第27話 スシバトルクラブ③
前回のあらすじ:
スシバトル部の副部長を鳥路さんが連れてきちゃった。
◆◆◆
家庭科室の備品の湯呑みに司先生の私物のほうじ茶のティーバッグでお茶を淹れ、広い家庭科室の一つのテーブルを五人で囲むように座る。なんだこの空気……
敵地に乗り込んできているとは思えないほど落ち着いており、出されたお茶を啜る松風先輩。姿勢とか所作とかから名家の格を感じる。
「松風さん。今年受験なのにスシバトル部なんかで遊んでいて大丈夫なの?」
沈黙を破る形で司先生が敵意を隠さずに松風先輩に話しかける。
「夏までに終わらせて受験に集中しますから安心してください、先生」
何を終わらせるんですか先輩。
水面下で見えないはずのバチバチが可視化されたかのような空間、一般人の俺と賀集さんは黙ってお茶を啜って見守るしかない。いや、賀集さんは知り合いなんだからもっと会話に花を咲かせても良いのでは?
……鳥路さんは鳥路さんで二人の顔を何往復も見てアワアワしている。スッシー友達同士がなんかバチバチしてるし、片方からはスシバトル申し込まれたりして混乱しているのだろう。
それにしても松風先輩はどうやって鳥路さんに接触したんだ? まさかスッシーを餌にして近づいたのか? 油断ならな……いや、違う! 松風先輩のスマホのストラップがスッシーのやつだ! スッシー好きがスッシーショップでたまたま出会っちゃった感じかぁ! この寿司型首長竜のどこに惹かれるんだ女性達は!?
「あ、あのぉ……琴音さんはどうしてスシバトル部に?」
賀集さんが意を決して松風先輩に質問する。下の名前で呼ぶという事はそれなりに面識があるということだよね。
「……松風鮨のため、とだけ言っておきましょう、七津さん」
こちらも下の名前……どういう関係なんだ? 寿司屋の名店の娘さんとねこまた寿司ファンガールって寿司ぐらいしか接点なさそうだけど……
「……まだお父さんと喧嘩をしてるの?」
「喧嘩など。話にすらなっていませんよ」
全身を蝕むような鋭く重みのある言葉。
松風先輩からドス黒い感情が一瞬、一瞬だけ溢れ出した気がする。
その笑顔の裏に一体何が隠されているんだ……
隣に座っていた鳥路さんもその負の感情に気付いたのか、少し身構えながらスシバトル中の鋭い目付きで松風先輩の様子を伺っている。
「……そうでした、スシバトルのお話でしたね。鳥路さんの得意な形式で勝負しましょうか」
優しく鳥路さんに微笑む松風先輩。さっきのは何だったんだ……
「私はスシバトラーじゃない」
「丸中寿司、鮨番長、大黒寿司、成金寿司、鮨処うおめ……他数店舗でスシバトルをされていると聞いていますが? あとは栄寿司の娘さんと留学生のサブリナさんともやってましたよね?」
目を逸らす鳥路さん。どんだけ寿司屋で暴れてたんだこの人!
「北海道から関東に越してきて浮かれて寿司屋巡りしていたらハズレばっか引いてキレてただけで本人はそれがスシバトルだと知らなかったらしいわよ」
司先生がフォローを入れる。鳥路さんの顔が赤くなっているので事実らしい……やっぱり我が校のクレーマーって鳥路さんのことだったんじゃ……
「いるんですね……本物」
「耳を疑ったけど事実よ……ナチュラルボーンスシバトラーってところかしら」
松風先輩と司先生の話を聞いて賀集さんが少し引いてる。俺もだけど。
それにしても本物か……まるで偽物のスシバトラーいるかのような言いっぷりだな。
「では、食材指定あり、調達自由、投票制の勝負にしましょうか。確か基本的なやつですよね? 時間は三日後の金曜日の放課後にここで良いですか? 審査員は集まった学生や教員にお願いしましょう」
ルールって変な英語の羅列だけじゃないんだ。それとも松風先輩もそこまで詳しくない?
司先生が頷いたということは松風先輩の言う通りオーソドックスなルールなのだろう。
「食材は……四月の旬、そうですね……シャコはどうでしょうか?」
人差し指をピンと立てて提案する松風先輩。シャコって、あれか? パンチがすごいやつ。
「スッシー友達とスシバトルなんて……」
食材というよりスシバトルそのものに乗り気じゃない鳥路さん。
「スッシーも言っていたではありませんか。友達でも勝負は真剣に、手心は不要、と」
スッシーってそんな殺伐なこと言うの? と言うか喋るの?
「……わかった。そのスシバトル、受けるわ」
鳥路さんが少し考えて同意する。喋るんだ、スッシー……
「……シャコ? しまった! 待ちなさい鳥路さん! 食材は考え直しなさい!」
「え!?」
司先生が慌てて止めに入る。シャコだと何かまずいのか?
「いえ、勝負は成立しました。一度始まったスシバトルを止めることはできません」
もうスシバトルが始まっている!? 調達自由でシャコを自分で用意しなきゃいけないからか!?
鳥路さんは何がダメなのか分からず突然司先生が止めたことに困惑している。それは賀集さんと俺も同じだ。
「鳥路さん。私は勝ちに来ています。ここであなたに勝てば本懐を果たすこともできるでしょう。では、三日後に」
松風先輩はほうじ茶を飲み干し一礼してから家庭科室を出て行った。
「まずいわね……松風さんがここまで本気だとは……油断していたわ」
悔しそうに拳を握りしめる司先生。
シャコの寿司……一体どんな罠が仕組まれているんだ?
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




