第20話 フーイズスシオケマスク?③
前回のあらすじ:
根木さんの実家である栄寿司で試食会をすることになった。
◆◆◆
栄寿司。桶ヶ丘高校から結構近い場所にある昔からやっているお寿司屋さん。根木さんのご両親が経営されていて地域住民にも愛されているお店とのこと。値段はそこそこ、それでも高級志向という訳ではなく安くて美味いがモットーらしい。栄寿司までの道のりで根木さんと賀集さんの話をまとめるとそんな感じだ。サブリナさんもその辺りは初耳だったっぽい。よく即決できたな……
「親父帰ったぞ」
「おお、登緒子帰ってきたか。ん、友達も一緒か? いらっしゃい! 鳥路の嬢ちゃんはもう来てるぞ!」
根木さんのお父さんはザ寿司職人という感じ。根木さんが男だったらこうなるんだろうなぁという印象を受ける。そして、既にカウンターに座って寿司を食っている鳥路さん。身体能力もそうだけど体力もすごいな……学校からここまで走ってきたとは思えない涼しげな表情がそれを物語っている。
「あら、登緒子のお友達? 学生さん向けのお得なメニューもあるから、ゆっくりしていってちょうだいね」
根木さんのお母さんはお淑やかな女性といった印象。根木さんはどちらかというとお父さん似かな。張り紙には確かに桶ヶ丘高校の生徒特別メニューが書かれている……少しお小遣いをやりくりすれば定期的に通えそうなラインの価格帯だ。
大人のお客さん達に混ざって桶ヶ丘の制服を着たお客さんもちらほらいる。結構学校でも有名なお店だったのか……無知は罪だなぁ。
「大将! 女将さん! 今日からよろしくお願いしマース!」
「おうサブリナちゃんよろしくな! 登緒子! 更衣室行って制服着させてやってくれ!」
「ういよ、サブリナこっちだ」
根木さんとサブリナさんはお店の奥に行ってしまった。
ニコニコしてこちらを見る女将さん……ああ! 名乗ってない!
「あ、山本葵です! 根木さん……じゃない! 登緒子さんの友達です。日は浅いんですけど……」
「あら男の子の友達! あの子も色を知る年頃なのねぇ……」
根木さんのお父さんの目が光った気がする。同性から敵視される機会が日に日に増えているような……
「あの、いえ、本当に普通に友達なんです、はい。信じてください」
とりあえず友達であることを強くアピールしておいた。大将の眼光が弱まった。
「お久しぶり女将さん!」
「あらぁ、なっちゃん! 久しぶりねぇ! ねこまた寿司も良いけどウチもご贔屓にね!」
「あはは……今後はそうなるかなぁ」
賀集さんと女将さんは顔見知りか。根木さんも賀集さんを知っている感じだったし、親同士で付き合いとかでもあるのだろうか。
そして賀集さんの視線の先の鳥路さん……なんか目が輝いてないか?
「大将、皆来たし例の試作品を」
「お、そうだな。なっちゃん、山本くん、こっちに座ってくれ」
大将に呼ばれ、鳥路さん、賀集さん、俺の順でカウンター席に座る……カウンター席に座ると大人になった気分になるな。
あと、鳥路さんはてっきり先に試作品を食べているものだと勝手に思っていた。
大将が寿司を握り始める。やはりベテラン。手慣れているし握るスピードも早い。
でも……鳥路さんの方が早いな。さらにそれより早かったスシバトル部の部長さん……どうなってるんだうちの高校は。
「へい、生しらすの握り! そのままどうぞ! お代はいらんぜ!」
そういって大将が差し出してくれたのは生しらすの握り……そう、軍艦巻きじゃなく握りで来た。この手のネタは軍艦巻きが普通のはず。しかもこの握りずらそうな生しらすで綺麗に握られている。ひょっとして根木さんのお父さんは凄い職人さんなのでは?
「なるほど。生しらすの繊細な味わいを海苔が邪魔をしないように敢えての握り。試作品の段階でこれほどまでの完成度……流石栄寿司の大将」
「へへ、鳥路の嬢ちゃんに褒められると嬉しいねぇ!」
本当に仲良いな。一週間ぐらいで常連みたいな雰囲気って出せるものなんです?
「いただきます!」
「あ、いただきます!」
賀集さんに遅れていただきますをして、しらすの握りを頂く。
シャリと生しらすが口の中でほろりと崩れ、ほのかな甘みと海鮮の味わいが見事に酢飯とマッチする。生しらすの鮮度が良いのか旨みがひたすらに強い。
「美味しい!」
「う、美味い! 美味いですねこれ!」
賀集さんと俺がほぼ同時に味の感想を述べる。
栄寿司……家族にも共有しておくべきお店だな。
鳥路さんは……すごく難しそうな顔で悩んでいる。即答するタイプだと思っていたけど、言葉を選ぶこともあるんだなぁと。
「美味しい、けど……生しらすの寿司としてはというだけで……寿司として、弱い……!」
寿司として弱い。あまり使わない単語の組み合わせだけど言わんとするところは何故か理解できてしまった。
「ううむ。三人とも美味いのは共通してるか。だが、やはりパンチが弱いな」
大将も弱点を把握していたらしく鳥路さんの言葉にそれほど驚いた様子を見せなかった。
「ポン酢で味付けしてみてはどうですか?」
賀集さんが改善点をすぐに出す。なるほど、相性良いよな生しらすとポン酢。シャリの酢とは違う爽やかな酸味はしらすを引き立ててくれそうだ。
「そうなんだが……ポン酢を強くしようとすると崩れるんだよな生しらすが」
「ああ……なるほど」
かなりデリケートな握りだ。少しの水分量の変化で均衡が変わってしまうのだろう。
「これでも全然問題ない。でも、大将ならもっと上に行ける……!」
鳥路さんも解決策を出すのに悩んでいたようだ。
四人でうーんと悩んでみるもサッと答えは出てこない。俺に至ってはほぼ素人、いや、この三人全員素人だったわ。
答えが出ないのは仕方ないと言えばそうだけど、折角ご馳走になったわけだし、何かお手伝いしたい気持ちはある。
寿司同好会(仮)の初仕事になるかもしれないぞ、これは……
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




