないみたいじゃないか。


「スシバトルの敗者は勝者の言うことを何でも聞く……嬢ちゃん、何が目的だ?」


 そんなルールまで?


「ランチだからと手を抜いているなら心を入れ替えてほしい。それとも夜もこの程度? 次は夜に来る。美味い寿司を握って」


 女の子はそう言って再びカウンターを飛び越え、流れるように財布からランチ代のお金をカウンターに置いて店を出ていった。


「……完敗だ……俺も腕が落ちていたってわけか。お客の皆様! 今日のお代は頂けねぇ! あとしばらく店は休みにする! 次、開いた時は必ず美味い寿司を提供する! 本当にすまなかった!」


 あれだけ横柄だった大将とは思えない誠実な対応。いや、無料だからそう思ったわけではなく、大将の顔から何というか憑き物が取れたというか……


「お嬢ちゃん、怒鳴ったりして済まなかった。俺は大事なことを忘れちまっていたよ。集客やらコスパやら……美味い寿司を握れてから考えるべきだった」


 妹に深々と頭を下げ謝罪する大将。本当に同じ人間か?


「え、あ、はい。その、そんなに味とかわからないけど、美味しいお寿司が食べれるならいつでも歓迎です!」


 ギャラリーが大将の新たな門出を祝うように拍手をする。母さんも何故かその中に加わっていた。これで全て、丸く収まった……ってことか。



 で、スシバトルって何なんだよ!?



◇◇◇

ファーストスシストライク おわり

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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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