第23話 フーイズスシオケマスク?⑥
前回のあらすじ:
寿司桶仮面が好き勝手して帰った。
◆◆◆
翌日の学校。授業中も寿司桶仮面の正体で頭の中が占有されていたけれど、放課後になる頃にはもうどうでも良くなっていた。現実で謎の味方に助けられるという貴重なイベントを体験できたことを素直に喜んでおこう。正体を知らない方が良い時もきっとある。
「山本くん」
「うおっ! な、何? 鳥路さん?」
ぼーっとしてるところを鳥路さんに話しかけられてびっくりした。
「17時に家庭科室に集合」
「え、うん、良いけど……」
それだけ言い残して鳥路さんは教室を出て行った。まさかの女子からの呼び出し。これは、もしかして、告白というやつでは?
……ないない。鳥路さんが恋をしているのは寿司だろうし……まぁ、もちろん家庭科室には行きますよ? 約束したからね。期待とか全然してねぇし。本当だし。
そんなことを考えながら俺はドキドキしながら教室で待機し、五分前到着ぐらいのタイミングで家庭科室へと向かった。
◇◇◇
「あ、山ちゃんもとりっじに呼ばれたんだ!」
家庭科室には先客の賀集さん。知ってた。しかし、想定外の人も賀集さんの隣に立っている。
「鳥路さんに呼ばれて来たのだけど……何が始まるの?」
司先生は少し困り顔で俺に尋ねてくる。
「いや、俺もわからないですね……」
「お待たせ」
俺達の疑問に答えるかのように鳥路さんが発泡スチロールの箱を抱えて家庭科室に入ってきた。
鳥路さんは俺達が集まっていたテーブルにその箱を置き、何も言わず中身を机に広げていく。生しらすの入ったプラ容器に……なんだこれ? ゼリー? あとはシャリの入った小さな木桶か。
「鳥路さんどうしたのそのしらす?」
賀集さんがゼリー状の何かを見ながら生しらすの調達先を尋ねる。確かに簡単に入手できるものではない。
「栄寿司から。答え合わせのお礼に譲ってもらった」
一時間ちょっとで栄寿司に行って何かしてから帰って来たのかこの人。ん? 答え合わせって……あぁそうだ、生しらすの握りにポン酢をかけるにはどうするかって話か! 寿司桶仮面で今の今まで忘れていた。
「と、鳥路さん? 何を始めるの?」
事情のわからない司先生は困惑している。鳥路さんは無言で寿司を握る準備を進める。
まさか、生しらすの握りを鳥路さんが握るのか? 素人が一朝一夕で再現できるようなものじゃないと思うのだけど……
そんなものは杞憂だった。
俺はどこかで鳥路さんを侮っていた。
栄寿司の大将と同じ、いや、それ以上に見事な生しらすの握りを三貫同じクオリティで作ってみせた。
「鳥路さん、まさか見ただけで真似たの!?」
「よくやってるから」
賀集さんが驚く。俺も驚いていたが声が出なかった。
……この人はどれだけ寿司に対して熱意を抱いているんだ!?
「これが答え」
鳥路さんは琥珀色のゼリー状のものをスプーンで砕き、そっと生しらすの握りの上にのせる。鳥路さんの寿司はシンプルなものでも美しいと思える出来なのだけど……今回は半透明の生しらすに宝石のように輝くゼリーの組み合わせがよりビジュアル面の良さを引き立てている。
「合ってますか? 司先生」
鳥路さんは司先生に成否を確認する。なぜ司先生に!? 先生だけど、流石に寿司の答えは持ち合わせてないと思うのだけど!?
「……いただきましょう」
司先生は軽く両手を合わせてから、生しらすの握りを手に取り食べ始める。
俺と賀集さんも倣うように手を合わせ生しらすの握りを口に入れた。
美味い! 昨日の生しらすの握りも美味しかったけど、淡白で物足りなかった部分にポン酢の香りと味がじんわりと口の中に広がって……ああ!? そうか、これがゼリーの正体か! ポン酢のジュレとかそんなやつじゃないかこれ! 鳥路さんが作ったのか!? それにしても美味い! これは正解だと思わざるを得ない!
賀集さんも俺と同じ感想と言わんばかりに目が輝いている。
「美味しいわよ鳥路さん。お寿司を握るのがお上手なのね」
司先生は寿司を食べ終えるとにっこりと微笑む。しかし、何だろう、どこか作り笑いのような……
「こう呼んだ方が良かったですか? ……寿司桶仮面」
「え!?」
「え!?」
鳥路さんの突然の発言に俺と賀集さんが同時に驚く。司先生が寿司桶仮面!?
そんなわけ……
「どうして私が寿司桶仮面だと?」
司先生は否定しない! 嘘だろ!? あの変態が司先生なのか!?
「声」
……あの時はくぐもってたけど、よくよく思い出したら司先生の声だった気がする。あと、着ていたスーツとかも同じやつだった気もしてきた。流石に寿司柄のネクタイはつけていないけど……
寿司桶仮面は鳥路さんのフルネームを知っていた。北海道から引っ越してきたばかりの鳥路さんを知る人物は少ない。自ずと知っている人の範囲は絞られるが……まさか自分のクラスの担任とは……
「何が目的なの鳥路さん。まさか教師を脅迫しようとでも?」
訝しむ司先生。雰囲気が普段と違う! ちょっと怖い!
鳥路さんは司先生の変化にも動じず……頭を下げた。
「……寿司同好会の顧問になってください」
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◇◇◇
こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




