第22話 フーイズスシオケマスク?⑤
前回のあらすじ:
寿司桶仮面がインタラプト。
◆◆◆
「寿司桶仮面!?」
「何者だ!? こんなのスシバトルガイドブックに載ってないぞ!?」
「しかし、このスシ圧……只者じゃない!」
ギャラリーすら存在を知らない寿司桶仮面。困惑しているのが俺だけじゃなくて良かった。
当然、大将も女将さんも知らなそうだし、賀集さん、根木さん、サブリナさんも知っている感じではない。ただ一人、鳥路さんだけが困惑ではなく驚愕の表情を見せていた。知っているのか!? 鳥路さん!?
「だ、ダサい……」
知らなさそうだ。いや、まぁ、そこは同意するけども。頭の寿司桶に対しその下は普通の女性用のスーツっぽいのでギャップが酷い。でも、その寿司ネクタイはどこで売ってるんだ?
「な、何が寿司桶仮面だ! この痴女め!」
「スシバトルの邪魔をする気か!?」
クレーマーの女子生徒達が正論と言いがかりを寿司桶仮面にぶつける。
「隙だらけのロジックでスシバトルのエントリーを成立させようとする愚かなスシバトラーよ、聞くが良い」
すごい。会話が成立しない。
「情けないレスバで枕を濡らす夜もあるのだろう。そう、まるで効き過ぎたわさびの辛味に耐えられない涙腺のように……辛味といえばわさびやからし。別の香辛料として認識されている二つだが、その辛味成分は二つとも同じアリルイソチオシアネートだと判明している。鼻がツーンとするのは揮発性が高いこの成分が原因だな。同じ辛味成分であるのにも関わらず、我々はわさびとからしの辛味を区別することができる。それはなぜか? 答えはわさびに含まれる6−メチルチオへキシルイソチオシアネート。グリーンノートと呼ばれるわさび特有の香りを構築する成分だ。とはいえ、わさびとからしは原材料も成分も異なるのでそれだけが差ではないだろう。しかし、一歩間違えれば寿司にからしを使う世界線もあったかもしれないな。ところで、揮発性が高いと言うことは熱いものにわさびやからしを使うと湯気で効果が加速することを意味している。刺激の足りない日々に飽きていた学生時代の私は熱々のおでんの大根にからしをたっぷりつけて食べようとした。必然的にむせる。むせた結果、鼻の穴にからしが入ってさらに悶絶した。わさびもからしも適量が一番。私はこの一件で大人になったね……今だ! 鳥路英莉!!」
「え!?」
完全にその場にいる全員が寿司桶仮面のペースに飲まれていた。鳥路さんもその一人だったのにいきなり話を振られたせいで声がやや裏返っていた。
あれ? 寿司桶仮面はなんで鳥路さんのフルネームを知ってるんだ?
「わ、わさび!? 大将少し頂戴!」
「お、おう!」
大将が鳥路さんにわさびが載せられた小皿を差し出す。鳥路さんはわさびを手に取り、瞬時にクレーマーの女子生徒達の元へ接近。女子生徒達がその速さに驚きの声をあげる前に、鳥路さんは彼女達の鼻の下にわさびを塗った。
「ぐわああああ!?」
「鼻が! わさびがぁ!」
揮発性の辛味がクレーマーの女子生徒達を襲う!
「く、くそ! 覚えてろよ栄寿司! 鳥路英莉!」
「スシバトル部は絶対に負けない!」
クレーマー達はテーブルにお代を置いてから、逃げるように店を出て行った。
スシバトルはなんとか回避できたようだ……寿司桶仮面のおかげと言いたくないけど、きっかけは間違いなく寿司桶仮面だ。
「ふっ、流石だな鳥路英莉」
「え、あ、はい」
「先程の生しらすの寿司……ポン酢を固体にすれば解決するぞ」
「え?」
「では、さらばだ!」
寿司桶仮面はマントがないのにマントを翻すような動作を取り、早足でお店から出て行った。
静まり返る栄寿司。
多分全員が思っていると思う。
何だったんだこの時間は、と。
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




